ナナリー・ヴィ・ブリタニア。
彼女は今体のいい軟禁状態にある。
外に出ることが出来るのは、人気の少ない早朝のみ。
着飾ることが許されないのは恐らく彼女が纏うドレスが彼女のいる屋敷に納められて周囲の人間に疑念を抱かせないようにするため。
足にリボンを巻いたのは誰かに会ったのだということを悟られないためで、その場所が大腿なのは恐らく必要最低限の生活は自分自身で行っているということ。
着替えや入浴を手伝われなければその場所にリボンがあることを悟られないからだ。
そこまで邪魔者として隠されていても猶命を奪われないのは、いざという時の切り札とするため。
「ナナリー・・・」
スザクの報告で推理した結果、恐らく今のところはそこまで酷い扱いは受けていないように思えた。
それだけでまずは安堵の息が漏れる。
握り締めたリボン。
片割れは彼女が持っている。
それを握り締めて、ルルーシュが立ち上がる。
「殿下?」
スザクはルルーシュの足の重石を持って、彼女の後を追った。
彼女の足は部屋のドアに向いている。
そのドアをくぐれば、石造りの長い階段がある。
スザクの呼びかけに振り返ることは無かったルルーシュが、その重い扉に手をかけた。
ひやりとした冷気が室内になだれ込んでくる。
「殿下、あの・・・どちらに・・・」
「元より私は、この塔から出ることを許されている。」
「・・・え!?」
そんな話は聞いたことが無かった。
騎士就任時には『幽閉されている皇女』という説明を受けたし、彼女の足には拘束を目的としているであろう『枷』がついているのだ。
しかしよくよく考えてみれば、この塔には警備の兵が本当に少ない。
塔の入り口と、敷地内に数名いるのみ。
幽閉されているのであれば、部屋の前などにも兵が控えるはずだし、見張りの目ももっと厳しいはずだ。
「『這いずりまわってでも生きる気があるのなら、勝手に塔を出るがいい』と、父上は申された。もう3年ほど前のことだが。」
ひたひたという音を立ててルルーシュが階段を下る。
呆然としていたスザクだったが、その音で我に返り目を剥いた。
「殿下!」
「なんだ、煩いぞ。」
焦ったようなスザクの声が石の壁に反響する。
スザクは失礼しますと一声かけた後ルルーシュを横抱きにした。
裸足だった彼女の足は小さな傷が無数についている。
もっと早く気付くべきであったと、スザクは悔やんだ。
どんな小さな傷すらも付けたくないと思うのは彼女の存在が己の内を占める割合の殆どを埋めてしまったからだ。
仕える主としても、一人の女性としても。
相手にとって例え自分が騎士でしかなかったとしても。
スザクは静かに息を吐いて、なるべく振動を伝えないように階段を下る。
「枢木、止まれ。」
「は・・・。」
言われるがままに階段を下る動作をやめたスザクは、近づいてくる足音があることに気がついた。
徐々に大きくなる音。
ルルーシュの肩と膝の裏に添えられたスザクの手に力が篭った。
現れたのは。
「・・・何をしているのかね?」
ルルーシュの、『教育係』。
彼はスザクに抱えられているルルーシュを見て顔を顰めた。
「何をしているのかね、と聞いているのだが。」
「ルーカス卿」
静かに声を出したのはルルーシュだった。
不適に笑った彼女にルーカスは目を剥く。
彼女は気が触れていたはずでは。
そんな驚きなのだろう。
「『鍵』を、返してもらおう。」
「・・・は?」
「私の足に繋がった鎖の鍵だ。貴公が盗んだことなど当に知っている。」
「・・・ッ!」
まずい、と。
そうスザクが感じた時既にルーカスは懐から取り出した銃を構えていた。
構える前に叩き落とすことも可能だったのだが、それはルルーシュを横抱きにしていなかった場合の話だ。
ルルーシュを抱えた状態で、且つ狭い塔の階段にいるこの状況では。
スザクの額に汗が滲む。
とにかく彼女を守らなければとスザクは唇を噛み締めていた。
「戻りなさい。」
「・・・ルーカス卿」
「では返して差し上げますか?その代わり貴方が『大切にしてきたもの』の保障は出来ませんが。」
「・・・卑怯なッ!」
スザクとナナリーが接触したことがバレている。
スザクを通じてルルーシュとナナリーがお互いの存在と現状を認識したことも。
だからルーカスは定期的な教育指導日でもない日にこうやってルルーシュの元を訪れようとしていたのだろう。
そこまで推理した後唇を噛み締めたルルーシュはスザクの服をきゅっと握り締めた。
小さく、呻くように囁く。
「部屋に・・・戻る。」
「殿下ッ!」
「・・・命令だ。」
「・・・イエス、ユアハイネス。」
踵を返して階段を上りだしたスザクの背に銃口が押し付けられる。
悔しさを、噛み締めた。
次かその次位で急展開で〜す(多分)