塔の中は石造りともあって冷たい空気に満ちていた。
長い階段を上り、たどり着いた部屋には重い鋼鉄の扉。
幽閉、といっても見張りはいない。
スザクは深呼吸をして扉をノックした。
硬く冷たい感触が手の甲に伝わる。
「ルルーシュ殿下、失礼してもよろしいでしょうか。」
返事はない。
それは予め予想していたから、そこまで動じずにもう一度ノックした。
しばし返事を待って、やはり無いレスポンスに息を吐く。
「失礼します。」
重いドアを押し開けると、目の前に広がったのは闇だった。
少しの光も無い黒。
ただ部屋の前の廊下の、蝋燭の火だけが部屋の中を淡く照らし出す。
蜀台を手に持って部屋に足を踏み入れた。
窓は辛うじてあるらしい。
しかしそれを覆い隠している黒い布はカーテンというよりは暗幕だ。
それを捲し上げればそれなりの光は得られるだろうが、もし彼女がずっとこの闇の中で過ごしてきたのなら、強い日の光は目に悪い。
蜀台は廊下の元の位置に戻した。
扉を開け放っておけばある程度の視野は確保できる。
そして、部屋の中で人影を見た。
天蓋のついたベッドの前の絨毯に座り込んでいる女性。
驚くほど白い肌を覆い隠す、漆黒のドレス。
虚ろな瞳の色は紫。
長い黒髪は伸びきっていて、絨毯の上に流れている。
黒紫姫の由来を見た。
「姫様」
声をかける。
彼女はピクリとも動かない。
跪いて覚えたての騎士の礼をとる。
「この度騎士候補として任命されました、枢木スザクです。お見知りおきください。」
やはり彼女は答えない。
ただ一点をぼんやりと見つめているだけ。
細い腕には点滴用の針が刺さったままだ。
「御身に触れることをお許しください。」
細い身体を横抱きに抱え上げる。
女性らしい柔らかいものではなく、やせ細って骨が浮き出た身体。
体重はあまりにも軽すぎた。
ベッドに寝かせようと移動を開始したとき。
ジャラッ
ぎょっとして立ち止まったスザクは恐る恐る下を見る。
蝋燭の微かな光を受けて鈍く光るのは彼女の細い足首には不釣合いな鎖だった。
その先には重石代わりの鉄の玉。
相当な長さが確保されているところを見ると、部屋内での移動は制限されていないのだろう。
しかし動くたびにやはり擦れてしまうらしく、皮膚は少し赤くなっていた。
ベッドに身体を下ろし、少し余裕が出るように鎖を手繰り寄せてベッドの上に乗せた。
懐からハンカチを取り出し、鎖と彼女の足首の間に巻く。
これで鎖が擦れることは無いだろう。
彼女の顔を覗き込む。
主となった、皇女殿下。
彼女の視線は、どこまでも虚ろだった。
リアルな意味で『病んでる皇女』が今回のテーマです(嘘)