「ルルーシュならいないぞ」
部屋のドアをノックししようかしまいか迷いあぐねていた時かけられた声に、スザクはすっと目を細めて息を吐いた。
鮮やかな新緑色の髪を煩わしそうに掻きあげながら現れたC.C.は素肌にワイシャツを羽織っただけという出で立ちで、常識的に考えるなら男性の前に現れるような格好ではない。
そういえば彼女が『はしたない』と怒鳴られている姿を何度か目撃した事があったと思いだして、スザクはため息を吐いた。
「何だ枢木、お前もか。」
「何が。」
「年頃の娘の柔肌を見ても何とも思わないとは、お前もアイツも機能不全か?」
「年頃?よく言うよ。この前こっちがよかれと思って外見年齢相応の扱いしてやれば『お前のような奴に小娘扱いされる筋合いはないこのクソガキが』って吐き捨てたくせに。っていうか性別が女性である事に変わりはないんだから下品な発言はやめようよ。」
そう言ってはみたものの、正直彼女がそれで発言を改めるわけは無いと分かっているスザクは、このままでは埒があかないと彼女の背後のドアの隙間を覗き込んだ。
しかしC.C.はすぐにその隙間を塞ぐように身を呈する。
それを避けるようにまたスザクが身体を動かして、それを邪魔するようにC.C.も。
「ルルーシュは?本当はいるんだろ?」
「何の用だ?」
「君には関係無い。」
「盛りに来たのか。ルルーシュも万年発情期の相手をさせられて苦労をする。」
「勝手に決め付けて憐れむのはやめてくれないかな。」
「違うのか?」
「違わないけど。」
スザクが認めた途端楽しそうに笑ったC.C.はどうやら邪魔をしにきたわけではないらしい。
それならばこれ以上ここに留まる理由はないと本来の目的の元に向かうために身を乗り出す。
その胸板を、C.C.がとんと押し返した。
「お前は何がほしい?アイツに何を求めている?」
唐突なその問いに、スザクは然して考える素振りをすることもなく即答する。
「身体」
C.C.が表情を変えることは無く、静かに聞き返す。
「身体?」
「そう、身体。僕はただ『ルルーシュ』の形をしたものが欲しいだけ。心なんて二の次、生きてさえいるならいっそ人形でもいい。」
「人形・・・なるほどな。」
「身体は正直だから、だから身体だけでいい。口では嫌がっていても、どんなに悪態をついていても、身体だけは嘘を吐く事も無く僕に応えてくれるんだ。」
口の端を吊り上げて、小さく鼻で嗤った彼女は真実魔女のようだった。
全てをわかりきったような視線がスザクを射抜く。
スザクは彼女の嗤いに舌打ちで応えた。
「・・・もういいだろう。ここを通してくれないか。」
「お前が心底アイツを愛している事が分かったからまぁ通してやってもいいかな。」
「は?」
「好きなんだろう?アイツが。」
「別に。」
「応えて欲しいんだろう?」
「だから、身体だけでいいって」
「だから、せめて身体だけでも応えて欲しいんだお前は。」
ぐっと押し黙ったスザクに、C.C.は勝ち誇ったように微笑む。
どうにかして何か言い返してやろうとスザクが口を開いたのを狙ったように邪魔をしたのは、ドアを開けて顔を覗かせた話題の中心人物だった。
「さっきから何を騒いでいる」
「・・・ルルーシュ」
「童貞坊やには関係のない話だ。」
「またお前はッ・・・!」
「あとは二人で好きにやれ。」
C.C.が背を向けたのと、スザクがルルーシュの手を引いて一歩踏み出したのは同時だった。
早足で部屋の奥まで進み、申し訳程度にそこに在るベッドにルルーシュを押し倒した。
ルルーシュは特に驚く訳でもなく、非難するわけでもなく、ただじっとスザクを見つめる。
息を詰まらせた後、ゆっくりスザクは言葉を吐いた。
「僕は・・・君が嫌いだ。」
「知っているよ。」
微笑んだルルーシュの肩口に、スザクは顔を埋めた。
ミクシィ再録。