スザクが、じっと見つめてくる。
瞳の色を確認しているのだろう。
行動の意味を理解できても感じてしまう居心地の悪さにルルーシュは苦笑してスザクを見た。
「スザク、どうした?」
「あ、いや・・・」
なんでもない。
そう呟いて彼は顔を背けた。
傍には放心状態のシャーリーがいる。
彼女が何かに苦悩し、ビルから飛び降りようとしたのをスザクと共に助けた。
彼と手を取り合って何かをするなど、本当に久しぶりだった。
スザクが何か言いかけてやめる、というのを繰り返しているから、首を傾げたルルーシュはスザクの顔を覗き込んだ。
「言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうだ?」
「・・・・・・・・・君は、ルルーシュ?」
「ゼロのことを言っているのか?ほら、俺の目を見ろ。何色だ?」
「・・・紫。」
「じゃあ俺だ。」
ゼロの瞳は深紅。
そう説き伏せてもスザクはどこか納得していない様子で、ルルーシュは静かにため息をついた。
その時、鳴り響いたのは電子音。
震えたのはルルーシュの携帯だ。
ルルーシュは画面に表示された名前を見てから、スザクとシャーリーに断りを入れて立ち上がる。
少し離れた場所で通話ボタンを押した。
「ロロか、どうした?」
『ごめんなさい、緊急事態で・・・』
「いいよ。それで?」
『咲世子さんが襲われて、大怪我を・・・』
「・・・なに?」
声を低くしたルルーシュに、背後のスザクとシャーリーは眉を顰めた。
それを気にしながら、ルルーシュはなるべく平静を装う。
「それで・・・」
『襲撃してきたのは、一年前スザクさんがクロヴィスお兄様殺害容疑で捕まった時に失脚した純潔派のジェレミア卿です。お兄様を狙っているんだと思います。』
「・・・わかった。」
『今ロロもそちらに向かっていますので急ぎ合流してください。ゼロお兄様はどこかに出かけていらっしゃいますがこちらから連絡を取ってみます。』
「じゃあなるべく早く帰るよ。」
『お気をつけて。』
通話を切ったルルーシュはスザクとシャーリーに向き直って微笑んだ。
「悪い、ロロがちょっと。」
電話の相手はナナリーだった。
しかしそれをスザクに知られるわけにはいかない。
あらかじめナナリーに電話番号は教えているが、もし自分以外に誰かがいる場合はナナリーのことを『ロロ』と呼ぶという取り決めを作っていた。
そうすることでナナリーも状況が判断できる為会話がかみ合っていなかったとしても問題ない。
ともかくとして、ルルーシュは今起こっている状況を組み立て、己がどう動くべきかを考える。
黙ってしまったルルーシュをスザクは睨んだ。
「本当に、ロロ?」
「何を言うんだ、いきなり。」
スザクは怪訝そうに眉を顰めながら立ち上がる。
電話の相手がナナリーなのではないか、と疑っているのだろう。
「オーブンの調子が悪いらしくて、ロロが泣きそうな声で連絡してきたんだ。早く帰らなくてはいけなくなったから悪いが俺はこれで」
「待て」
スザクが素早くルルーシュの腕を掴む。
ギリギリと強い力を受けてルルーシュが顔を顰めた。
「今、君の『兄』は?」
「ゼロ?そうだな・・・この時間なら夕食の買出しに出ているかもしれない。」
何度かさり気無く振りほどこうとした腕はしっかりと押さえられ、ルルーシュは身動きが取れない。
手が痺れてきて、この馬鹿力がと内心悪態をついた。
「スザク、一体どうし・・・」
「僕もいくよ」
「なんっ・・・」
枢木スザクではない。
帝国を守り、ゼロを捕まえんとする・・・ナイトオブセブンの表情。
ルルーシュが息を呑む。
逃げ出す口実とルートを脳内で構築し、今の条件と照合して条件をクリアできるものを探す。
早鐘を打つ心臓がうるさい。
しかしやがて。
痛いくらいに握られた部分に、他の手が重ねられる。
シャーリーが少し怒ったような顔をして、すぐ近くに立っていた。
「スザク君、ルルはただでさえ細いんだからそんなに力入れたら折れちゃうよ。」
意地の悪い笑みを浮かべて、シャーリーがスザクの手を絡め取っていく。
「スザク君は私が呼び出したんだからルルについて行っちゃ駄目。私に付き合ってくれなきゃ。」
「シャーリー!?」
「ルルも何か用事があってここにきたんでしょ?早く済ませてロロのところに行ってあげて。」
「あ、ああ・・・悪いスザク、また今度な。」
ルルーシュは走って、あっという間にその場に残されたスザクとシャーリーの視界から消えた。
ふふっと笑ったシャーリーにスザクは瞠目する。
「あーあ、あんなに走っちゃって。きっとすぐへばっちゃうんだから。」
スザクの手を握って、シャーリーは立ち尽くした彼の顔を覗き込んだ。
スザクは呆けていて、やがてシャーリーを見ると視線をふっと逸らす。
「眉間に皺、寄ってるよ?」
「シャーリー・・・君は」
「私はルルが好き。」
スザクは思わず絶句した。
だって彼は君の父親を。
そう言いかけて慌てて口を噤む。
それはただの学生であるはずの彼女は知らないことだ。
しかしそんなスザクを見てシャーリーは何かを悟ったようだった。
「スザク君、知ってるんでしょ?ルルが今・・・ううん、一年前から何をやってたか。」
「・・・君は」
「だからルルを捕まえたくて、でも捕まえたくないんだよね?」
友達だもんね、とシャーリーは微笑む。
「私もルルが好き。スザク君もきっとルルが好き。」
「・・・俺はルルーシュを赦せない。」
「それはスザク君の主のユーフェミア様が殺されたから。だからスザク君はルルを赦しちゃいけないと思ってる。赦したらユーフェミア様に申し訳がたたないんだよね。でももしかしたら・・・ユーフェミア様はルルのこと、赦してるかもしれないよ?」
「何でそう言える?」
スザクの声音は硬かった。
威嚇するような目線にも、シャーリーは怖気づかない。
「だって・・・ルルとユーフェミア様は血が繋がってるんでしょ?ナナちゃんと兄妹ならルルも皇族だもの。だから・・・」
「だからってユフィがルルーシュを赦しているとは限らない!」
「そうだね。だからユーフェミア様がルルを赦していないとも限らないの。」
スザクは固まった。
亡き主のことを思う。
優しい人だった。
人を憎むことを知らない、『慈愛』そのもの。
彼女はルルーシュを憎んでいるだろうか。
もし、彼女がルルーシュを赦しているのに、騎士である自分がルルーシュを殺してしまったら。
そう考えて思わず身震いした。
「スザク君は赦せないんじゃないの。赦したくないだけなんだよ。」
「シャーリー・・・君はルルーシュの事を・・・」
「私?私はね・・・うん、大好き!」
憎くないよ、ふわりと微笑んだ時。
耳を劈くような爆音と人々の悲鳴が響いた。
次回はきっと残念な展開になります。
2011/10 加筆修正