黒。

深く深く、底まで見通すことの出来ない。

混じり気のない不可侵の色。

その黒色が、何かを染め上げた。





ゼロが現れた。

帝国に反逆するテロリスト。

侵略されたエリア11・・・日本の希望。

ブラックリベリオンから一年、姿を消していた仮面の男。

彼の姿を見た途端、身体の中で何かがざわめいた。

身体の中から浸食されていく感覚。


黒という闇。


体内で増幅し始めた色が体内を染め上げる。

足元から沈んでいく。

侵食を始めた色は徐々に上へ上へと競りあがってくる。

つま先、膝、大腿、腹、胸、首。

そして顔まで。

あっという間に、呑まれた。

目の前が黒に染まる。



「ルルーシュッ!」


生徒会室に声が響く。

叫んだのは生徒会長、ミレイ・アッシュフォード。

その視線の先には今にも倒れそうにデスクに手をついている男が一人。

顔を蒼白にして口元を手で覆った彼はそのまま膝を折って地に這い蹲った。


「リヴァル、ロロ!ルルーシュを保健室に・・・って、先にトイレかも!」

「りょ、了解!」

「兄さん!」


強烈な吐き気に見舞われたルルーシュは眉を寄せ、汗を浮かべながら荒い呼吸を繰り返す。

苦しい。

頭が痛い。

気持ち悪い。

両脇から抱えられてやっと立ち上がったルルーシュは、二人に連れられて生徒会室を出て行った。


『日本人よ、私は還ってきた!』


テレビから、反逆者の高らかな声が響いていた。







『ルルーシュ』


誰だ。


『ルルーシュ』


俺を呼ぶのは・・・誰だ?


『早く、思い出せ』


声に聞き覚えがある。

この声は・・・


『愛しているぞ、私のルルーシュ』





俺の、声?














「兄さん・・・!」

「ろ・・・ろ・・・」


重い瞼を押し上げれば、そこには今にも泣きそうな表情のロロがいた。

その背後には見覚えのある天井。

クラブハウスの、自室の天井だ。

ああ、帰ってきたのだ・・・と。

そう呑気に構え、ロロの癖のある髪に手を伸ばす。

梳くような動作で手を動かすと、ロロがそれに己の手を重ねた。


「ずっと目を覚まさなくて・・・心配して・・・」

「俺は・・・」

「学園のトイレで吐いて、そのまま気を失ったんだ。」

「悪い、心配かけたな。」


起き上がろうとしたが、視界がグラついて思うように身体が動いてくれない。

諦めてもう一度ベッドに身を沈める。

吐き気は治まらない。


「兄さん、何か食べれる?」

「今は・・・いい。次起きたら食べるよ。」

「わかった。おやすみ・・・兄さん。」


ロロが静かに部屋を出て行く。

ルルーシュは目元を手の甲で覆って、深くため息をついた。

不思議な夢を、見た気がする。

自分に名前を呼ばれる夢。

姿を見たわけではない。

ただ、自分の名前を呼ぶ声が、自分の声のような気がした。


『愛しているぞ、私のルルーシュ』


そう言われたのは何故か妙に鮮明に覚えていた。

自分で自分のことを愛しているとは言わないし、何より『私のルルーシュ』という言葉にも引っ掛かりを覚える。

暗い、黒い空間。

水に波紋が広がるように響いて耳に届く声。

気持ち悪い。


「なんで・・・ゼロ・・・が・・・」


何故再臨したゼロを見た途端、全身の血の気が引いたのか。

嘔吐し、倒れるほどに自分を揺さぶる何かを、彼は持っているのか。


「『三日後、バベルタワーで』・・・」


意識が浮上する瞬間、聞こえたそれは一体なんだったのか。







新連載始めましたー。
っていうかまだゼロ出てきませんww
2話にはでるかも!←まだ書き終わってない
キリのいいところで区切っていきたいので、多分1話1話がすごく短くなると思います。
タイトルの「Zart und liebevoll」は「やさしく、そして愛情深く」というドイツ語(だった気がする)の音楽用語です。


2011/10 加筆修正