世界が、優しくなった。
それは一人の悪によって争いが始まり、一人の悪によって争いが終わった結果。
人々は憎しみを全て彼の者にぶつけ、彼の者はその全て憎しみを背負ったまま死んだ。
彼が憎しみを滅ぼすために悪になったと知る者は、殆どいない。
「会長・・・」
「なぁに、リヴァル。」
相変わらず、二人は生徒会室にいた。
今は情勢が混乱していて学園が休校になっているが、それでもリヴァルは毎日生徒会室にいた。
それを知っているミレイも、仕事が終われば生徒会室に帰ってくる。
思い出が、たくさんあった。
写真や衣装、小道具。
モラトリアムで生まれた思い出たちが、ただそこにある。
「なんで・・・こんな世界になっちゃったのかなぁ・・・」
「リヴァルは不満?今の世界が。」
「不満で・・・すよ。だって、こんなに・・・生徒会室が広い・・・」
リヴァルにとっての世界は生徒会室だった。
授業を終えると、生徒会メンバーが続々と集まってくる。
ニーナがお茶を淹れて。
カレンが眠たそうな目で書類とにらみ合って。
スザクがアーサーに噛まれて。
水泳部から抜け出してきたシャーリーが生徒会室に飛び込んできて。
ミレイが書類を棒状に丸めて。
そして、居眠りをしているルルーシュの頭を叩く。
そんな世界が幸せだった。
「そうね・・・皆、いなくなっちゃったわね。」
ミレイも涙を堪えて、それでも気丈に笑おうとしていた。
「ルルーシュはッ・・・」
カタン、と音がする。
生徒会室の、開くはずのないドアが開いた。
ミレイとリヴァルが身構えて、やがてその表情を歓喜に変える。
「ニーナ!」
「・・・ただいま、ミレイちゃん。リヴァル。」
ニーナ・アインシュタインはアッシュフォード学園の制服を纏って、そこでぎこちなく笑っていた。
ミレイが駆け寄って、彼女を抱きしめる。
「よかった・・・!無事だったのね!?どこも怪我とかしてない?」
「うん、大丈夫。」
「ごめん、ニーナ。俺・・・守れなくてっ・・・」
「いいの。お陰で私、自分と向き合えたから。」
少し涙を浮かべているニーナの頭を撫でながら、ミレイが椅子へと導く。
大人しく腰掛けて、ニーナは深く息をついた。
「今まで何処にいたの?」
「えーっと、牢屋・・・かなぁ。」
「牢屋!?」
「ルルーシュに刃向かったから。」
ギリッとリヴァルが奥歯を噛み締めるのを見て、ニーナは焦った。
「ち、違うのリヴァル!ルルーシュは悪くないの!」
「でもあいつは・・・!」
「私やロイドさん達が『ルルーシュに刃向かって捕まる』っていうのは、ルルーシュ自身が考えたシナリオだから!」
シナリオ。
思わぬ言葉が聞こえて、ミレイやリヴァルは目を見張った。
「なんで・・・そんな・・・」
「私達が捕まっていれば・・・彼が死んだ時、私達は保護してもらえるから。」
ニーナの小さな肩が震える。
何かを堪えるそれは、ニーナの悲しみと苦しみを表していた。
「あの・・・ね。本当は言っちゃ駄目なんだけど・・・。2人には分かっていて欲しくて・・・それで・・・」
「いいわ、聞いてあげる。」
「俺も・・・。」
その言葉を受けて、ニーナは浮かんでいた涙を拭いた。
「ルルーシュは元々皇族で、ナナリー総督と実の兄妹だった。ただ、ナナリーちゃんの目と足が不自由になって・・・弱者を是としないブリタニアにルルーシュは脅えたの。人身御供として日本に送られて、スザクの家に預けられて、そのまま・・・ブリタニアと日本は開戦して、2人は死んだことにされた。これはミレイちゃんは知っているはずなの。」
「私?」
「うん。ミレイちゃんもリヴァルも、記憶を書き換えられてる。本当はナナリーちゃんもこの生徒会室にいたのに、それを無かったことにされてるの。」
ニーナが懐から写真を取り出した。
生徒会全員の集合写真。
そこにはルルーシュの隣で微笑む、車椅子に乗った少女がいた。
「なんで・・・そんなこと。」
「ルルーシュがゼロとして、ブリタニアに捕まったから。特殊な力を持っていた前皇帝がルルーシュからゼロだった記憶を奪い、ナナリーちゃんという存在を奪い、偽りの弟を与えた。」
「もしかして・・・ロロ?」
「うん。ルルーシュは記憶を取り戻して、ブリタニアを滅ぼすためにもう一度立ち上がった。そして・・・前皇帝を倒した。」
シャルル・ジ・ブリタニアは私が殺した。
ルルーシュは国際中継で確かにそう言っていた。
「ルルーシュは自分が悪になることで世界の憎しみを集めて、そして自分が死ぬことで世界から憎しみが消えるって信じてた。」
ミレイの目から涙が溢れた。
リヴァルは立てた膝に顔を埋めてしまっている。
「私は元々フレイヤを作った人間。ルルーシュは私にフレイヤを無効化する兵器を作ってもらうために・・・あの日私を連れて行ったの。」
そしてニーナが作り上げた兵器をルルーシュが『完成』させて、フレイヤを打ち消した。
「ニーナ・・・」
「なぁに、リヴァル。」
「今の・・・ゼロは・・・」
「あれは・・・スザク。世界の憎しみを一身に背負ったルルーシュをスザクがゼロになって殺す。それが二人の計画・・・『ゼロレクイエム』。」
「じゃあ最初からッ・・・」
「だからアイツ・・・あんな顔・・・」
ゼロの剣がその身体を貫いて、彼が『舞台』から落ちたとき。
リヴァルは確かに見ていた。
彼が、幸せそうに笑っていたのを。
優しい世界を夢見た彼が、優しい世界を作り出した。
今、世界は平和に満ちている。
争いごともない。
それは、全て。
「なんでだよぉ・・・俺たち悪友だろ・・・!?何で俺に何も・・・!」
「悪逆皇帝と友人なんてリヴァルの為にならないから・・・ってことね。」
最初からそのつもりだったのだ。
世界に憎まれる為に。
憎まれた後、誰も巻き込まない為に。
「今、世界がルルーシュを恨んでる。でも・・・ミレイちゃんとリヴァルだけには・・・分かってて、ほしい・・・」
ルルーシュの目指した世界。
願い。
希望。
今、世界は彼の手によって平和を手にしたのだということを。
「ルルちゃん、あんた・・・馬鹿ね。」
全部一人で背負い込んじゃったワケだ。
そうため息をつきながらミレイが視線を動かす。
生徒会室の壁の、コルクボードに貼り付けられた写真。
ルルーシュは変わらず、その写真の中で微笑んでいた。
優しい嘘を吐いた君へ
会話ばっかりで疲れました(笑)
文才がほしいなぁ・・・