それを自覚してから、何となく主を直視できなくなった。
芽生えた途端暴れだした感情。
ギリギリのところで制御されているそれが、果たしていつまで持つだろうか。
そう考えると気落ちしてしまう。
ベッドの上で静かな寝息を立てる彼女を、スザクはじっと見つめた。
具合が優れないらしい彼女の顔色は当然悪い。
元々白い肌は病的に青ざめている。
それはそうだろう。
ルルーシュは本当に少ししか食事を摂らない。
パンを三口食べればいい方だ。
出された食事を食べきったところは少なくともスザクが騎士に就任してからは見たことが無い。
栄養が足りているはずは無く、腕には定期的に点滴がつけられる。
食べられないのだと、いつか彼女は言った。
それは家族を失ったショックというよりは、どちらかといえば生きる気力が無いというもの。
だから生きるための『食べる』という行為を身体が受け付けないのだ。
無理をすれば吐いてしまう。
そんな主に、何をしてやれるだろう。
スザクは無力さを嘆いた。
解決するには、『生きる気力を持たせる』ことが必要。
簡単にその答えは出るが、それをするのは簡単ではない。
生きたい理由は人それぞれだと思う。
夢があるから。
悲しませたくない人がいるから。
一緒に過ごしたい人がいるから。
護りたい人がいるから。
彼女に生きる理由を与えることは出来ないだろうか。
騎士である己がそんなことを考えること自体、おこがましいだろう。
それでも。
何かしたいと、思わずにはいられなかった。
「枢、木・・・」
名を呼ばれる。
いつの間にか薄目を開けていたルルーシュはじっとスザクを見ていた。
「起きる。手を貸せ。」
「しかしまだお顔の色が・・・」
「手を貸せ。」
「・・・イエス、ユアハイネス。」
失礼しますと一声かけて、ルルーシュの身体に触れる。
武骨な自分の手がそれを傷つけてしまいそうで、ごくりと生唾を飲んでしまった。
ルルーシュはそれに怪訝そうに眉を顰めたけれど、何とか誤魔化してベッドの背もたれにクッションを敷き詰めて彼女の身体を横たえる。
カーテンの隙間から覗いた黄金は綺麗な満月で、それを見てルルーシュは息を吐いた。
「今のこの私を、ナナリーが見たらなんと言うかな。」
「殿下・・・」
「情けないと、怒るだろうか。」
ただ無気力に。
気が触れたフリをして、何もかもから逃げてしまった。
陰で政権を掌握しようと企む者達に反発することもなく、言い成りになっているわけではないが決して抗うことがない日々。
「母さんと一緒に、私を見て嘆いているだろうか。」
そこでやっと、スザクはあれ?と首を傾げた。
何かが、自分の認識と異なっている。
その相違はかなり大きな問題だ。
「殿下、その・・・本当にお伺いしづらいのですが・・・あの、本当に申し訳ありません。」
「・・・なんだ?」
「ナナリー皇女殿下は、今・・・」
ルルーシュの表情が翳った。
ああ、やっぱり聞いてはいけなかったのだと。
後悔しながらも返答を待つ。
ルルーシュはすっと顔を背けて唇を噛み締めた。
「死んだ、そうだよ。私があの事件を起こしたをこと苦に・・・」
「は・・・あの。」
ルルーシュがしんみりと、本当は語りたくもないであろう事を口にしているのに。
自分は何と間抜けな声を出しているのだろう。
「本当に、その・・・申し訳ありません。勉強不足なのですが・・・。」
「・・・なんだ。」
ルルーシュの声音は硬い。
「ナナリー皇女殿下のお姿はどのような・・・」
「・・・・・・」
呆れているのだろうか。
ルルーシュはすっと目を細めた。
「柔らかくふわふわな、甘いミルクティーのような色の髪だった。瞳の色は私より少し薄いか。母さんが殺された時、足を撃たれて歩行ができなくなり、精神的なショックで視力を失った。」
ああ。
決定打を浴びた気がして、混乱する思考を纏めようと頭を抱える。
「本当に、その・・・私の勘違いであれば殿下に申し訳が立たないのですが。」
「一体何なんだ、さっきから。」
「その、自分は今朝・・・ナナリー皇女殿下らしき方にお会いしました。」
枢木スザクが、ナナリー・ヴィ・ブリタニアに、出会ったぁ〜(ウル○ン的な意味で)