夜の帳も降りた頃、ルルーシュは寝付く事も出来ないまま寝台の上で物思いに耽っていた。
妙に目が覚めてしまい、何度目かの寝返りを打つ。
小さくため息をついて天蓋の向こうを見ても、何も視認する事が出来ない。
以前は暗闇の中で生活していたから自然と夜目も効いていたが最近はもっぱら日の光の下での生活だ。
それに慣れてしまったのかいまいちよく見えなくなってしまった。
どうにかして目を凝らそうとしていると、いかにも訝しげな声が響いた。
「殿下?」
「・・・やっぱりいたのか。」
「はい、殿下がお眠りになられるまでは。」
「下がっていいと言っただろう。」
「殿下の寝顔を拝見するのは密やかな日課ですので。」
「・・・馬鹿がっ・・・!」
お互いの抱く想いを一つに結びつけてからまだ数時間。
相変わらずスザクはルルーシュの事を「殿下」と呼ぶ。
それでもいいとルルーシュが納得してからもまだそれほど時間は経っていない。
短時間の間に目まぐるしい変化が起きたのは変えようのない事実だ。
その証拠に今のように意地が悪い事を言いながらスザクが微笑むようになった。
例えまだ名前を呼んでもらえなくても、距離が縮まった事だけははっきりしたのだ。
「なぁスザク」
どこか楽しげに、ルルーシュはスザクを呼んだ。
当のスザクは首を傾げて視線を向けてくる。
「お前、ナイトオブラウンズになりたくはないか?」
「ナイトオブラウンズ・・・ですか。いいえ全く。」
潔く即答したスザクに、ルルーシュは思わず瞠目する。
それから少し項垂れて、考えるような素振りを見せた。
「そう、なのか・・・?ナイトオブラウンズは騎士ならば皆憧れる地位だと思っていたのだが・・・」
「ま、まさか・・・殿下はもう自分は要らないと・・・?」
「ち、違うっ・・・そうではない!しかし・・・困ったな・・・」
「殿下?」
「どうしてナイトオブラウンズにはなりたくないんだ?」
「・・・まさか、そんな当たり前のことを聞かれるとは思いませんでした。」
スザクはどこか呆れた様子だった。
「ナイトオブラウンズは皇帝陛下の騎士。確かに騎士としては名誉な地位ですが、自分は殿下のお傍に仕える事ができるということ以上の名誉はないと思っています。」
「そ、れは・・・つまり・・・」
義理の妹であるユーフェミアに鈍感だと散々バカにされた後だ。
言葉の意味を何通りも考えて、それから常日頃胡散臭いと思っていた枢木の笑顔を条件に絞り込んで、出した結果にルルーシュは盛大に顔を赤らめた。
地位や名誉を捨てても、誰の傍にいたいのか。
恥ずかしくなって手元にあったクッションを力いっぱい投げつけてみたのだが、彼は何の事はなくそれを受け止めた。
悔しくなってブランケットを被る。
「も、もう休む!」
「はい。おやすみなさいませ。」
一礼してスザクは下がる。
天蓋の外へと消えかけたスザクを、ルルーシュは静かに呼び止めた。
「スザク」
「殿下?いかがなさいましたか?」
「明日、皇帝陛下に謁見する。心の準備をしておけよ。」
それに首を傾げながらも、スザクは礼をした。
「私に帝位をお譲りいただきたい。」
何を言い出すかと思えば、と。
さもそう言わんばかりの表情で嗤ったシャルルを前に、ルルーシュは毅然とした態度のままだった。
ただその隣で、スザクは盛大にうろたえていた。
謁見を許され、皇帝を前にして開口一番がそれでは仕方のない事かも知れない。
「エリア5、11、14、21・・・最近随分と反乱が多いようですね。」
スザクがびくりと肩を震わせたのを横目で見ながら、それでもルルーシュは言葉を止めない。
「各地での反乱にさぞかし兵力を裂いているのでしょうね。」
植民地支配を続けるブリタニア帝国に対する反乱は、各地で起こっている。
その度に力で制圧し、人々は死に、憎しみが生れ、新たな争いが起こる。
エリア11・・・スザクの母国も例外ではない。
名を奪われ、番号で呼ばれる屈辱はきっと耐えがたいもの。
失ったものを取り戻す闘いは後を絶たない。
「私に総督の地位を。反乱鎮圧の為の政策の立案、手段、施行・・・全て私にお任せいただきたい。」
それから不敵に笑ったルルーシュは、ピンと右手の人差し指一本を立てた。
「1か月で治めてみせましょう。勿論、無駄な血も流させずに。」
「で、でんか!?」
「父上、貴方は常日頃から弱者はいらないと口になさっている。強者は何物にも勝るとも。力を持っていれば全てを覆せる・・・例えそれが皇位継承権であっても、更には皇帝であっても。」
そうでしょう?と不敵に笑って見せたルルーシュに、シャルルは怒るわけでも馬鹿にするわけでもなく、ただ笑うだけだった。
ついに次で終わりです\(^0^)/