目の前にある衣装を見て、ルルーシュは盛大に顔を顰めた。

一方その衣装を差し出した張本人であるシュナイゼルも困ったように眉を寄せる。


「何がそんなに不満なんだい?」

「しいて言うならば、全てです。」


そのやり取りを傍で見ながら、スザクは苦笑するしかなかった。

シュナイゼルが持ってきたのは、純白を基調としたドレスだ。

色とりどりの装飾が施され、何とも派手である。


「何で私がそんなものを着なければいけないんですか。」

「今日は可愛い義妹の晴れ舞台だからね。急いで作らせたんだ。」

「税金の無駄です。」

「無駄ではないよ。今日、我が国は生まれ変わる。新皇帝ルルーシュの手で。そのためには演出も必要だよ。」


新しい、皇帝。

およそ二か月前、ルルーシュは父親である皇帝に宣戦布告ともとれる宣言をした。

一か月で複数のエリアを治めることができれば、帝位を譲れと。

皇位継承権を全て無為にしても納得できるような成果を上げてみせるからと。

そして見事、ルルーシュは成し遂げた。

その知略で各エリアの人々が納得する政策を打ち出し、大きな争い無く治めてみせたのだ。

しかし流石に一か月で4つのエリアを治めるというハードスケジュールで体力は限界を迎え、それ以降は過労で倒れるところから始まり風邪や何やらで一か月近く寝込んでしまった。

寝込んでいる間もあれやこれやと指示をして、スザクが奔走した甲斐もあって晴れて就任式の日を迎えたのだ。

ところが当日になってルルーシュはまるで皇子が着るような黒の衣装を纏っていて、それを想定していたシュナイゼルがドレスを持ってきたというわけだ。


「君は亡きマリアンヌ皇妃の生き写しかの如く美しい。その容姿も人々を惹きつける立派な道具なんだよ?」

「・・・もし万が一仮にそうであったとしてもそのドレスは着ません。そもそも女性はドレスと、どこの誰が決めたのですか。」

「決まりはないが、ドレスの方が枢木くんも喜ぶのではないかい?」


そこで話を振るなよ!

そう叫びたいのを懸命に堪えて、はははと乾いた笑いを浮かべたスザクに、ルルーシュは少し眉を寄せて視線を送ってきた。


「ドレスの方が・・・いいか?」

「自分は・・・その、どちらでも・・・」


言葉を詰まらせたスザクにやはりそうなのかと少し悲しそうな顔をして、ルルーシュはため息をついた。

スザクとしては本当にどちらでもよかったのだ。

ドレスの美しさも、男装の凛々しさも素晴らしいものなのだから。


「・・・分かりました、ドレスは着ます。ただし白は拒否します。二人共白ではつまらない。」


そのルルーシュの言葉に、シュナイゼルとスザクは同時に首を傾げた。

二人共白では。

どういうことだろう。

次の言葉を待っていると、どこか気まずそうにルルーシュはスザクを見た。


「お前、何故いつも黒なんだ。」


黒、と言われて、そのルルーシュの視線の先を追うように視線を落とせば、そこには自らの纏う黒衣。


「えっ・・・いえ、何故と言われましても・・・」

「私が思うに、お前は白が似合うと思う。だから騎士服を白にしろ。」

「はぁ・・・」


どこか腑に落ちないスザクを無視し、ルルーシュは傍に置いてあった袋を手にする。

その中には純白に金の装飾が施された騎士服が入っていて。

ルルーシュの気迫に押され手早く着替えたスザクの姿を見てルルーシュは満足そうな笑顔を浮かべた。


「やはり似合うな。何せ私の自信作だ。」

「自信作・・・まさかルルーシュ、君がこれを作ったのかい?」


シュナイゼルがそう問いかけて、何かに気づいたルルーシュがバツが悪そうな表情を浮かべる。

その傍らでは、スザクがすっと目を細めていた。

いつもの、人懐っこそうな表情とは打って変わった、冷たい表情だ。


「・・・殿下。まさかここまで体調不良が長引いたのは、自分の目を盗んでこれを作っていたからですか?」

「いや・・・その・・・」

「自分の目を盗んで・・・ということは、主に深夜に・・・ということになりますよね。」

「く、くるる・・・」

「何より大事なのは十分に身体を休める事だとお医者様に口煩く言われていたにも拘らず?」


ついには黙り込んでしまったルルーシュに深いため息を吐いて、スザクは項垂れたのだが、それから膝をつき、深々と礼をした。


「身に余る光栄、ありがたく思います。」

「・・・っ!」

「ですが。もうご無理はなさらないでください。」

「・・・わかった。」

「稀代の女帝ルルーシュも、自身の騎士を前には形無しだね。」

「・・・宰相の地位、辞していただいても私は一向に構いませんが。」

「おお怖い。」


身を震わせる仕草をして見せて、控え室を出たシュナイゼルを苦笑しながら見送ったルルーシュは、結局それからいつもどおりの漆黒のドレスを身に纏った。

長く垂らされた黒髪の、丁度耳のあたりには、羽を模したような銀の飾り。

決して派手ではなく、それでいて地味でもない。


「お美しいですよ、殿下。」

「お前が言うと胡散臭い。」

「うさっ・・・あの、殿下・・・前々から思っていたのですが・・・」


何かにつけてルルーシュは「胡散臭い」という。


「一体どう言えば、胡散臭くなく聞こえるのでしょうか。」

「・・・そもそも言う必要はない。」

「それは無理です。」


意地が悪そうに笑ったスザクを見て、ルルーシュは顔を真っ赤に染めた。


「『美しい』という言葉を安売りしているわけではありませんからご安心を。言う相手はちゃんと選んでます。というか殿下にしか言いません。」

「もうお前黙れ!」


ルルーシュが声を荒げたところで、部屋のドアがノックされた。

時間を知らせる声。

もう行かなくてはならない。

差し出されたスザクの手を面白くなさそうに取って、ルルーシュは立ち上がった。

そのまま手を引かれて部屋を後にする。


長い長い、廊下。

その廊下の終わりが近づくにつれて民衆が沸く声が大きくなる。

廊下の先、光にあふれた場所は、これからの未来だ。

その眼を細めてしまうような眩しい光を前にして、ルルーシュは握ったままだったスザクの手に一層の力を込めた。

スザクは、何も言わず握り返してくれる。

それが何より幸せだった。


「強く、在りたいな。」

「殿下・・・陛下はもう十分お強い方です。それでもまだ強く在りたいと願うなら自分はそれを支えます。この命が終わる、その時まで。」







あ、終わりでーす(軽ッ!)
大して内容も無い癖に長らく引っ張ってしまいすいませんでした。
そもそもこんなに長く続ける気無か(ry
まどろっこしい二人でしたが、きっとこれから先もまどろっこしいままなのでしょう(笑)
ここまで待って下さった方、読んで下さった方に感謝です。
ありがとうございました!