朝日が眩しくて目を開けると、隣に眠るのは愛しい片割れで、ゼロは慈しむようにその髪を撫でる。
今日は、大変な一日になる日だ。
大事なものを取り返す日。
きっと彼は俺も、と言って行きたがるだろうから、本当にそうなってしまったらギアスで眠らせようと心に決める。
シャワーを浴びるために寝室を出てシャワールームに向かう。
そこにあった鏡にそっと触れて、顔を撫でる。
映るのが自分の姿だとは思わない。
護ると決めた弟の顔だ。
シャワーを浴びて汗を流したあと、髪や身体を充分拭かないままタオルを肩にかけてシャワールームを出た。
冷蔵庫から取り出した水のペットボトルのキャップを外し、一気に煽る。
火照った身体にはその冷たさが心地よかった。
改めて片割れの寝顔でも観察しに行こうかと思ったところで、ふと人の気配を感じた。
眼を細めてエントランスの階段を下りる。
「きゃっ・・・!」
小さく響いた悲鳴。
気だるそうに前髪をかきあげた動作のまま視線を送るとそこには学生服の女性が二人。
アッシュフォード学園生徒会。
ミレイ・アッシュフォードとシャーリー・フェネット。
「もールルちゃんたら!いくら寛ぎモードだからって、レディの前に裸とはどういう了見?」
「はいはい、すいませんね。」
ふわぁっと大きな欠伸をして、階段を降りる。
成程。
2人の同窓を見て得た感情をそのまま汲み取った。
ルルーシュも罪な男だ、と心の内で笑った。
「で、何か用ですか?」
「ねぇ、ルルちゃん。」
そっと、ミレイが手を伸ばしてくる。
その手は真っ直ぐ顔に向かって、目元を撫でるように触れた。
「あなたの目、こんな色だった?」
「ほぅ・・・ちゃんと気付くか。中々優秀だな。」
気付かないほうが本来どうかしているのかもしれない。
思い出したのは裏切りの騎士。
彼はわからなかった。
「ゼロ!」
声が響く。
階段の上に、顔を真っ赤にしたルルーシュが立っていた。
ミレイとシャーリーは驚いて、ええ!?と叫ぶ。
ゼロはくるりと身を翻してミレイの手から逃れると、両手を広げて苦笑する。
「誤解だ。私にはお前だけだよ。」
「そんなことを言ってるんじゃない!」
「会長!ルルがふた、ふたり・・・!!!」
シャーリーが指を指してわなわなと震え上がるのを楽しそうに見つめているもうゼロは、タオルで髪を拭きながらまた一つ欠伸をした。
「すいません、会長。シャーリーも。」
後から来た、本物らしいルルーシュは階段を駆け下りて走り寄ってきた。
「ルルちゃん・・・どういうこと?」
「えーっと・・・」
本物のルルーシュはちらりと視線を送ったあと、ため息を吐く。
「双子の兄です。」
「ゼロ・ランペルージです。いつも弟がお世話になっているようで。」
「双子!?」
2人にとっては寝耳に水の情報だろう。
はぁ〜っと大きく息を吐いた二人に、ルルーシュは苦笑した。
この時ばかりは、ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけブリタニア皇帝のかけた記憶改竄のギアスに感謝せざるを得なかった。
ヴィ家の後見であったミレイに本来の記憶があったのなら、そんなはずはないとすぐに疑っていた事だろう。
ルルーシュの密かな安堵を知らないミレイはルルーシュとゼロの顔を見比べてまた大きく息を吐く。
「私絶対ルルちゃんみたいなのはこの世に2人といないものだと思ってたのに、2人いたわ。」
「大袈裟ですよ、会長。」
ゼロは暫くそのやり取りを黙ってみていたが、やがてルルーシュに何か囁いた後ミレイとシャーリーに小さく会釈した。
「私はこの後用事があるのでこれで。」
「・・・ゼロ、お前・・・!俺も行くと言っただろう!」
「お前が来たら元も子もないだろう。私一人で十分だ。」
「ルル!まさかまた賭けチェス!?」
「・・・っ、・・・違うよ、シャーリー」
賭けチェスなんてものとは比べ物にならないほど危険な場所だ。
ルルーシュがまた何か言いかけて、しかしそれを遮るように先手をきったのはゼロだ。
「体調が良くないんだろう?無理をせず、私が起きろというまで眠っていろ。」
「何をッ・・・」
そしてその途端ルルーシュの膝がガクリと折れる。
「ルル!?」
「ルルーシュ!」
倒れこみそうだったルルーシュをゼロが支えて、前髪を掻き分けた額に手を置いた。
「ああ、また熱がぶり返してきたのか。だから無理をするなと言ったのに。」
「ルル、具合悪いんですか!?」
「昨晩からね。申し訳ないがこれで失礼するよ。」
ルルーシュが起きていたなら、『白々しい』と睨まれていたかもしれない。
苦笑しながらルルーシュを横抱きにして、ミレイとシャーリーに背を向けた。
次、奪還します。
ルルーシュが倒れたのは、ゼロがさり気無くアレをかけたからです。
2011/10 加筆修正