「殿下、お目覚めの時間でございます。」
上質なシルクとそれに施された絢爛な刺繍。
高貴さを表しているかのようなそのベッドの上で、ひとつの塊がもぞりと動く。
覚醒を促す声に反抗するようにブランケットを頭から被り直して身体を丸めたルルーシュは再び夢の世界へと旅立つ気満々。
シャッと音がして、瞼越しにもかかわらず光が流れ込むのが分かった。
自然と眉間に皴が寄る。
「殿下。」
「うる・・・さ・・・」
煩い、と言いかけてルルーシュは口を噤んだ。
声に聞き覚えがない。
いつも朝起こしにくるのは補佐のジェレミア。
しかし先ほどからずっと聞いている声はいつものそれとは異なっていて、ルルーシュは覚醒を余儀なくされた。
ガバッと起き上がって周囲を見回す。
視界に入ったのは癖のあるブラウンの髪の男。
黒い騎士服に身を包んだ彼は、目を瞬かせているルルーシュを見て微笑んだ。
「おはようございます、殿下。」
「誰だ・・・お前。」
「え・・・?」
男は瞠目して少し考える素振りを見せた。
「あの、殿下。」
「誰だ、と聞いている。」
「この度格別の御引立てを賜り・・・」
「前置はいい。」
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下の騎士に任命されました、枢木スザクです。」
騎士。
それも自分の。
そして名前からしてイレヴン、今は名誉ブリタニア人の男。
「・・・あぁ。」
思い出した、とばかりにルルーシュは枕の下に忍ばせていた護身用のナイフから手を放した。
ジェレミアに泣き付かれ、ナナリーに望まれて。
仕方なく適当に選んだ騎士。
「任命式は午後からのはずだが。」
「あ、はい。先に顔合わせを、とのジェレミア様の計らいでして。」
そうか。
ただ一言そう漏らしてから、ルルーシュは再びブランケットを深々と被った。
とにもかくにも眠いのだ。
夜遅くに訪ねてきた異母兄のクロヴィスにチェスとしようとせがまれ。
仕方がないからと受けたはいいが、クロヴィスがルルーシュに勝てるわけもなく。
私が勝つまで続けるぞ!とムキになった兄の相手をしている内に空が白み始めてしまった。
ただ一度、己が負けを認めれば兄は満足するとは分かっていたが、負けるという行為をプライドが赦さなかった。
結局クロヴィスが眠りこける朝方まで勝負は続き、寝不足の具合は耐え難いものとなってしまった。
「殿下っ・・・」
「煩い、俺は眠い。」
そう言って再び眠ってしまったルルーシュをスザクは泣きそうな表情で見つめて。
数分後、スザクが助けを求めたジェレミアによってルルーシュは最悪なパターンでの覚醒を余儀なくされることとなる。
クロヴィスはまだエリア11の総督ではありません。
枕の下に護身用の武器を隠しているのはロマンだと思う(笑)