「なんでアヴァロンなんだ。」
ルルーシュは呆れていた。
日本への護送艦として用意されたアヴァロンは、本来は第二皇子シュナイゼルの『所有物』だ。
設計、開発者がシュナイゼルの部下であるロイド・アスプルンドによるものだというのが主な理由である。
しかし当のロイドはシュナイゼルのことを主とは思っていないらしく、むしろ彼の忠節は別のところに注がれていた。
「ヒドイですよぉルルーシュ殿下ぁ!僕のこと騎士にしてくれるって言ったじゃないですかぁ!」
「行った覚えは無い。大体ロイドはシュナイゼル兄上の騎士だろう。」
「違いますよぉ。誰があんな性悪主にしますかぁ!」
抜け駆けするなんて。
恨みの篭った目で睨み付けるロイドにスザクは苦笑した。
「何だ、お前たち。顔見知りだったのか?」
「スザク君は元々ウチのパーツですよぉ!」
後ろに控えていた女性は苦笑しながら「特別派遣嚮導技術部です」と頭を下げた。
高い身体能力を買われ一兵卒から引き抜かれてKMFのデヴァイサーとしてテストを行ってきたらしい。
経歴も何も見ずに騎士とすることを決めたルルーシュは知らないことだ。
「大体ルルーシュ殿下はボクとの約束忘れちゃったんですかぁ!?」
「いつの話だ。」
「ルルーシュ殿下がお生まれになって3週間と4日15時間31分8秒目の時ですよぉ!騎士にしてくださいって言ったら殿下は『うー!』ってぇ!」
「・・・馬鹿がっ!」
「まぁまぁルルーシュ。ロイドも連れて行ってあげなさい。」
シュナイゼルは穏やかに微笑んでルルーシュの髪を撫でる。
子ども扱いしないでくださいとそっぽを向いたルルーシュの顔は照れているせいか仄かに赤く染まっていた。
おお!とスザクは感嘆の声を上げてルルーシュに睨まれる。
ルルーシュの扱い方を心得ているシュナイゼルは始終笑顔だ。
「騎士は一人だが、親衛隊は何人でも持つことができる。守ってくれる者は多いほうがいい。特にルルーシュはね。」
「それは体力勝負がジャンル外の私への嫌味ですか。」
「そうだね、ははは。」
「お兄様?」
そこに割って入ったのは少女の声。
ルルーシュの顔が少女の方に向いて、途端に表情が綻んだ。
ジェレミアに車椅子を押してもらい現れたナナリーはぺこりと頭を下げた。
「お待たせしてしまって、ごめんなさい。」
「ナナリー・・・本当に行くのか?エリア11はまだ統治が十分じゃない。お前に危険が及んだら俺は・・・」
「ナナリーはどこまでもお兄様と共にありたいのです。」
両腕を伸ばしてきたナナリーを受け入れるかのようにルルーシュはしっかりと抱きしめた。
大切な、それこそ自らの命よりも大切な妹。
妹を守りたいから、スザクが目指す『優しい世界』を目指してもいいと思った。
足は無理でも、いつか心を開いてくれれば目は見えるようになるかもしれない。
「俺が守るよ、ナナリー」
「さて、枢木スザク君。」
それまで兄妹の微笑ましいまでの抱擁を見つめていたシュナイゼルはスザクに向き直る。
「君にいくつか言っておかなければならない事がある。私は君の主ではないから、これは命令ではない。弟と妹の幸せを願う兄としての言葉だ。」
「はい。」
「まず、ルルーシュには全くと言っていいほど体力が無い。」
ほわぁ!?と叫び声をあげたのはルルーシュ。
いきなりそれか、という驚きだ。
「運動神経は悪くないがスタミナは皆無。その他にも・・・腹を出して寝るとすぐ体調を崩す。一度体調を崩すとズルズルと長引く。睡眠不足ですぐに肌が荒れる。」
それは困りますよぉ!とロイドが泣きそうな声を出した。
「そしてきっと、自分の命を投げ打ってでもナナリーを守りたいと思っている。」
ナナリーが少し悲しそうな顔をした。
「ただそれでは残されるナナリーがあまりにも可哀想だ。だからルルーシュの命は君が守ってやってくれるかい?勿論ルルーシュの騎士がいなくなっては困るから、自分の命も守りつつね。」
スザク君がいなくなっても僕がいますよぉ!
そう言ったロイドは完全に無視された。
「イエス、ユアハイネス。」
「じゃあルルーシュ、頑張っておいで。君の手に負えなくなったときは私も行こう。」
「兄上の手を煩わせはしませんよ。」
不敵に笑ったルルーシュの黒髪を撫でたシュナイゼルは目元を緩めて微笑む。
いってきます。
そう言ったルルーシュの背中をトンと押した。
ロイドも騎士にしたいです。