「その・・・本当に申し訳ないんだが。」


気まずそうに、ルルーシュは口を開いた。

それに周囲の人間はん?と首を傾げる。

ミレイ、リヴァル、シャーリー、ニーナ、カレン、ナナリー、ロロ、スザク、ジノ、アーニャ。

それらの生徒会メンバーをはじめ、その他にもC.C.や咲世子、神楽や麗華やジェレミアや星刻、ユーフェミアやコーネリア、クロヴィスにシュナイゼル、はたまたシャルルとマリアンヌまで。

錚々たる顔ぶれが集まってくれたのだから、それには感謝したい、全力で。

しかし状況が状況だ、とルルーシュはため息をついた。

視線がただ一箇所、ルルーシュに注がれる。


「あんまり・・・嬉しくない。」


その一言で大ブーイングの嵐。

しかし勘違いをしているのは周囲のほうだ。

自分はこんな趣味があるなど、一度も告げたことはないし思った事もない。

ルルーシュはどうしてこのような事態になってしまったのかと項垂れた。

12月5日。



誕生日を祝うために集まってくれたのは、全員『女性』だったのだから。






☆夢のハーレム計画☆










『モラトリアム』はアッシュフォード学園生徒会長ミレイ・アッシュフォードの得意分野である。

ルルーシュの誕生日を祝うため、多くの人々が集まった。

しかしただでは終わらないのがお祭娘ミレイである。

会場であるクラブハウスに張られた横断幕にはこう書かれていた。

『ルルーシュ誕生日記念!!夢のハーレム祭!!!』



なんぞ、と。



それを見たときはルルーシュは勿論首を傾げた。

モラトリアムをやるときは必ずミレイから無理難題を押し付けられていたルルーシュだったが、今回は何の指示も無かったからだ。

まぁ主役だから当たり前かと、納得もした。

だがしかし。

夢のハーレム祭とはなんぞ、と。

そんなルルーシュの疑問は、祭が始まってすぐに解決された。

ハーレム。

要するに、ルルーシュに女性陣がサービスするのだろう。

現れた女性人は皆綺麗なドレスで着飾っていた。

少し露出が高い者もいて、ただナナリーのドレスが無難であることだけに安堵した。

白いふわふわのソファーに座らされたルルーシュの周りに、女性陣が詰め掛ける。

入れ替わり立ち代り、ルルーシュのグラスに飲み物を注いだり、フルーツやチョコレートを(無理矢理)口に押し込んだり。

ある意味散々ではあったが、それも彼女達の好意なのだと割り切って甘受した。

別に女性を特に意識しないルルーシュは何事も無くそれで小一時間ほど過ごしたのだ。

しかし、問題はそこからだった。

おもむろに女性陣が立ち上がって、ルルーシュは首を傾げる。

ミレイが微笑んだ。


「私達、お色直ししてくるわね。」

「・・・どこまで金かけてるんですか。」

「あーら、こんなもんじゃ終わるわけないじゃない。このミレイさんのモラトリアムが。」


確かに。

思わずそう納得してしまった。

忌まわしいと言ってもいいくらいの過去の記憶が蘇る。


「お兄様、楽しみに待っていてくださいね?」

「何が・・・だい?ナナリー。」


ナナリーの、自分のそれよりも淡い色彩の藤色の瞳が細められたのを見て、ルルーシュは嫌な予感を感じた。

感じてしまいたくなかった。

ナナリーはふふっと微笑むだけ。

嫌な予感MAX。

だらりと背中に汗が伝った。

それからまた小一時間。

先ほどまでのドレスとは打って変わって、現れた女性陣は皆煌びやかな着物を纏っていた。

それには流石のルルーシュも一瞬惚けて、それから目元を緩めた。


「お兄様、似合っていますか?」


淡いピンク地に桜の刺繍が施された着物を纏ったナナリーは頬をばら色に染めて微笑む。


「ああ、とても似合っているよ。ナナリー。」

「では、先ほどのドレスとどちらがいいですか?」


え、と。

ルルーシュは思わず言葉に詰まった。

普通に、どちらもいいよと返せばいい。

しかしやはり嫌な予感がしてならないのだ。

言葉は慎重に選ぶべきだと、脳内で警鐘が鳴っている。


「ド、ドレスもよかったが、着物も・・・」

「安心してください、お兄様。」


ナナリーはやっぱり笑顔。

しかしルルーシュが全てを言い切る前にその言葉を遮ったのだ。

人の話はちゃんと最後まで聞く、あのいい子が(ルルーシュ視点)。


「ナナ・・・」

「私たちはドレスではなくなってしまいましたけど、代わりにドレスを着てくださった方達がいらっしゃいますから。」

「え?」


ぐるりと、周囲を見回す。

ミレイ。

C.C.。

シャーリー。

ニーナ。

カレン。

ユーフェミア。

コーネリア。

マリアンヌ。

神楽耶。

麗華。

アーニャ。

咲世子。

そしてナナリー。


先ほどまでルルーシュに好き放題していた者達は全員それぞれ艶やかな着物に着替えて終結している。

誰かが欠けているわけではない。

困惑しているルルーシュに、シャーリーが微笑んだ。


「あのね、ルル。」

「シャーリー?」

「ハーレムだから。」

「は?」


ルルーシュが息を呑んで、自らの頭上にある横断幕を見た。

『ルルーシュ誕生日記念!!夢のハーレム祭!!!』

先ほどと横断幕の内容は変わらない。

困惑顔のルルーシュの前に、着物を完璧に着こなした咲世子がずいっと歩み出た。

その着こなしは流石日本人、と賞賛すべきところなのだが、今はそれどころではない。

咲世子は申し訳なさそうに微笑んで一礼した。


「申し訳ありません。ルルーシュ様は女体に興味がおありでは無いこと、存じてはいたのですが。」

「・・・なんかものすごい人聞きが悪いんだが。」

「事実そうだろう?私がどれだけお前を誘惑しようとしてもお前は・・・」

「あれに誘惑しようという気があったとは思えない。」


かつてシャツ一枚で、ピザのチーズのにおいを漂わせながら迫ってきたC.C.。

確かに出で立ちは男を誘うようなものであったのかもしれないが、片手でピザを口に運び、もう片方の手でピザの箱を持っていれば。

深くため息を吐いたルルーシュにC.C.はムッとしたが、今日は彼が主役なのだからと周囲に宥められた。


「話を戻させていただきますと。女体に興味がおありでないのなら、少し毛色の変わったことをしてみてはどうか、と・・・」

「・・・それで」


自然と声が硬くなる。

眉間に皺も寄っているのだろう。

その証拠に、今ルルーシュの眉間にユーフェミアが笑顔で指を添えて皺を伸ばそうとしている。


「ルルーシュ!ファッションショー?なの!!」

「麗華様、それは一体・・・」

「見ていれば分かりますわ。皆さーん!」


神楽耶が呼びかけた方向には先ほど彼女達がくぐって来た扉があって。

ギィ・・・と意味深な音を立てて開いた扉の向こうの光景に、ルルーシュは絶句した。

逃げよう。

今すぐ逃げよう、全力で。

座っていたソファーから腰を浮かせようとしたルルーシュだったが、何故か身体が動かない。

なんだ、何が起こっているんだ!

そう慌てて自分の腰の辺りを見れば、動けない理由はすぐに判明した。

いつの間にか両脇に座っていたマリアンヌとコーネリアが、がっちりとルルーシュの身体を固定していたのだ。

『閃光のマリアンヌ』と呼ばれたKMF乗りのマリアンヌと、『ブリタニアの魔女』であるコーネリア。

一人相手でも力で敵わない恐れがあるのに(いや、きっと敵わない)、二人相手では分が悪すぎる。

思わず、目の前の光景に涙が出た。


「そんなに嬉しいの?泣くこと無いじゃないか。」


扉の向こうから現れた団体の先頭を切ってきたスザクはルルーシュを見て首を傾げた。

出てきたのは計9人。

整列し、各々が一礼していく。




「スザ子です☆」

「リヴァ子です☆」

「ジノ子です☆」

「シュナ子だよ。」

「クロ子だ!」

「ロ・・・ロロ子・・・です。」

「ジェレ子です!」

「星・・・子・・・」

「シャル子ぉぉぉぉ!!!!」




ちーん。



「あ!ルルが失神してる!」

「ちょっと何現実逃避してんのよ!」


泡を噴かんばかりの勢いで失神したルルーシュをガクガクとカレンが揺すって。

無理矢理現実に引き戻されてしまったルルーシュは改めてズラリと並んだモノを見た。

そしてやっぱり泣きたくなった。




以前一度『このようなもの』を見ているリヴァルとスザクはいいとしよう。

百歩譲って。

マイクロミニなドレスから覗く筋肉質の大腿と、ドレスに浮き出た腹筋の割れ目。

それを惜しげもなく晒すスザク。



リヴァルは思わず胸に目がいってしまった。

それは健全な男子云々の話ではない。

顔よりも大きい詰め物を詰めていれば在り得なさに思わずガン見してしまうのを誰が責めることができようか。



ジノには最早何も言うまいとルルーシュは決めていた。

全体的な残念さはスザクと似たものがあるし、何より「なにこれー!庶民の考えることってオモシロー!」と本人が喜んでいるのだから。



二人の異母兄はどうしたものかと思う。

意外と着こなしてしまうのがブリタニア皇室の恐ろしいところなのかもしれない。

シュナイゼルは赤、クロヴィスは青の、深いスリットの入ったロングドレス。

シュナイゼルにいたっては思いのほかガッチリとした体格をオーガンジーで隠している。

顔は美形だから見れないことも無いが、やはり顔を見ると残念になってしまうためなるべく視界にいれないようにした。



ずっともじもじしているロロは可愛い。

さすが俺の弟などと考えて、いや待てちょっとおかしいと首を振った。

そんなことで兄であることを誇りに思ってもしょうがない。

淡いピンクのワンピースと、ウィッグのせいであろう肩まで伸びたミルクティのような髪。

まるでナナリーのようだ。



ジェレミアの忠誠心には思わず涙が出そうになった。

それはピン○ハウス製ですかというほどヒラヒラのレースがついた、淡いクリーム色のワンピース。

安心しろ、俺は主として決してお前にそんな酷な命令を下さないと誓おう・・・と心の中で宣言した。



星刻は。

髪が長い分様になっているが、嫌ならやめればいいのにと思わざるを得ない。

恐らく麗華に『星刻!きなきゃだめよ!』と言われて泣く泣く着たのだろう。

青地に金縁のチャイナドレスのスリットから覗くのはやはり筋肉質な大腿だった。



残る一人にはもう言葉も無い。

語らせないでくれと、涙ながらに願った。







そして冒頭に戻る。

先ほど女性陣がやっていたように入れ替わり立ち代り尽され、ルルーシュは精神的に参っていた。

何がハーレムだと、叫ぼうとしたのを何度も堪えた。

皆、忙しい中わざわざ集まってくれたのだ。



自分の誕生日の為に。



それは本当に嬉しいし、ミレイから『ちゃんとパーティを企画してあるから』と告げられたときは柄にもなく心が弾んだ。



だが。





「何もそんな格好しなくても・・・普通でよかったのに・・・」

「酷いッ!アタシ一生懸命頑張ったのに!!」

「スザク・・・ノリがいいな・・・」


スザクが抱きついてくる。

それにズルイッ!と叫んだジノが後ろから。

それに負けじとミレイやユーフェミア、シャーリーが抱きつく。

シュナイゼルは手に持っていた一輪のバラをルルーシュの髪に挿した。

抱きついてくる人数が多すぎて非力なルルーシュは身動きが取れない上に潰れそうになったが、急に抱きついていた者達が離れていってほっと一息ついた。

代わりに腰あたりに抱きついてきたロロを周囲が脅えるように見つめていたが、気にする事無くその髪を撫でる。

ナナリーも来たので一緒に抱きしめた。

誕生日おめでとう。


耳に届いたそんな意味合いの言葉達に、ルルーシュは微笑んだ。







・・・あれ、なんか若干ルルが可哀想?
祝ってます、これでも全力で。
多分いらっしゃらないかと思いますが、持ち帰り可です。(サイト掲載の場合はご一報いただけると幸いです)
本当にいないと思いますが(笑)
もっとフツーのが読みたい方はTOPにリンクがある誕生日企画様のほうに行けばスザルル小説UPしてあるので。
そちらでお願いします^^

マジで誰かこれでイラスト描いてくれないかしら。
男性人の男女逆転祭風景を。

因みに天子様を麗華(本名)で呼んでいるのは、本編でのいざこざと全く関係ないオールキャラギャグだからです。