『スザク様、我が流派は隠密行動をはじめとするあらゆるケースに対応できるようになっています。しかしこれは人を守る力。誰かを傷つける時は、誰かを守る時と心得てください。』


大切な人を守るため、必要に駆られた時でなければ人を傷つけてはならない。

教えてくれた女性は幼くして流派を仕切る当主となったが、7歳しか年は離れていなかった。

こんな事になるならば、故郷を離れる際に暗器やら何やらを持ってくればよかったと後悔する。

結局色々話し合った結果『忍者っぽく』は犯人として特定されてしまう可能性があるとのことで廃案となったのだが。

昔の記憶と共に身体に叩き込まれた体術等を思い出しながら、スザクは騎士服の上着を脱ぎ棄てた。

しっかりとした造りの騎士服は動きにくい。

何か動きやすい衣装はないか、とスザクが周囲を見回していると、現れたのはシュナイゼルだった。

満面の笑みで手に何かを持っている。


「スザク君、これを取り寄せてみたんだけどどうかな?」

「・・・殿下。」


絶対楽しんでるだろ。

相手が皇族じゃなければそう言ってやりたいくらいだ。

全身黒づくめの衣装。

頭巾らしきものも黒で、目もとに穴が開いている。

忍者、というよりは強盗ではなかろうか。

忍び込んで奪うのだからやることは大差ないのだが。


「兄上!枢木にそんな恰好をッ・・・!」

「だって忍者だろう?」

「見るからに忍者ではまず間違いなく日本人の枢木が疑われるという話になったでしょう!」


シュナイゼルの持ってきたコスチュームは奪われ、代わりにルルーシュがスザクの手に乗せたのは黒の騎士服のようなものだった。


「見かけはただの騎士服だが生地の伸縮性は申し分ない。」

「ありがとうございます。」

「あとは顔をどうやって隠すかだが・・・」

「それならば心配いらないよ、ルルーシュ」


怖いほど清々しい笑みを浮かべたシュナイゼルが、指をパチンと鳴らした。

その途端部屋に数人の人間が入ってくる。

手にはなにやら大きめの箱を持って。

目を丸くしたルルーシュとスザクに、シュナイゼルはどこか得意げだった。


「皇室御用達の特殊メイク班だ。」

え、御用達?

何故特殊メイク班?と疑問を浮かべている間に、スザクは腕を掴まれて連行されてしまった。










ルルーシュの白い手が伸ばされる。

その向かう先にはスザクが。

スザクは黙っていて、微動だにしない。

ルルーシュのしたいようにとの配慮だ。

やがて到達した体温の低い手が、そっと頬に触れた。

すっと撫でるように動いたあと、ルルーシュは感嘆の声を洩らす。


「・・・すごいな」

「普通はないようなモノがあれば、人間の注意はそちらに向くだろう?」


スザクの頬には大きなケロイド状の傷があった。

それはシュナイゼルが呼び寄せた『皇室御用達特殊メイク班』の作品だ。

大きく人目につきやすいその傷跡は、『特徴』になり得る。

数人ほどの目に留まるように行動すれば、まず『頬に大きな傷がある男』が疑われるというわけだ。


「あとはウィッグでも被っておけば十分だろう。」

「・・・兄上、何故特殊メイク班が?」

「シュナイゼル殿下がよくお忍びで出歩くために利用しています」


訝しがったルルーシュに答えたのは、シュナイゼルの部下であるカノンだった。

あきれた様子でスザクに何かの資料を渡しながらカノンは目を細める。


「まったく、殿下ももう少しお休みになられてください。」

「いや、つい楽しくてね。」


ははっと笑ったシュナイゼルの横で、ルルーシュはスザクの手の内の資料を見た。

目的の屋敷の見取り図。

それをじっと見つめたあとペンを取り出したルルーシュは、その見取り図に何かを書き加えていく。


「ナナリーは車椅子だ。早朝に一人で出歩いていたことを考えれば地下もしくは2階以上の部屋を与えられている可能性は限りなく低い。そうなると考えられる部屋は1階にある15の部屋。その中からルーカスの性格、人目につかない窓の配置、緊急時における脱出の利便から考えて、有力なのは5部屋。あとは運だな。」


いけるか?と。

どこか心配そうに問いかけてきたルルーシュを安心させるように微笑んだスザクはその場に跪いて礼の姿勢をとる。


「殿下、お願いがあります。」

「なんだ」

「もし万が一自分がこの作戦に失敗した場合、殿下に嫌疑がかかるでしょう。その時はどうぞ知らぬ存ぜぬの姿勢を貫いてください。自分を、救おうとはしないで下さい。」

「・・・ッ!」

「ただ自分は必ず、殿下の御前にナナリー殿下を連れ戻ってきます。この誓いを守る力とする為・・・略式で構いません、今この場で自分に騎士就任の儀式を。」


始終畏まった形で、スザクはのたまった。

騎士は皇族が選ぶもの。

騎士となりたい者から儀式を願い出るのは不敬だと、カノンが声を上げそうになるのをシュナイゼルが制した。

ルルーシュは黙ってスザクを見る。

暫くの沈黙の後、ふっと表情を緩めたルルーシュはすぐに目を細めた。


「枢木スザク、汝、ここに騎士の制約を立て、ブリタニアの騎士として戦うことを願うか。」

「イエス、ユアハイネス。」

「汝、我欲にして大いなる正義のために剣となり盾となることを望むか。」

「イエス、ユアハイネス。」

「我、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、汝、枢木スザクを騎士として認める。勇気、誠実、謙譲、忠誠、礼節、献身を具備し、日々、己とその信念に忠実であれ。」


本当ならば、騎士の証である剣を使うのだが、今ここにそれはない。

代わりにルルーシュの立てられた人差し指と中指が、何かの文字を描くかのように宙を滑る。


「これで、晴れてお前は私の騎士だ。」


感慨深くなって目を細めたスザクに前にルルーシュも膝をつき、両手でスザクの手を包んで祈るように俯いた。


「無事に戻れ、必ず。」


独房に入っていた時下した命を決して忘れるな。

そう告げればスザクは微笑んで、空いた方の手でルルーシュの手を取り、その甲にそっと口付けた。


「Yes,MyMajesty」






予定ではあと5話くらいで終わります・・・と前回言いましたが、どう考えてもあと4話では終わりません@@!