朝日らしい光が窓から降り注いで、眩しさに折角押し上げた目をまた細める。

それから何度か瞬きをして、やがてルルーシュは飛び起きた。


「枢木ッ・・・」


己の騎士の処刑を食い止めに行ったはずだった。

それがいつの間にかベッドの上で眠っていた。

あのあと一体どうなったのか。

起き抜けで混乱する思考を何とか纏め上げながらルルーシュは視線を巡らせて、そしてやっと気付く。

手を握られていることに。

ベッドの上に突っ伏すようにして眠っている人間がいることに。

そのくるくると癖のある、茶色い髪は紛れも無く。


「よか・・・た・・・」


拘束服ではなく、黒の騎士服を纏ったスザクは、そこで静かな寝息を立てていた。

握られたままの手が熱い。

決して不快ではないけれど、触れ合った部分の熱に鼓動が早まる。

深呼吸しながら周囲を見回した。

ユーフェミアの部屋ではない。

恐らく客室の内の一室だろうが、専用に与えられたらしい。

とにかく、無事でよかった。

じわりと目頭が熱くなって、でも涙を流せばきっと目の前の男が目覚めた時にうろたえるだろうから溢れさせまいとぐっと堪える。

暫くそうしていると何とか涙は治まってくれた。

サイドボードの上に懐中時計があって、それを手にとって時間を確認する。

AM8:23。

いつもは7時前に目を覚ますことを思い、それに比べれば随分と朝寝坊してしまった。

起きなければ・・・と、まだ夢の中にいる騎士を見遣る。

手に少し力を込めてみた。


「んっ・・・で、んか・・・」


身を捩ったスザクはぼんやりと顔を上げて、ルルーシュを見て、繋がれた手を見て。

暫く停止。

そして・・・。


「もももうしわけありません!!!!」

「い、いや・・・」


うろたえているスザクに苦笑していると、部屋のドアがノックされる。

ルルーシュがまだ寝巻のことを気遣ってスザクが肩からガウンを掛けた。

それから静かに開かれたドアの向こうで微笑んでいたのは。


「シュナイゼル、兄上・・・」

「やぁルルーシュ。こんな時間にすまないね。」

「い、いえ!私こそこのような出で立ちで・・・!」

「そのままで構わないよ。」


ベッド脇の椅子に腰かけたシュナイゼルは頭に包帯を巻いていて、考えてもみれば今まで意識不明であったということを思い出す。

しかし既に彼は活発に動き回っているようだった。


「お身体は大丈夫なのですか?」

「まぁ情けない話、ただの脳震盪だったんだよ。スザク君に通信を入れた後すぐに本部が襲撃されてね。スザク君に下した命令を軍に伝え損ねてしまった。申し訳ないことをしたね。」

「い、いえ!自分はそのようなっ・・・!」


穏やかに微笑んだシュナイゼルはルルーシュの手を取り、目を細める。

不思議そうにルルーシュは首を傾げた。


「兄上?」

「いや、すまない。お母上であるマリアンヌ皇妃にそっくりだと思ってね。」


苦笑したシュナイゼルは握っていたルルーシュの手に力を込めた。


「君が、無事でよかった。」

「兄上・・・」


それで肩の力が抜けたのか、ふわりとルルーシュも微笑む。

皇族などという身分は今は無く、そこには義理とはいえただの兄と妹の姿があった。

その柔らかい府に気に終止符を打ったのはシュナイゼルだった。


「本題に、入ってもいいかな。」


シュナイゼルの表情が硬くなった。

ルルーシュも同じように身構える。


「大帝国であるブリタニアがいとも簡単にEUに攻め込まれる事など普通はあり得ない。例えば帝国内に潜んでいる勢力が手引きした、なんてことでもない限りね。」


思い当たる節があるのは一人の男。

シュナイゼルがその名前を明かす前にルルーシュは感づいて、俯いてしまった。


「ヨハン・ルーカス」


行動を起こすことなど容易。

しかしルルーシュは不安げに瞳を揺らしながら縋るようにシュナイゼルを見た。

人質が取られている以上迂闊には動けない。


「心配しなくていい。いくら国の危機とはいえ大切な妹を無碍にしたりはしない。」

「兄上・・・?」

「ナナリーのことはスザク君から聞いている。ナナリーの保護を最優先に計画を立てるよ。君も協力してくれるね?」


ルルーシュの頭脳は優れたものだ。

何より一番の当事者であるから、状況把握もしやすい。

ルルーシュは力強く頷いた。


「それにしても」


シュナイゼルは首を傾げた。


「あれだね、ニンジャでも雇おうか。」

「は?」

「いや、ほら。スザク君の母国にはたくさんいるんだろう?こっそりと色々な任務をこなしてくれるニンジャが。」

「忍者・・・ですか。いえ、それは昔の話で今はそれほど・・・」

「そうなのかい?なんだ・・・ナナリーをこっそり攫ってきてくれれば簡単だと思ったんだがね。」


ははは、と笑いながらシュナイゼルは言った。

場を和ませようとする冗談なのだろうが、スザクはそれに首を傾げた。


「枢木?」

「あの、攫ってもいいのなら自分が攫ってきますが・・・忍者っぽく。」


瞠目したルルーシュとシュナイゼルに、スザクは居心地が悪くなって苦笑した。









予定ではあと5話くらいで終わります