「さぁスザク、何でも一つ、望みを言え。」

はぁ、と気のない返事をして、スザクは立ち尽くした。
いきなり何を言い出すのだろうと主を見遣れば、彼女は眉を寄せてスザクを見た。

「無いのか。」
「いえ、何というか・・・あの、一体どうなさったんですか?」

騎士として己が仕えている主であり、帝国において最も権力を持つ彼女・・・神聖ブリタニア帝国第99代皇帝であるルルーシュ・ヴィ・ブリタニアはある日唐突に言い放ったのだ。
スザクにしてみれば何がなんだか分からない。
もしかしたらこの前暴動を制圧出来たことへの褒美か何かだろうか。

「・・・お前、覚えていないのか?」
「は?」
「・・・・・・今日は、お前の・・・誕生日だろう」
「・・・あ。」

彼女の執務室、その卓上のカレンダーを見せられ、スザクは思わず声を漏らした。
確かに7月10日・・・誕生日である。
すっかり忘れていたそれを彼女が覚えていてくれたのだと、スザクはじんわりと胸が熱くなるのを感じた。
しかし考えてはみたが、望みは何もない。

「自分は、陛下のお傍でお仕え出来るだけで幸せですから・・・これといって望みはありません」
「え、遠慮するなッ・・・!」
「いえ、遠慮とかそういうのではなくて・・・」
「っ・・・くそ、なんだ・・・イレギュラーか・・・!」
「陛下?」

ぶつぶつと、軽く顔を蒼白にしながら呟くルルーシュに、スザクは焦った。
スザクが目を光らせているだけあって最近体調を崩さなくなったルルーシュではあるが、勿論完全であるはずはない。
顔の色を失ったルルーシュに焦りを感じて、スザクはルルーシュの顔を覗き込んだ。
しかし次の瞬間、ルルーシュの顔は先程とは正反対の赤色へと変貌する。
なんなんだ、とスザクは困惑した。
ルルーシュはスザクから距離をとるように素早く移動して、懐から携帯を取り出した。
何回かボタンを押して、それを耳に当てる。

「も、もしもしユフィ・・・」

ユーフェミアへの電話らしい。

「その・・・いやそれが思わぬイレギュラーが発生して・・・えぇ!?い、いや、無理だ無理に決まっているだろうそんなはしたない!」

はしたない?とスザクは首を傾げた。

「うう・・・わ、わかった・・・やってみる。ありがとうユフィ。」

何か丸め込まれたらしい。

その始終を見守っていたスザクの元に、ルルーシュはゆっくりと戻ってきた。
何か恥ずかしがっているのか、ルルーシュの瞳は潤んでいる。
ヤバイ、とスザクは内心ゴチた。

「す、すざく・・・!」

余程恥ずかしいのか、どこか呂律すらも回っていないルルーシュに、スザクは向き直る。

「はい、陛下」
「・・・ッ・・・キ、・・・!」
「き?」
「キ、キ・・・キスッ・・・してくれとか、言えないのかお前は!!!」

怒られた。.
ただその逆ギレにも気を配れないほど、今度はスザクが動揺し始めた。

「き、きす・・・で、すか・・・」
「み、みなまで言うな恥ずかしい・・・!」
「見てるこちらが恥ずかしいですから、早く終わらせてくださいね?」

冷ややかな声が聞こえてスザクとルルーシュは同時に声のした方向を向いた。
呆れ顔のナナリーがそこにいた。
盛大な溜息を吐いて、「どうぞごゆっくり」とだけ言って執務室を出て行く。

「・・・・・・」
「・・・スザク」
「・・・はい」
「・・・私にここまで恥をかかせておいて、まさかこのまま何もしないとは言わないよな?」
「・・・イエス、ユアマジェスティ」

ごくりとスザクは生唾を飲む。
羞恥に潤みながらも真っ直ぐ視線を向けられるその瞳に映っているのが自分の姿でよかったと、沸騰しそうな頭でそう思いながら、スザクはその柔らかな唇に吸い付いた。













あらルルーシュ、どうでした?
上手くいきましたか?
え、イレギュラー?
そんなの気にしないで私を押し倒していいぞくらい言いなさいもうじれったい!
はしたないですって?
じゃあもういいわキスでもしておあげなさい。
もう本当に奥手でどうしようもないお義姉さまだわ。