朝、目を覚ますと。
大好きな兄さんが『二人』いました。
「んなワケあるかぁぁぁあ!!!!!」
大声で叫んだロロは、そこにちゃぶ台があったならひっくり返していたかもしれないと自負した。
流石に食卓テーブルをひっくり返したりはしなかったが、勢い余ってマグカップを倒してしまった。
黒の液体がテーブルに広がって、同じ顔をした二人のうち一人が立ち上がる。
「ああ、もう。お前は何をやっているんだ。」
「ご、ごめんなさい。兄さん。」
布巾でそこを拭き、新しいコーヒーをマグカップに注いでやる。
もう一人の『兄』は静かにコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
顔のつくりは全く同じ。
眼の色の違いがなければ外見では判別できなかっただろう。
新聞を読んでいるほうの兄と、不意に眼が合う。
ふわり、と微笑んで。
「火傷はしていないな?」
ああ、反則だ。
ロロは項垂れた。
顔だけではなく、声も。
『兄』そのものの『兄』。
何とややこしいことか。
「ロロ。ゼロはこのクラブハウスで一緒に暮らすことになるから。」
「・・・ゼロ?」
眉を顰める。
それもそのはずだろう。
同じ顔が2人、というだけでも驚いてしまうのに、そのもう1人の名前が『ゼロ』であれば。
ゼロは苦笑して、手に持っていた新聞をテーブルの上に置いた。
「ロロ」
「なん・・・ですか。」
「ルルーシュはお前のことを恨んでいるよ。」
ルルーシュとロロが同時に息を呑んだ。
「な、にを・・・」
「ロロ、お前はナナリーがいなくても自分さえいればいいと思っている。だからルルーシュはお前を恨む。」
ロロが一歩後ずさって、ポケットからナイフを取り出した。
「ルルーシュ。お前はナナリーのことを考えすぎだ。」
「・・・っ!」
「一々ナナリーとロロを比べようとするからそうやって苛立つ。いくら身代わりとはいえナナリーとロロは全く別の存在なんだ。それぞれ命を持っているし、心も持っている。無理に重ねようとするから上手くいかない。」
立ち上がったゼロがゆっくりとロロに近づいた。
彼は脅えるようにナイフを構え、それを振りかざす。
ゼロは難なく手首を掴んでナイフの軌道をずらしていとも簡単にそれを奪った。
「落ち着け。」
「・・・っ!」
「だから、お互い歩み寄れと言っているんだ。ロロはナナリーじゃない。身代わりでもなんでもなく、『ロロ』という一人の人間なんだよ。」
ゼロはナイフを折りたたんで刃を収める。
それをロロに再び握らせるが、ロロは呆然としてナイフをもう一度構えようとはしなかった。
「ルルーシュ」
ゼロが静かに呼びかける。
ルルーシュは俯いていた。
「お前は、私の家族になると言ってくれたな。」
「ゼロ・・・」
「嬉しかったよ、すごく。生を受けなかった私を、兄として迎えてくれて。」
実体を与えられた、なんて。
そんな不思議な現象を信じ、心を開いてくれた。
「ロロだって、血の繋がりこそ無いが一年間お前と過ごしたんだ。本当の、弟にしてやれないか?」
「やめてください」
ロロは力なくそう呟いて、静かに歩き出した。
向かう先にはただリビングから出るドアがあった。
クラブハウスを去るつもりなのだろうと、ゼロは黙ってそれを見る。
「待ってくれ、ロロ。」
声をかけたのはルルーシュだ。
それにロロはびくりと身体を震わせて、歩みを止めた。
しかし振り返ることはしない。
窺うことの出来ない表情はどうなっているか、なんてことは容易に想像できた。
「僕がここにいるのは任務の為です。今はもう監視の意味が無くなりましたから、僕がここにいる理由はありません。」
「ロロ!」
ゼロはため息をついた。
どうしてこうも、お互い不器用なのかと。
お互いに本音を言い合えないでいるのだ。
困った弟達だと、ゼロは笑った。
「私にいい考えがある。」
「ゼロ?」
「要するに求められることは2つ。ルルーシュがロロを1つの個として認識すること。ロロが自分が身代わりであるという後ろめたさから解放されること。これだけで条件はクリアだ。」
ゼロは少し考えた後、ルルーシュとロロの手を引いた。
2人をダイニングテーブルの椅子に座らせて、自らも席に戻る。
冷めてしまったハムエッグを口に含んで、2人にも「早く食べないと遅刻するぞ」と声をかけた。
結局ゼロが何を言いたいのか分からず、腑に落ちないといった様子の2人は困った様子でゼロを見た。
「それで、だ。」
フォークを持ち替えて、先のとがった部分を天に向けた。
「私がナナリーを誘拐しようと思う。」
「「・・・は?」」
「ナナリーと一緒に、4人で暮らそう。」
どうだ名案だろうと胸を張るゼロをルルーシュとロロは呆然と見つめ、その視線を受けてゼロが笑う。
「ナナリーさえいれば、ルルーシュが『ナナリーがいないのに』と苛立つこともない。ナナリーさえいれば、ロロは身代わりとしての役目を棄てて1つの個になれる。」
ロロとナナリー。
全く別の存在である双方が比べられることが無くなれば。
「でも、出来るのか・・・?ナナリーを取り戻すなんて。」
「私は『ゼロ』だぞ?それに、ロロが協力してくれるなら心強い。」
「ぼ、く・・・」
「そうだ、お前の力が必要なんだよ。ロロ。」
皆で手を取り合って、家族になろう、とゼロが微笑む。
俯いたままだったルルーシュが、困ったように笑った。
「すまなかった、ロロ。」
「兄さ・・・」
「ナナリーが帰ってきたら・・・ちゃんと、1からやり直そう。」
兄と、弟として。
その言葉を受けたロロは涙を零して、ごめんなさいと呟いた。
最早本編に逆らいすぎ設定です。
ここでロロを懐柔し、ナナリー救出作戦を展開することが後に私を酷く苦しめるという結果を遺します(笑)
2011/10 加筆修正