「あはぁ〜おめでとぉ〜!」


そんな声が聞こえたのは夜も遅く、月明かりでしか視野を確保できない時間。

その時刻にして24時をまわった頃だ。

いつもより二時間ほど早く就寝したルルーシュの元を離れて塔の敷地内の森の中で鍛錬をしていたスザクは勿論その声に目を剥いた。

暫く聞いていなかった声の、気の抜けた様子は紛れも無く元上司のもの。

ロイドはいつものように目を細めてにやりと笑った。


「ロイドさん!?どうしたんですかこんな時間に。」

「私もいるのよ、スザク君。」

「セシルさんまで・・・」

「ちょっと顔貸してくれませんかねぇ。」


顔を貸せ。

要するに何か用があるのだろう。

しかし言い方がまずかったのかセシルの逆鱗に触れ、ロイドは目を泳がせながら笑みを作った。

スザクは傍らにおいてあったタオルで汗を拭いた後簡単に衣服を着込み、改めて二人に向き合う。


「一時間くらいでいいからさぁ〜。」

「あの・・・なにを?」

「んふっ、僕が君を呼び出す理由なんてアレしかないでしょお?」


第七世代KMF、ランスロット。

アーサー王を裏切った騎士の名。

名も不吉であったし、パイロットが名誉ブリタニア人ということで多方面から疎まれている機体だ。

しかし性能はやはりすばらしいもので、ただ一機それが戦場に介入すれば戦況は大きく変動する。

その機体のおかげで、スザクは主を持つことが出来たようなものだ。

例えそれがただの厄介払いであったとしてもスザクにしてみれば不幸中の幸いだ。


「テストですか?」

「ええ、そうなの。疲れているところ申し訳ないんだけど。」

「いえ、全然。僕でよければ喜んで。」


丁度一度礼を言っておかなければいけないと思っていたところだ。

めぐり合わせてくれてありがとう、と。

快く返事をしたスザクにロイドは飛び跳ねた。























「ありがとうスザク君、もういいわよー!」

「やっぱりスザク君は最高のパーツだねぇ〜」


ガコンという音と共に視界が開けると、下のほうでロイドがまた飛び跳ねているのが見えた。

パイロットスーツの胸元を寛げてゆっくりと息を吐く。

感情が、昂っている。

KMFに搭乗した後はいつもそうだった。

もし今誰かが襲い掛かってきて正当防衛をしたならば、相手を殺さない自信がない。

あらぶる精神をどうしたものかと頭を悩ませた。

そんな中思うのは主のこと。

どうにかしてやりたい。

差し出がましいだろうがそう思ってしまう。

まだ正式に騎士も就任式も終えていない、名誉ブリタニア人である自分が・・・と。

彼女に抱くのはまだ疑われても仕方ない忠誠心と、恐れ多くも恋心。

相手は皇族なのだからそんな関係になれないことは百も承知だ。

しかし好きだからこそ、彼女の為に何かしてあげたいと思うし、彼女が苦しんだり悲しんだりする表情も見たくない。

どうせなら笑顔がいい。



殿下、と。



ロイドとセシルが近くにいないことをいいことに小さく呟く。

その途端下方からセシルが呼ぶ声がして内心ドキリとしたが、早く降りてこいという呼びかけで一安心した。

もう少ししてから降ります、と声をかけてシートに瀬を預ける。

出るのはため息ばかりだった。























「そう、ルルーシュ殿下はとても綺麗な方なのね。」


お会いしたいわねぇと微笑んだセシルが、ルルーシュの容姿を全く知らないことにスザクは驚いていた。

皇族といえば華々しく公の場に姿を見せるという偏見を持っていたのだが、幼い頃からルルーシュは全くそういったことは無かったらしい。


「ロイドさんはお会いしたことがあるんですか?」

「ありますよぉ?まだ殿下がお小さい頃だったけどねぇ。」

「そうなんですか?」

「ルルーシュ殿下に殊更目をかけていたのがシュナイゼル殿下でね。ボクはあの方とは腐れ縁だから。」


出された紅茶に口をつけて、思わずうっと唸る。

度肝を抜かれた。

まるでそれは未知との遭遇。

冷や汗が背中を伝っていくのを感じながらセシルを見れば彼女は「どうしたの?」と微笑んだ。


「あの・・・この紅茶は・・・」

「味にパンチが足りないと思って。タバスコを適量入れてみたの。」


美味しい?と彼女は首を傾げながら問う。

ロイドに目線を送れば彼はすっとそれを逸らした。


「・・・強烈な・・・パンチですね。」


一発KOです。

そう言うと彼女は満足そうに微笑んだ。


「ねぇスザク君。あれなにかなぁ。」


まったりとした雰囲気は、ロイドの一言によってかき消される。

彼の指差した先を見てスザクは目を剥いた。

空が明るい。

時刻は深夜だというのに真っ赤に燃えた空。

そしてあの方角は。


「まさか・・・殿下・・・」


炎の柱がそこにある。

その柱が、もし彼女の住まう塔を軸にしているとしたら。

慌てて立ち上がったスザクを面白いようなものを見る目でロイドは見ていた。

走り出そうとしたスザクをセシルが腕を掴んで引き止める。


「スザク君、まだそうと決まったわけじゃ・・・」

「だったら尚更確かめなければなりません!」

「まさか走っていくつもり!?」


特派はスザクの騎士就任に伴ってトレーラーを移動させてきていた。

しかしそれでも塔の敷地内や宮殿の中までは入り込めるはずも無く、双方の間にはそれなりの距離がある。

走って行ったのでは間に合わないかもしれない。

それでも。


「それでも俺は彼女の騎士だ!」

「スーザークーくぅーん。」


ニヤリと笑ったロイドが指で何かを摘まんでいる。

それに目を剥いたスザクは叫んだ。


「ランスロット、発進許可を!」











物語もそろそろ佳境です。
…いや、それほどでもないか。