若干ルルーシュがネガティブ気味です
とくん、とくん。
何の音だろう。
そう考えたとき、自分の心臓の音だと気付く。
うるさい。
黙ってくれ。
そういってもその音は止んではくれない。
誰かが呼ぶ声がする。
応えてはいけない。
応えるべきではない。
それでも意識はみるみるうちに浮上してしまう。
『ルルーシュ。』
そう呼ぶのは誰だったか。
ぼやけた視界に、彼がいる。
「す・・・ざ・・・」
「ルルーシュ」
ゼロの衣装を纏ったスザクに、ルルーシュは少し目を見開いて。
そしてやがて、彼にゼロとなれと『ギアスをかけた』事を思い出した。
「な、ぜ・・・おれ、は・・・」
「ごめん、ルルーシュ。僕は君を裏切った。」
殺せなかった、とスザクは呻いた。
剣をその胸に突き立てたとき。
一瞬の迷いが軌道をずらし、急所を避けた。
一時は心配停止にも至ったため、そのまま死亡したと伝えて極秘に蘇生措置を施した。
「おれ、は・・・もう・・・せかいに、は・・・」
「そんなことありません、お兄様。」
「なな、り・・・」
「私は、お兄様さえいればいいんです。幸せなんです。」
全て、知りましたから。
そう言ったナナリーにルルーシュは瞠目して。
小さく、すまないと呟いた。
ルルーシュは一命は取り留めたものの、心配停止状態が長く続いたせいか足に微かな障害が残った。
長期に亘るリハビリの甲斐もあって歩くにはほとんど不便はないが、もう走ったりは出来ない。
どうせ元々運動はジャンル外だから、とルルーシュは笑っていた。
「ナナリー」
ルルーシュが優しく名を呼ぶ。
その両腕が広げられているところを見て、ナナリーは瞬時に彼がどうしたいのかを悟り、静かに首を振った。
少し悲しそうに眉を寄せたルルーシュはすっと目を背けて、そうだよな・・・と小さく呟く。
「お兄様?」
「もうお前も子供ではないし・・・俺なんかに・・・」
「違います!違いますからっ・・・ご自分を卑下するのはやめてください!」
ただ・・・。
そうナナリーは呻きながら唇を噛み締める。
「・・・もうお兄様の足は前のようには動かないのですから。そんなお兄様に頼るなんて、私は・・・」
「お前を抱えるくらい何ともないよ。」
「でもッ・・・」
昔のように。
昔からしていたように、ナナリーを抱えてベッドに運びたかった。
ナナリーの足が悪くなってから、それはルルーシュの日課で。
離れ離れになってから一年以上、もうすぐ二年になってしまうのではいかというほど長く、それをしたことはなかった。
「ナナリーが俺でもいいなら、俺はやりたいな。」
「お兄様・・・」
断れるはずがなかった。
寝る前に、そうやって抱きしめてもらいながらベッドに運ばれて。
そして眠りに落ちるまで手を握っていてくれる兄が大好きだった。
昔と同じ動作で、腕を伸ばす。
ルルーシュは少し目を見開いた後その目元を緩めて、ナナリーを抱きしめる。
身体が浮く感覚に硬く目を閉じる。
ナナリーはルルーシュの肩に顔を埋めて、深く息を吸った。
満たされる、兄の香り。
涙が出そうになった。
「・・・っ・・・」
「お兄様っ・・・!?」
ルルーシュの呻く声が聞こえて、背中に回された彼の手に力が篭った。
ぐらりと視界が揺れる。
伝わる衝撃。
そのまま倒れこんだのだと分かった。
慌ててナナリーがルルーシュの肩に回していた手を離して腕を立て、上半身だけを起こす。
ルルーシュは背中をしたたか床に打ち付けたらしく息を詰めていた。
思わず涙が浮かんで、ナナリーが叫ぶ。
「お兄様っ・・・お兄様!!」
「・・・っ・・・はは、ごめん。怪我はないか?」
「私は大丈夫っ・・・それよりお兄様が!」
ルルーシュは大丈夫だと笑っていたが、やはり相当痛かったのか目にうっすらと涙が浮かんでいた。
「どうした、何処か痛むのか?」
ナナリーの目に浮かんでいた涙を指の腹で拭って、ルルーシュが眉を寄せる。
頭を振ったナナリーはしゃくりあげた。
「お兄様は今まで私の足と目になってくださったのに・・・私はお兄様の足になることが出来ません。」
「そんなことを気にしなくていい。」
「私はお兄様に何も返すことが出来ないっ・・・」
「そんなことないよ。」
「私はお兄様を傷つけてばかりですッ・・・!」
卑怯、卑劣、悪魔。
人殺しの顔。
ひどい言葉で兄を罵った。
今まで心も、身体も支えてくれていたのは他でもない兄だったのに。
真実を知って、兄を喪うと分ったとき、自分は何も知らない愚か者だったのだと知った。
目先の事実にとらわれ、真実を見ようとしなかった。
兄は、世界一優しい嘘つきだったのに。
「ナナリー」
「私ッ・・・私はもうお兄様に手を差し伸べてもらう資格なんて・・・」
「ナナリー、俺は今でも・・・この命は存在しない方がいいと思っている。」
「お兄様!」
「でもね、もうお前を悲しませたくないという気持ちもあるんだ。お前には酷い嘘ばかりついたから。」
思い上がるな。
憎しみを自分に向けさせるためとはいえ、よくそんな言葉が吐けたものだと感心したほどだ。
比喩表現でもなんでもなく、世界は妹が中心だったのに。
「『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』という悪は滅んだ。・・・これからはただの『ルルーシュ』として、お前と・・・スザクの傍にいたい。」
ナナリーの目から新たに大粒の雫が零れ落ちて。
ナナリーが嬉しそうに微笑んだとき、また視界が揺れた。
「君達・・・全く、妬けるほど仲がいいね。」
いつの間にかそこにはゼロの衣装を纏ったままのスザクがいて。
ナナリーごとルルーシュを横抱きにする。
「ルルーシュ、いいこと言ったつもりだろうけど。格好ついてないから。」
「手厳しいな。」
軽々と人二人分を抱き上げてベッドに運んだスザクに、ルルーシュは相変わらずだなと笑った。
「君達だからね。どちらも軽すぎる。」
「お前の身体能力が恐ろしくて仕方がないよ。」
「その言葉、君にそっくり返してもいいかな?」
勿論悪い意味で。
微笑んだスザクをルルーシュが睨む。
「俺は今一応障害者だぞ?」
「じゃあ無理はしないことだね。ナナリーに怪我をさせたら元も子もないだろう。」
押し黙ったルルーシュに、スザクは分かればいいよ、と上から目線の言葉を浴びせた。
「今日は二人でここで寝たら?」
「俺は・・・」
「私はお兄様と一緒に寝たいです。あと、スザクさんも一緒に。」
「え、僕?」
「・・・そうだな、ベッドも空いているし。一緒に寝ようか。」
キングサイズのベッドでよかったと、ルルーシュが苦笑して。
それから少し迷った後着替えてきたスザクと、一緒にベッドに潜り込んだ。
子供のようにはしゃいでいたナナリーは疲れて眠ってしまい、あとの二人は微笑んだ。
「ルルーシュ。」
「・・・ん?」
「君が、生きていてくれて。」
本当に良かった。
そう囁けば、ルルーシュは目元を手で覆う。
泣いているのか、とからかえば、ルルーシュはただ煩いと呟くだけで。
そんなやり取りが、本当に幸せだった。
この気持ちを何と呼ぼう
ナナリーの最終回の泣き叫びシーンは未だに泣けます。
勿論一緒に寝る羽目になったスザクは理性との戦いです☆