「言いたいことはわかるさ。私は何者か、ということだろう?」
ゼロとC.C.が隠れ家として借りたマンションに、ルルーシュは連れてこられた。
家具はベッドのみ。
ゼロが淹れた紅茶は、C.C.が食べたと思われるピザの箱が積み上げられたその上に置かれている。
ピザの箱がテーブル代わりとは。
そう苦笑したのはゼロだった。
腰掛けたベッドの上で優雅に足を組んだゼロは、微笑んで目の前のルルーシュを見つめる。
ルルーシュが警戒を解くことはなく、出された紅茶に手をつけるどころか座ろうともしない。
毒など入っていないぞ、とゼロは笑ったがルルーシュは姿勢を変えることはなかった。
ゼロは紅茶を一口含み、カップをソーサーに戻す。
カチャンと食器のぶつかり合う音が木霊した。
「お前は何者だ。何が目的でそんな・・・」
「私に名はない。故に『ゼロ』。」
「ふざけるな!」
「ふざけてなどいないさ。そうだな・・・名乗るとしたら。」
ゼロの唇が弧を描く。
Zero Vi Britannia
「なっ・・・!」
ミドルネームがルルーシュと同じ、ということは母親も同じということになる。
兄弟。
「そんなはずはない!母さんの・・・」
「『バニシング・ツイン』という現象を知っているか?」
「まさか・・・お前が、それ・・・だと?」
「Yes、だ。」
バニシング・ツイン。
胎内の双生児に稀に見られる現象で、双生児の片方だけが死亡し、母親の子宮に吸収されるというものだ。
生き残ったもう一人の胎児に影響が出ることは少なく、大抵の場合普通に娩出され普通に育つ。
「私はその、『死んだ方』だ。」
「な・・・ぜ・・・」
「『何故』、か。私は死んでも母に吸収されることは無かった・・・何処に吸収されたと思う?」
ゼロは笑った。
静かに、手袋が外された白い手がルルーシュを指差す。
「お前だよ、ルルーシュ。」
「・・・っ・・・!」
死して、母であるマリアンヌの子宮に吸収されるはずだった『ゼロ』は、全く別の場所に吸収された。
それは時を同じくして宿っていたルルーシュ。
ルルーシュに吸収されたゼロはそこで過ごし、育ち、意識を確立した。
「だから、ずっとお前を見ていたよ。お前の中から、お前の全てを。」
怒り。
悲しみ。
焦りと苦悩。
そして憎しみ。
移り変わるそれらの感情に身を任せながらゼロはルルーシュを通して、世界を見た。
なんて醜い世界だ。
世界とはなんて愚かなのだとただ嘆いた。
「それが・・・なんで・・・」
「V.V.・・・と言えば分かるか?アレが私をお前から取り出し、実体を与えた。」
「V.V.・・・だと?」
「それからお前と同じ、絶対遵守のギアスを与えた。」
ルルーシュが視線を送る。
名前からしてC.C.の関係者であることは伺えた。
しかし尚もC.C.は何も言わなかった。
まだ沈黙を守るつもりか、と心の中で毒吐く。
「ルルーシュ」
「・・・なんだ」
「『ゼロ』は、私が引き受けよう。」
「・・・は?」
「もうお前は『ゼロ』でなくていい。私がお前の代わりにブリタニアを壊す。」
「何故?」
「お前は優しすぎる。お前のように、消えゆく命一つ一つに心を痛めていてはお前の心が死んでしまう。」
クロヴィス・ラ・ブリタニア。
彼は『ゼロ』の出現を演出するために必要な『華』だった。
しかし何の迷いもなかったといえば嘘になる。
ユーフェミア・リ・ブリタニア。
彼女を殺すつもりはなかった。
差し伸べられた手を取ろうと、手を出したのに。
それは己が持ちうるギアスが許さなかった。
その度に嘆く精神をゼロは感じ、同じように絶望した。
傍にいて支えてやれないのを悔やんだ。
「お前の苦しみも、罪も。全て私が背負う。」
「そこまでっ・・・お前にそこまでしてもらう謂れはない!」
「何故?」
先ほどのルルーシュと全く同じ声で、今度はゼロが問いかける。
それはまるで鏡のようで、自分自身と向き合っているような錯覚に陥る。
「ブリタニアを憎んでいるのは俺で、お前じゃない。お前がそこまでする理由がどこにある!」
「やはりお前は優しいな。」
そう言ってゼロは立ち上がった。
ルルーシュに近づくと、ルルーシュは身を強張らせる。
それに構う事無く、ゼロはふわりとルルーシュの身体を抱きしめた。
暖かいぬくもりが伝わる。
ちゃんと、生きて存在している。
「理由?大切な私の『半身』が嘆き、苦しんでいる。それ以外の理由は必要ない。」
愛しているぞ、私のルルーシュ。
そうもう一度耳元で囁かれた時、ルルーシュの瞳から自然と涙が零れ落ちた。
V.V.は思いつかなかったのでとりあえず適当に。
最終回までにはV.V.の狙いも考えておきます←
そしてC.C.が空気ですが、これからもあまり出張る予定がありません。
いや、頑張るよ。
C.C.大好きだもん。
2011/10 加筆修正