「なんだこれは。」



溜息混じりに聞こえたのは硬い声音。

肘掛に立てられた腕。

その先にある手は米神を押さえるように頭部に添えられた。

白く長い指の隙間から覗く紫電の瞳が細められて、それと対峙するジェレミア・ゴッドバルドは息を呑んだ。

いや、その・・・と言葉を濁せば、空気はより一層重いものになってしまった。

冷や汗が滲み出るのを感じながら、目の前の崩れかけた『山』を支える。


「まるで見合い写真のようなこの『山』は何だ?」

「ですから・・・その中から殿下の『騎士』を選んでいただきたく・・・」


見合い写真のようなファイルの中にあるのは女性の写真ではない。

女性の写真も無くはないのだが殆どが男性のものだ。



ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。

神聖ブリタニア帝国第十一皇子にして第十七位皇位継承者。

母親であるマリアンヌ皇妃譲りの艶やかな黒髪と、数多の兄弟の中でも群を抜いて鮮やかな色合いの双眸を持つ彼は、さも不機嫌だという表情でジェレミアを睨み付けた。



「俺はまだ騎士は持たないと言ったはずだ。」

「しかし殿下っ・・・殿下はエリア11の総督となられることが決まった身・・・皇帝陛下のご心配故の配慮でございます。」



髪の毛を必要以上に巻き上げ、拳を振り上げてドスの効いた演説をする父親を思い浮かべた。


「アレが心配・・・はッ、あり得ないな。」

「いいではありませんか、お兄様。」


高く澄んだ、少女の声。

その声が聞こえた途端ルルーシュの表情は和らぎ、ジェレミアもまるで助かったとばかりに顔を輝かせた。

ルルーシュの妹であり、軽く行き過ぎではないかと思うほどの兄の愛情を一身に受けるナナリーは目と足が不自由だ。

幼い頃母と住んでいた離宮にテロリストが侵入し、母は殺されてナナリーは歩くことができなくなり、ショックから視力を失った。

ルルーシュの中の優先順位で不動の一位を獲得している彼女は穏やかに微笑む。


「あまりジェレミアさんを困らせては駄目ですよ?ジェレミアさんはお兄様の為に仰って下さっているんですから。」

「ナナリーは優しいな。」

「それにナナリーもお兄様のことが心配ですから。騎士を任命してくださいませんか?」

「心配?」

「だってお兄様はお母様に似てお綺麗でしょう?ですからわたくし、とても心配で。」



お願いします、と言われてしまっては周囲も認めるほどの『シスコン』なルルーシュは断れない。


神様仏様、ナナリー様。


ジェレミアは目に涙を浮かべながら胸の前で祈るように手を組んだ

ナナリーに悟られぬように舌打ちをして、書類の山に手を伸ばす。

しかし三枚目の書類で既に飽きてしまった。

面倒だなと髪をかき上げたとき、デスクの上に別の書類があることに気がついた。

手を伸ばすとジェレミアが目に見えて焦りだす。


「ジェレミア、これは?」

「殿下ッ・・・それはなりません!」


粗末なファイルにファイリングされた写真が数枚。

その写真に写る人物はどれもブリタニア人ではなかった。

名誉ブリタニア人。

日本を捨ててブリタニア人に傅いた日本人。

差別はあれこそただの『イレヴン』よりはマシだと判断した者達だ。


「これも騎士候補か?」

「はぁ・・・はい、一応。しかし殿下の騎士に名誉ブリタニア人を起用するなど・・・」

「俺はこの中から選ぶことにする。」


乱暴にジェレミアへと手渡されたファイル。

ルルーシュはにやりと笑った。


「名誉ブリタニア人を・・・騎士に・・・?」

「問題ないだろう。ここに候補として名が挙がっているのだから。」

「ですが!皇帝陛下直々に推薦を賜った者達の方がっ・・・」

「誰があんな変な髪形の人間の言うことなんか聞くか。そうだな・・・上から三番目の奴を俺の騎士にする。異存はないな?」

「イエス・・・ユアハイネス・・・」



後悔先に立たず。



今更名誉ブリタニア人の名簿を隠してしまえばよかったと思っても遅い。





ジェレミアはファイルの三番目にある男の写真を見て、深いため息を吐いた。






何番煎じですか、という突っ込みは無しで。
やっぱり一度はやってみたい騎士皇子パロでございます。
タイトルは『カレッツァンド』と読みます。