大公爵ルーベン・アッシュフォード。

その孫娘であるミレイがルルーシュの婚約者であるということを知って、スザクは実に複雑な思いを抱いていた。



己の性別は男。

そして、仕えるべき主である彼の性別もまた、男。

何より、彼は主。



性別だけではなく身分すら越えられないほどの大きな壁で隔てられているというのに抱いてしまった恋心。

そしてひた隠しにしてきたその感情はあっさりバレてしまった。

第三者により再確認を余儀なくされ、いよいよ気持ちが抑えられるか心配になってきた。

相手は主、相手は主、相手は男、相手は主。

それこそ念仏のように日々唱える。

その甲斐あって、一応今のところ本人にはバレていない。

・・・はずだったのに。


「殿下、おはようござ・・・」

「・・・ッ!」


・・・なんで?と、スザクは口の端を引き攣らせた。

避ける。

とにかく避ける。

朝、低血圧の主はあまり思考回路が活発には動いていない。

それにも拘らず、ルルーシュはスザクの顔を見た瞬間顔を真っ赤に染めて避けるように踵を返すのだ。

しかし、朝は朝なことに変わりはない。

覚束無い足取りは乱れ、バランスは崩れる。


「殿下ッ!」


エントランスホールにある大きな階段を落下していこうとする身体に、スザクは懸命に手を伸ばした。










「枢木、こちらへ。」


ルルーシュが静かに声をかけて、スザクは返事のあと歩み寄った。

何やら難しそうな顔をしている。

自分は何か仕出かしただろうか。

少し不安になりながら礼をすれば、ルルーシュは小さく咳払いをした。


「殿下?」

「・・・・・・をやる。」

「は・・・、申し訳ございません。よく聞こえな・・・」

「だから・・・褒美をやる。何か言ってみろ。」


褒美。

・・・褒美。


「褒美?」


ルルーシュはそっぽを向いた。

しかし視線だけが戻ってきて、その視線はスザクの左手に向けられている。

ああ、とスザクは納得した。

今朝、『階段から転げ落ちるルルーシュ殿下救助』の際に左手首を痛めたのだ。

我ながら情けないと思いながらジェレミアに巻いてもらった包帯がそこにはある。

殿下らしい・・・と、スザクは微笑んだ。


「・・・ですが、自分はまず殿下に謝罪をしなければなりません。」

「謝罪?何故?」

「殿下、は、その・・・自分を避けていらっしゃるのでしょう?自分が殿下に何かしてしまったなら・・・」


ルルーシュは、スザクから逃げようとして階段から落ちた。

まず助けた礼を賜るよりも原因を作ってしまったことについて謝罪しなければならないと、スザクは真剣な表情で告げた。


「ち、違う・・・そうじゃない・・・」


また、ルルーシュは顔を真っ赤に染めた。

それを隠したいのか手で目元を覆い隠す様は悩んでいるようにも見受けられて、ますますスザクは困惑する。

しかし困った様子で見つめるスザクにルルーシュもやがて諦めたのか、小さく息を吐いたあと気まずそうな視線を送ってきた。


「私は、読唇術の心得がある。」

「・・・は、はぁ・・・」

「・・・この間ミレイがお前に耳打ちした内容を・・・その、お前が私を、愛している・・・と・・・」

「・・・ッ!」

「すまない。お前はただ私を主として認めてくれているだけだというのに・・・変に意識してしまった。」


秘めた想いを知られてしまったというショックで血の気が下がるのと、恥ずかしさで顔に熱が集まるのとでお互いが相殺しあい、驚くほど普段通りの表情で、スザクはルルーシュを凝視してしまう。

このままではいけない。

それだけは分かる。

スザクは心臓の鼓動が早まるのを感じた。


「違います!」


気づけば、そう声を上げていた。


「自分は主として殿下を認めているとか、そういうことではなくてッ・・・!」


ルルーシュが、少し悲しそうに目を細めた。

スザクがさらに焦る。


「そ、そうじゃなくてっ・・・殿下の事は勿論敬愛してますがそうじゃなくてっ!この間のアレはその・・・そういう意味じゃなくて・・・」

「・・・はっきり言え。」

「殿下が好きなんです!」


あ、言ってしまった。

まるで他人事のような感想が漏れる。


「殿下の身分も性別も心得ていますが自分はッ・・・!」

「もういい分かった。いいから望むものを言え。」


まるで遠ざけるかのように話題を無理やり変えたルルーシュに、スザクはやはり言わなければよかったと後悔した。

感情を隠すことができずに思わず項垂れてしまう。

ルルーシュはそんなスザクを見て盛大に溜息を吐いた。


「よく聞け、枢木。」

「・・・はい。」

「お前がたった今私に告げたその言葉を『俺』が不快だと思ったなら、私は憤慨してお前に褒美をやろうなどとは二度と口にはしない。」


『私』と『俺』。

皇族としてと、一個人として。

それらを使い分けながら、顔を赤くしてそう告げてくる主にスザクは力が抜けてその場にへたり込む。

仕方ないなとまた溜息を吐いて席を立ったルルーシュは、スザクと視線を合わせるようにスザクの正面にしゃがみ込んだ。


「で?何かないのか?」


何があっても、何かを与えてくれるらしい。

スザクは思考を巡らせたのだが、結局与えてもらうようなものは何も無いという結論に行きついた。

騎士という椅子に座らせてもらえるだけでこの上なく名誉なこと。

それ以上望むことなど何も無い。

そう告げると、ルルーシュはさもつまらないといった風に視線を逸らした。


「本当に・・・無いのか。」

「・・・・・・あっ・・・!」

「なんだ、思いついたのか?」


唐突にスザクが顔を朱に染めて、ルルーシュは首を傾げる。


「な、なんでもないです!」

「言ってみろ。流石にエリア11を解放しろというのは私の一存では決められないから無理だが・・・」

「あの・・・」


それからスザクは何か呟いて。

その小さい呟きを耳聡く聞いたルルーシュは目を見開いた。


「忘れてください!」

「お前・・・」


呆れられただろうか。

それとも身の程知らずがと罵られるだろうか。

身を硬くしたスザクの耳に届いたのはルルーシュがくすくすと笑う声だった。


「随分欲が無いな。」

「え」

「本当に一度だけでいいのか?というかそこはもう少し気を遣って『ずっと傍にいたいです』とか言えないのかお前は。」

「あっ・・・!」

「もう変更は認めない。・・・じゃあ俺とお前、二人きりの時だけだ。それでいいか?我が騎士『スザク』よ。」

「イエス・・・ユアハイネス!」








(一度だけッ・・・名前で呼んではいただけないでしょうか!)








おわりですー。
大して内容もないくせにここまで引っ張ってスイマセンでした^ρ^
この話書くの自体1年ぶりとかで、あらためて書きたそうとしても話が繋がらなかったので既存のものを全て捨てましたw
その際ボツったものもあるのでそれはいずれ番外編としてでも上げれたらなーと思います。

ちなみにかっこいいルルを目指したので珍しく鈍じゃないです・・・w