ああ、なんという偶然。

スザクは感謝した。

それが神に向けられたものかは分からないけれど、とにかく何かに感謝した。


「スザクさんですか?」


ルルーシュが妹姫であるナナリーの生存を知って、リボンをスザクに託した翌日。

彼女はいつもの花畑の中にいた。

やはり彼女のドレスは簡素だった。

何の飾り気もない白一色で、彼女の儚さを強調している。


「恐れながら、ナナリー皇女殿下であらせられますか。」

「・・・どなたかに、伺ったのですか?」


彼女はスザクに名乗ることはしなかった。

何よりヴィ家の2人の皇女は母であるマリアンヌ皇妃の身分とその最期のせいで公に姿を見せることはなかった。

彼女はスザクが自分を知るはずがないと思ったのだろう。

驚いているような彼女の前にスザクは歩み寄って膝を折る。


「我が主よりの贈り物です。」


彼女の手元にリボンを近づける。

ナナリーは首を傾げてそっとそのリボンに触れた。

手触りを確認する。


「リボン・・・ですね。」

「はい。」

「これを、私に?」

「はい。」


リボンを握り締めて何か考えた後、ナナリーはその内一本だけをスザクにつき返した。

スザクが怪訝そうにそれを受け取る。


「昔は私も、髪を2つに結っていたんです。」


だから、リボンは2本。


「ですが私は今、髪を結っていいような身分ではないのです。」

「それは・・・どういう・・・」


座っている車椅子に毛先が触れるほど、彼女の髪は長いのに。

ナナリーは苦笑した。

そして何を思ったのかドレスの裾を捲り上げる。

ぎょっとしてスザクが目を背けた。


「殿下ッ・・・!?」

「私の足にこのリボンを結んでくださいませんか。きつくて構いませんから、決して解けぬように。」


どうせ足の感覚などないのだから、とナナリーは言う。

恐る恐るスザクが視線を戻すと、白い大腿が惜しげもなく晒されていて。

そこに見るに痛々しい銃痕があった。

なるべく直視しないようにリボンを受け取って、慎重にその足の大腿にリボンを這わせた。

少しきつく結びすぎたかもしれない。

そうスザクがおどおどしている内にナナリーはドレスの裾をおろした。


「お姉様の髪は長いですか?」

「は、い・・・。」

「では残ったリボンでお姉様の髪を結ってください。そのリボンをナナリーだと思ってください、と。」


ああ、と。

目の前の彼女を見て。

そして何より自分の主を見て。

彼女らはお互いを何より大切に思っているのだと、スザクは感じた。

それなのに会うことが出来ないのだ。

ルルーシュにいたっては、ナナリーは死んだと偽りを伝えられていた。

それは彼女を絶望に陥れるには十分な嘘。


「恐れながらっ・・・」


思わず、スザクは声を張り上げていた。

これ以上は主の意思に反するのかもしれないと思っても、抑えることが出来なかった。


「我が主には、貴方が死んだのだと嘘を伝えられていたのです!」


ナナリーが息をのんだ。


「どうしてっ・・・そんな・・・」

「わかりません。しかしその嘘により我が主は生きる力を無くし、気が触れているとっ・・・」

「私はっ・・・」


ナナリーの瞳から涙が溢れた。

スザクが目を剥いて見るからに焦りだす。


「私は・・・私が人目に触れず、着飾ることも目立つこともせず、ただ静かに隠れ生きれば、お姉様を返してくださると・・・!」


それなのに、と。

ナナリーは言って、それから口をついて出るのは嗚咽だった。

ルルーシュにはナナリーが死亡したと伝えられていた。

ということは、もしこのままナナリーが今のような生活を続けていたとしてもナナリーの元にルルーシュが帰ってくることはない。

ただ、ルルーシュを利用するために邪魔になったナナリーを隠している。

明らかな陰謀。

唇を噛み締めて、ポケットから取り出したハンカチをナナリーに手渡す。


「自分が、必ず・・・!」


どうしても。

この生き別れた姉妹を再会させてやりたかった。










色々こじ付け設定があるんですが、それは次の話で(多分)