バンッ、と耳を劈くような音がなる。

それはドアを乱暴に開け放ったような音で、やがてその発生源がクラブハウスのドアであることに気付く。

バタバタと階段を駆け上がる音。

そしてもう一回、ドアの音。

肩を荒く上下させて、スザクはドアの向こうの者たちを見た。


「ど、どうしたんだスザク・・・そんなに慌てて。」


ルルーシュはダイニングテーブルに夕食を並べているところだった。

ピンクのエプロンを纏ったルルーシュの横に、ブルーのエプロンを纏ったゼロの姿もある。

ゼロが口元をひくつかせた。


「枢木、いくらルルーシュの友人といえど最低限のマナーは弁えたらどうだ?」

「彼女はどこだ・・・!」

「は?」

「彼女はどこだと聞いている!!!」


スザクが声を荒げた。

彼女。

それが誰のことか分からないといった風に首を傾げて、ルルーシュとゼロは顔を見合わせる。

スザクは苛立ったように駆け出した。

ルルーシュの部屋のドアを開け、ロロの部屋のドアを開け。

トイレ、シャワールームまで。

何かを探すようにクラブハウスの中を走り回るスザクの肩をゼロが掴んだ。


「いい加減にしてくれないか」


冷めた深紅の双眸がスザクを射抜く。


「これ以上はプライバシーの侵害だ。可愛い弟達のそれが暴かれるのを兄としては黙って見過ごすことは出来ない。」

「・・・お前が」


スザクが呻く。


「お前が総督を奪ったんだろう、『ゼロ』!!!」


パンッ

乾いた音が響いた。

熱を持つ頬に手を添えて、呆然とスザクが顔を上げる。

ルルーシュが、睨んでいた。


「る、るるー・・・しゅ」

「俺の兄であるゼロを『ゼロ』扱いするなら、俺はお前を許さない。」


先ほどとは違う色。

見慣れたはずの濃紫が向けられる。

スザクは息を呑んで、やがて「頭を冷やしてくる」と言い残してクラブハウスを去っていった。

静かに息を吐いたルルーシュの耳に、バチバチという音が届く。

ゼロが拍手していた。


「迫真の演技だな、ルルーシュ。」

「あれは・・・その・・・」

「無自覚か?いいアドリブだったよ。」


スザクがここへ来ることはあらかじめ予測済みだった。

ナナリーが攫われたとあればスザクはすぐにでも行動を起こしただろうし、まず問い詰めに来るのは『ゼロ』だと疑っているルルーシュかゼロ。

だからこそある程度のシナリオを用意していたのだが、必要なかったなとゼロは笑う。


「事実、私は『ゼロ』なのにな。」

「俺も、だ。」

「そうだな。私たちが『ゼロ』だ。世界を壊す、奇跡の記号。」


ゼロはダイニングテーブルの上の料理を大き目のトレーに乗せていく。

食事はここでは摂らないからだ。

食事は『ダミー』の方で摂る。

ナナリーと、ロロと。

家族四人が揃って。


「いくぞ、ルルーシュ。ナナリーとロロも待っている。」

「・・・ああ。」


人を傷つければ自分も傷つく。

手にジンジンと伝わる痛みと熱に、ルルーシュは目を閉じた。















「もう、枢木の憎悪はルルーシュにではなく私に向けられ始めている。」


同じベッドで。

隣で眠るルルーシュがぬくもりを求めて擦り寄ってくる。

その髪を撫でながら尚もゼロは一人呟いた。


「枢木の中で『ゼロ』はルルーシュではなくなってきている。」


それはきっと、誰よりも彼自身が望んだことなのだろう。

国家の、自分の敵がルルーシュであってほしくない。

だから一年前確かにルルーシュを売ったはずなのに、突如現れた『イレギュラー』を『ゼロ』として認識し始めた。

それでいい。


「私が背負えるものは・・・私が、全て・・・」


例えそれをルルーシュが望んでいなくても。










私がゼロだ、とか言ってたら「俺がガンダムだ」を思い出してしまった


2011/10 加筆修正