慣れとは恐ろしいものだと思う。

暗闇に慣れてしまい、それなりに夜目が利くようになった。

かの皇女の騎士候補として、塔に足を踏み入れてから一週間。

彼女の声はまだ一度も聞いていない。

一日中、ぼんやりと座って彼女は過ごす。

食事は決まった時間に運ばれてくるが、彼女は決して手をつけることは無かった。

数時間後にはその食事は回収され、変わりにその細い腕に点滴が繋がれる。

当然栄養など足りていないはずで、本当のことを言えばこれでよく生きていられるなと思ってしまう。

一応紅茶を入れてみたりもしたのだが彼女は飲まなかった。

一日がとても長く感じる。

何もせず、ただ彼女を見つめるだけの一日だ。

それも仕方ないのかもしれないが。


「姫様、本日はいいお天気ですよ。」


ほんの少しだけ暗幕をずらす。

それだけでも相当な日光が室内に差し込んできたが、彼女は別に眩しがるわけでもなく、ただぼんやりとしている。

それならば、と暗幕は少しだけ開けたままにした。

毎日少しずつ光の量を増やせば、いずれ日の下に出ることも叶うだろう。

ほんの少しだけ室内が明るくなって、スザクは息を呑んだ。


(やっぱり・・・すごい白い・・・)


肌の色は透き通るようで、自分との違いに面食らってしまった。

己は黄色人種であり、尚且つ軍人として務めていた人間なのだから仕方の無いことかもしれないが。


「姫様は肌が白くていらっしゃいますね。黒髪がよく映えておいでだ。」


このままでは埒が明かない。

だから根気強く話しかけることに決めた。

ずっと話しかけていれば、彼女が『黙れ』だとか『煩い』くらいは言ってくれるかもしれない。

そんな淡い期待を持ったのだ。

ふと、スザクは何を思ったのか部屋を見回した。

一応牢獄のような役割を持つ部屋だ。

当たり前のように、飾り気が無い。

ベッドと絨毯と、小さなカフェテーブル。

それに簡易式のキッチン。

何かできるだろうかと考えたとき、少し開いた暗幕の隙間から見えた光景にスザクは息を呑んだ。


「姫様はどんな花がお好きですか?」


見えたのは、花畑。

距離は相当離れている。

宮殿の敷地内ではない。

高い塔の上からだからこそ見つけることができる距離のそれに、スザクは可能性を見出した。

暫くじっと見つめていると、本当に小さな動作で。

彼女の唇が動いた。


「ナナ、リー・・・」


面白いくらい身体が震えた。

待ち望んでいたもの。

彼女の声だ。

少し掠れているところをみると、本当に暫く言葉を発していなかったのかもしれない。

鼓動が早くなる。


「ナナリ・・・ガーベラが、好きだった・・・」

「で、では・・・今度自分が摘んで、部屋に飾りますね。」


そんなぎこちないものが、主との初めての会話になった。











ルルがっ・・・ルルが喋ったぁー〜ヾ(*´∀`*)ノ゛
・・・いえ、すいません何でもないです自重します。