篠崎流は忍者を輩出する家系ではない。

要人の傍についてその命を守り、降りかかる火の粉を払う。

忍術が使えるわけではない。

ただ優れた体術と迅速な隠密行動を買われているだけ。

自身が幼少の頃叩き込まれた技術はそういうものだ。

それでも出来ることは山ほどある。

眼前にあるのは目標である屋敷。

深呼吸をした後ぐっと足に力を込めて駆け出す。

警備は多いが特に手古摺るようなものではなく、声を上げられたり無線を使われる前になぎ倒した。

すんなりと屋敷に侵入したスザクは、脳内に叩き込んだ屋敷の見取り図を思い浮かべた。

主が絞り込んだ5つの部屋。

その何処かに目標がいることを願うばかりだ。

ただその彼女が言ったとおり、ここからは己の運が試される。

もし違う部屋に入って、その部屋に誰かいようものなら状況は悪くなる。

目撃者は増やすわけにはいかないし、声を上げられたくないからその前に手荒なことをして制さなければならない。

出来ることなら一発で。

スザクは目を閉じた。

耳を澄ませて、かすかな物音を拾う。

そして静かに走りだした。

目指すのは一つの扉。

物音がしたのはその部屋だけだ。

何の苦労もなくセキュリティを解除して、静かに力を込めてドアを押しあける。

仄暗い室内。

目を凝らして見渡すと、窓際で月明かりに照らされている彼女を見つけた。


「どなたですか」


静かに、ナナリーはそう言った。

枢木スザクです、と名乗りかけて、スザクは慌てて口を噤んだ。

室内のあらゆるところに、仕掛けが施してある。

ナナリーの目が見えないことをいいことに隠すことなく設置されたもの。

恐らくナナリーが逃げられないようにするための予防措置なのだろうが、何より厄介なのは壁に仕掛けられたマイクだ。

声を出せばその声は録音され、声紋分析でもされてしまえばいくら姿を変えようと正体は誤魔化せない。

ぐっと押し黙ったスザクは、一か八か、ナナリーの手をぎゅっと握った。


「・・・えっ・・・」


以前彼女に会ったとき、彼女は手を握ることで何かを感じ取っていた。

だから手を握れば、怪しい者でないことだけは分かってくれるかもしれない。

そういう願いを込めて不敬も気にせず手を取ったのだが、どうやら功を奏したらしい。

ぐっと口を噤んだナナリーを抱き上げて、スザクは窓から外に飛び出した。













暫くナナリーを抱えたまま走って、屋敷から距離を置いたスザクは、とある木陰で立ち止まると切り株の上に自らの上着を敷いて、その上にナナリーを座らせた。

今さら遅いとは思うのだが、彼女の前に跪いて礼をする。


「非礼をお許しください」

「やっぱり・・・スザクさん?」

「はい、あの部屋にはマイクが仕掛けられておりまして・・・声紋を取られるわけにはいかなかったので無礼を承知で名乗ることを避けさせていただきました。」


申し訳ありません、とまた頭を下げたスザクにナナリーは首をふるっと横に振った。


「でもどうしてこんな・・・ここは何処なのですか?」

「ここは・・・合流ポイントです。」


すると、そこに一台のトレーラーが走ってきて、目の前で停車する。

その中から出てきたのはルルーシュだ。

感極まった様子で走りだし、そしてナナリーを抱きしめる。


「ナナリー!」

「まさか・・・お、ねえ・・・さま・・・ほんとうに・・・?」

「そうだよっ・・・会いたかった・・・ナナリー・・・!」


二人から同じように零れる大粒の涙。

綺麗だなと思いながら、スザクはほほ笑んだ。






次回からるるすが生まれ変わります←ほんとかよ