「チェックメイト」


カツン、と駒が音を立てた。

相手は屈辱からか唇を噛み締め、今にも狂乱しそうな視線を漂わせている。

三日後、バベルタワーで。

声の主も分からないまま、それでもその言葉通りルルーシュはバベルタワーを訪れていた。

何の偶然か、一週間ほど前にリヴァルがチェスの代打ちのバイトを入れていたからだ。

倒れたこともあって中止を勧められたのだが、ルルーシュはそれに応じなかった。


確かめたいことがある。

所詮夢だ。

何かが起こるはずがない。


分かっていても懸念は完全には打ち消すことが出来ず、ルルーシュはここにいる。

そしてそのバベルタワーで、事件は起こった。

突如タワーに攻撃してきたテロリスト。

逃げ惑う人々をかき分けてルルーシュははぐれてしまった弟を探した。

代わりに出会ったのは黄緑色の鮮やかな髪を伸ばした女性。

彼女が手を差し伸べる。

会ったことが無いと思っていた彼女は自分のことを知っていて。

引き寄せられるままにその手を取ろうとしたとき彼女の体が傾いた。

飛び散る血飛沫。

彼女を撃ったのは秘密情報局と名乗る部隊。

ずっと監視していたのだと、彼らは言った。

読み上げられる生活の記録。

それは紛れも無く自分の行動で。

どうして、俺が。

そう絶望したとき、撃たれたはずの彼女が自分の腕を掴んだ。

脳に直接、何かの映像が流れてくる。

膨大な量のビジョン。

記憶の波に押しつぶされそうになりながら、それでも何かを掴んだ気がした。


「ふふ・・・ははは・・・」


思わず笑いがこみ上げる。

記憶が、全て戻った。

記憶を失っていることすら知らなかった。

C.C.とギアス。

そしてゼロ。

間違っていたのは俺じゃない、世界のほうだ。

ルルーシュの唇が弧を描いた、その時。

背後を取られたと理解しビクリと身体を震わせたルルーシュは振り向こうとして、何者かの手に視界を覆われる。


『お前達は、死ね。』


機械を通したような響きの声が届いて、その次には数発の銃声。

ゼロだ。

そう直感した。

自分は一年前のゼロであって、数日前に再臨したゼロは別人。

しかしゼロの言動とその直後の銃声から、ルルーシュは確信した。

新たなるゼロも、ギアスを持っている。

それも自分と同じ、絶対遵守のギアスを。

ゼロの手が緩み、その隙に拘束の手から逃れる。

向き直った者は、やはり見慣れた仮面を被っていた。


『会いたかったよ、ルルーシュ。一年前のゼロ。』


手袋に覆われた手が仮面に伸びた。

仮面が外され、白い肌が顕れる。

髪の色はそれとは対照的な黒。


「おまえ・・・は、誰だ・・・?」


絶句の後やっと出た声は途切れ途切れで、震えていた。


「我が名はゼロ。国を壊す、反逆者だ。」


そんなはずがない、とルルーシュは叫びたかった。

元より『ゼロ』という存在は象徴に過ぎない。

中身が何であれ、その存在が奇跡を呼び、人々の願いを叶える。

だから元はゼロだった自分の代わりに誰かがゼロとして君臨したとしても、それを責めることも咎めることも出来ないし、そのつもりもなかった。

しかし目の前の『ゼロ』と名乗った男は何だ、と。

驚きを隠せないルルーシュは一歩下がり、『ゼロ』がその新たに生まれた距離を詰めるべく一歩進む。


「C.C.!一体どういう事だっ・・・、C.C.!」


ぐったりと壁に寄りかかっていたC.C.は何も言わない。

感情を表に出さない金色の双眸がただじっとルルーシュと『ゼロ』を見つめている。


在りえない。

こんな『ゼロ』が在ってたまるか。


ギアスという力を戻した左目が熱い。

まるで手を取れと言っているかのように『ゼロ』が手を伸ばしてくる。

呆然とするルルーシュの手が己の制御を離れ、自然と動き、ついには彼の手を取ってしまっていた。


「愛しているぞ、私のルルーシュ」


夢の声の主は彼。

しかし自分の声に呼ばれていると思ったのも錯覚ではなかった。


目の前に立つゼロは、『ルルーシュ』そのものだったのだから。


同じ黒髪。

同じ体格。

同じ声。

同じ仕草。


そして、同じ顔。


ただ一つ違う、瞳の色。

血の如く赤く輝く双眸。

その左目にはルルーシュと同じ紋章が浮かんでいた。











序盤、無理矢理詰め込みました←誰が見ても分かる
メインはゼロなんで!
言うなればこの2話はゼロの登場さえあればいいんで!
・・・っていうことにしておいてくださいorz
問題の2話(笑)は通過ですので、この先はぽんぽん更新できればいいなー。


2011/10 加筆修正