『お兄様?』
スザクに渡された携帯から聞こえたのは少女の声。
ルルーシュはその声に目を少し見開いて、それから穏やかに微笑んだ。
これで、ナナリーという存在を知っていれば『記憶は戻った』ということ。
ナナリーを何よりも、それこそ自分の命よりも大切にしている『ルルーシュ』はナナリーに嘘をつけないという事をスザクは知っているのだ。
明らかなる罠。
構うものか。
「ナナリー」
スザクの表情が一瞬で冷たく険しいものへと変化する。
『ああっ・・・やっぱりお兄様なのですね!よかった・・・ご無事で・・・!』
「ごめんな、ナナリー。心配をかけてしまって。」
『いいんです!お兄様が生きていてくださればそれで!』
「迎えにいくから、必ず。それまで待っていてくれるか?」
『・・・っ・・・はい!!』
携帯のボタンを押して会話をやめたルルーシュは携帯を返そうと振り向く。
その視線の先でスザクは銃を構えていた。
「やはり君は記憶を取り戻した。『ゼロ』になってしまった。ルルーシュ、君は僕が殺す。」
「何を勘違いしている?」
「言い逃れはよせ。」
「勘違いするな、と私は言ったぞ、枢木。」
スザクが苛立ちながらトリガーに指を添える。
「私は『ルルーシュ』ではない。私は、『ゼロ』。」
「無駄な足掻きを」
「信じないのか?」
「信じるも何も無いだろう」
「そうか、信じないのか。分からないんだな、お前には。」
くつくつと笑った『ルルーシュ』は懐から携帯を取り出す。
「動くな」
「少し黙っていろ」
ピッという音がしてから、ゼロは携帯を耳に当てた。
「もしもし、私だ。枢木がお前と話したいらし・・・あまり怒鳴るな、耳が痛い。」
『ルルーシュ』は手に持っていた携帯電話をスザクに差し出す。
怪訝そうにそれを受け取ったスザクはそれを耳に当てて。
そして目を見開いた。
『スザクか?』
そこから聞こえたのは紛れもなくルルーシュの声。
「・・・ル・・・・・・ュ」
声が思うように出なかった。
何故。
そう考えて、録音という可能性を疑った。
しかし、まるで思考を読んだようにゼロは笑う。
「録音などではないぞ。『私達』は別物だからな。」
「そんな・・・はず・・・」
『スザク!お前今何処に・・・』
「屋上・・・だけど・・・」
『待ってろ!』
ブツンと通話が切れる音がして、スザクは携帯を耳から離した。
「ルルーシュとゼロはイコールではない。どちらかといえば『近似』だ。」
「近似・・・」
「限りなく近いモノ。しかし決して同じではないモノ。」
バタバタと走る音が聞こえる。
屋上のドアが開いて、そこに姿を見せたのは息を切らせたルルーシュだった。
スザクが何か言う前に、ため息が一つ聞こえて。
ゼロがルルーシュに走りよって頭に手を置いた。
「相変わらずの体力の無さだな、お前は。」
「う、るさ・・・」
息を整えながらよろよろとスザクに歩み寄ったルルーシュははにかんで。
「悪いな、びっくりしただろう?」
穏やかな笑顔で、そう言った。
何がびっくりなものか。
スザクハそう怒鳴りたい衝動に駆られた。
『ゼロ』は一体何者なのか。
その疑問を解決するべく口を開こうとした時、それよりも早くルルーシュが口火を切った。
「会った事無かったよな?『ゼロ・ランペルージ』。俺の双子の兄なんだ。」
「何を・・・君にはナナリーしか・・・」
「ナナリー・・・誰だ?俺の兄弟は双子の兄であるゼロと、弟のロロだぞ。」
さも当たり前のようにルルーシュは言う。
それもそのはずだ。
ナナリーの存在は消し、偽りのロロという弟を据えた。
そういう記憶の書き換えを行ったのだから。
だがそこに割り込んできた、一種のノイズ。
ゼロという存在。
「こんなご時勢だからな。心配して本国から出てきたんだが・・・お前もついてないな。」
「全くだ。テロリストと名前が同じなんて、人前で名乗るときどうしても躊躇われるよ。」
もし本当にゼロがルルーシュの双子の兄弟だった場合、それを知らなければ皇帝のギアスはゼロにまでは及んでいない可能性がある。
記憶の書き換えを行っていないのならナナリーを覚えていても不思議はない。
「枢木がな、私がルルーシュだと信じて疑わないものだから。」
「そうなのか?よく見ろスザク。ゼロの瞳の色は俺とは違うだろう?見分けるポイントはそこだ。」
赤く、輝く瞳。
ギアスのような紋章もなく、ただ赤いだけ。
スザクはそれ以上何も言えなかった。
スザクは、目の前の人物はルルーシュで、自分がテロリストのゼロであると宣言していると思っています。
ゼロは、スザクの目の前にいるのが『テロリストのゼロ』ではなく『ルルーシュの双子の兄のゼロ』であるというのを前提に話をしています。
ああ、むしろこの説明が分かりにくい・・・orz
ともかく前半部のスザクとゼロの会話はかみ合っているようでかみ合っていない、ということが言いたかっただけです。
2011/10 加筆修正