「そうか、やはり気分が悪くなったか。」
考え込むように、ゼロは唸った。
初めてテレビを通してゼロの姿を見た時、吐き気に襲われて倒れたことをルルーシュは包み隠さず伝えた。
先ほどとは違いルルーシュはベッドに腰掛けるゼロの隣のスペースに大人しく腰掛けている。
「あれは私がテレビを媒体としてお前の精神に働きかけたものだ。C.C.のショックイメージと同じような類のものだが。」
「そんなことができるのか?」
「『人』として生まれ出でなかった分、色々な力が備わったようだよ。」
ルルーシュは押し黙ってしまった。
気にするな、と微笑んだゼロはルルーシュの髪をくしゃりとかき回す。
「まぁあの時はお前が私の存在を知らず、無意識に拒絶しようとしたところを無理やり割り込んだからな。身体が拒絶反応を起こしても仕方がない。」
漆黒に呑まれる感覚の正体はそれだったのかと、ルルーシュは妙に納得してしまった。
「私のその能力はお前にしか使えないし、お前が私を拒絶しない限り気分が悪くなることもないだろう。」
どこか楽しそうに言うゼロを、ルルーシュは何ともいえない表情で見る。
一日のうちに、大きな出来事が起きすぎた。
流石の自分の脳も、処理がイマイチ上手くいかない。
「ルルーシュ?」
顔を上げれば、ゼロは微笑んでいた。
同じ顔、同じ声。
何とも不思議な感じだ。
ルルーシュは今現在の精一杯ではじき出した答えを口に出す。
「やはり俺はゼロをやめない。」
「何故?」
「元は俺が始めたことだ。お前だけに背負わせるわけにはいかない。」
ゼロの唇が弧を描く。
「それは、『一緒に背負ってくれ』というプロポーズとして受け取ってもいいのかな?」
ルルーシュが顔を背けたのを肯定と受け取り、至極楽しそうにゼロはティーカップを口元に運んだ。
「ゼロ」
「なんだ?」
「その・・・」
少し言いづらそうに、ルルーシュは視線を逸らした。
何でも聞けと促せばおずおずと口を開く。
「お前は・・・俺の兄なのか?弟なのか?」
それに驚いたようにゼロは目を見開き、そんなことを気にしていたのかとぽつりと呟く。
しかしそれはゼロも考えたことがなかったらしく、しばし考える素振りを見せた。
双生児の場合、先に生まれたほうが上・・・と定める場合が多いが、ゼロが正式にこの世に生を受けていないせいでその判断がつかない。
ゼロはふっと笑った。
「どちらがいい?」
「え・・・」
「私はどちらでもいいよ。お前に兄弟としてみてもらえるならば。」
兄弟として、見てもらえるならば。
そう言ったゼロに、ルルーシュは何も言えなくなる。
己には妹がいた。
でも『生まれなかった』ゼロには『家族』と呼んでいい存在がいなかったのだ。
「俺が・・・」
「ん?」
「お前の、家族になる、から・・・」
途切れ途切れに紡ぐ言葉。
紛れもない本心ではあるものの、改めて口に出してみれば恥ずかしかったようで。
ルルーシュは真っ赤に顔を染め上げて俯いた。
「やっぱり、私が選んでもいいか?」
苦笑しながらゼロは言う。
「私はお前の、兄がいい。お前だってその方が新鮮だろう?」
妹がいて、偽りとはいえ弟もいる。
しかし兄はいないから。
「そ、か・・・そうだよな・・・」
「護るよ、ルルーシュ。私がお前を。」
契約でもなんでもない。
これは、兄としての誓い。
「愛しているよ、私の弟。」
双子の『兄』、ゼロ誕生。
次から少しずつ枢木さんが絡んでくるかも。
2011/10 加筆修正