「ゼロ」
いつもの無機質なものとは違う、ほんの少し甘みを含んだ声。
女性にそんな声を出されたら男は少なからず胸を躍らせるものだが、そんな声をかけられた本人は気にすることなく書類から目を離さない。
興味が無いのか、ただ単に無視しているのか。
表情が伺えないのは仮面のせいだ。
「ゼロ」
また同じような声。
しかしそれに対しても返答は無い。
声の主である新緑色の髪の女性は少し不機嫌そうな顔をして、一向に反応しない男の身体に抱きつく。
「無視をするな、ルル・・・」
「なんだ、C.C.。私は今忙しい。」
「星刻との打ち合わせは終わっただろう?」
ゼロは訝しげな視線を向けてくる星刻にすまないと小さく詫びを入れて、少し乱暴にC.C.の身体を引き剥がした。
「私はちゃんと帰ってきたぞ。」
「そうだな。」
出撃前。
危険になったら撤退しろ、とルルーシュはC.C.に告げた。
結局C.C.は撤退することなく戻ってくることが出来たのだ。
「いつもの『ご褒美』はどうした。」
「・・・部屋に戻ったらでいいだろう。」
「いやだ、私は今がいい。」
「仮面越しでもいいならするがいいさ。」
C.C.は一層不機嫌そうな表情をした。
周囲に控えていた黒の騎士団の幹部たちが固唾を呑む。
ご褒美とは一体何なのか。
ほとんどの幹部がどうせいつものピザだろうと思ったのだが、それならばゼロが仮面を被っていようといまいと関係ないはずだ。
「ほぁああ!!?」
唐突に素っ頓狂な声が木霊した。
団員が誰の声だと周囲を見回す。
ただ星刻だけが、その声の発生源を捕らえて目を見張っていた。
「ゼロ・・・君という男はなんて声を・・・」
「え・・・今のゼロの声だったのか!?」
当のゼロといえば。
いつの間にか、ソファーに腰掛けたゼロの大腿にC.C.が跨っている。
不敵に微笑んだC.C.はゼロの仮面に手をかけていた。
「お前ッ・・・何す・・・!!」
カシャン。
無常な音を響かせて仮面が地に落ちる。
現れたのはまだどこか幼さを残した男性の顔。
呆然と見開かれたアメジストの瞳。
顔半分を覆い隠すマスクをC.C.がずり下げる。
そのままC.C.がゼロに顔を近づけて。
もう勝手にしろとばかりに目を細めたゼロの唇を奪った。
な に を ・・・ !!
その場にいるゼロとC.C.以外の全ての人間があんぐりと口をあける。
それはもうアゴが外れる勢いで。
ディートハルトはアゴが完全に割れる勢いで。
それだけならばいい。
いや、全然良くはないのだが。
ゼロが唇を貪られて「・・・っ・・・ん・・・はッ・・・」と健全な男子ならば下半身にぐっと何かがきてしまうかもしれない(?)位の妖艶な声を上げてしまったのだから、それだけならばいいとさえ思えるのだ。
ちゅっと音を立てながら名残惜しそうに唇を離したC.C.は、ぺろりと舌で自分の唇を舐めながら「ゴチソウサマ」と呟いた。
「ゼゼゼロ!君は一体何を・・・っていうか君がゼロなのかー!!!?」
慌てふためく扇やその他の団員たちをちらりと見てからゼロはため息をついた。
床に落ちた仮面を拾い上げてもう一度被ろうと顔に寄せる。
「すいませんごめんなさいお願いですから仮面は被らずにそのままでいてください申し訳ありません。」
「扇・・・何を謝っている?」
訝しげに眉を寄せながらゼロは仮面を自分の脇に置いた。
確かにもう一度素顔を曝してしまえば今更仮面を被ったところで意味は無いかもしれない。
カレンも捕らわれてしまい不在のこの状況下で素顔が露見してしまったのは実に厄介だ。
色々と事後処理が面倒。
ただでさえ考えなければいけないことが多いのに、頭が痛い。
「どうしてくれる、魔女め。」
「いいじゃないか、童貞君。」
「・・・まぁいい。この際仕方ない。」
いいのか。
皆が皆同じツッコミを心の内で入れた。
「なにか質問があるなら受け付けるぞ。」
「っていうかやっぱお前とC.C.は愛人なのか!?」
玉城が面白そうに詰め寄ってくる。
ゼロはそれにただ違うとだけ返した。
その後立て続けに妻?だとか恋人?まさか姉弟!?と問い詰められたのだが、全てにゼロは首を横に振った。
「ちょっと待ってゼロ。お前は何でもない赤の他人とその・・・そういう風にキスをするのか?」
「何か問題があるか?」
「問題って・・・」
勇気を振り絞った千葉は首を傾げたゼロを前に撃沈。
ゼロはゼロで、もっと自分の正体について追求されるものだと思っていたため拍子抜け状態だ。
キス一つで何をそこまで。
さも当たり前のようにゼロはのたまった。
「こいつは頼めば誰とでもキスをしてくれるぞ。」
「・・・ッ・・・最低!!」
C.C.の言葉を受けて女性人はゼロに痛烈なバッシング攻撃。
しかしゼロ一層首を傾げた。
「何を騒いでいる。ただのキス如きで。こんなもの、ただの挨拶じゃないか。」
「「「「「「「「「 な ん で す と ? 」」」」」」」」」
「ん?違うのか?キスに他のどんな使い道があるというんだ。」
違うのか?とゼロがC.C.に視線を送って。
C.C.はどこか満足そうに、そしてどこか誇らしげに胸を張った。
「今時珍しいだろう?天然記念物モノだぞ。」
「何がだ?」
「お前は知らなくていいさ。」
まるで珍しいものを見るような視線がゼロに集まる。
それどころか、まるでアイドルに出くわした時の様な憧れにも似た視線を送ってくるものもいる。
居心地が悪い。
軽く咳払いをしたゼロに、向かいに座っていた星刻が身を乗り出す。
「ゼロ、『挨拶』ということは君は誰でも、例え同性でも挨拶とあらばキスをするのか?」
「ん?ああ・・・まぁそうだな。そもそもキスは挨拶だと教えてくれたのも同性だし・・・」
それまでキスは好きな相手にするものだと思っていたんだがな。
そう苦笑したゼロ。
あのー・・・それ絶対騙されてますから。
・・・とは誰も口に出来ない。
呆然とした表情が多い中、一人だけ妙に真剣な表情を浮かべている男が一人。
「ゼロ、私と挨拶をしよう。」
「星刻?」
「同性でも構わないのだろう?私と君はこれから手を組むのだ。改めて挨拶をしようではないか。」
ついに本性を現しやがったなコンチクショウ。
数人は心の中で毒吐いた。
きょとんとしたゼロはやがてふわりと微笑んで。
好きにすればいいと言った途端その唇は奪われた。
「んっ・・・ふぁ・・・っ・・・」
また塞がれているはずの口から声が漏れる。
プツン。
そんな音があちこちから聞こえる。
「星刻っ!いつまで独占してやがる!次は俺だ!」
「待て玉城、ここは公平にジャンケンで・・・」
「あらぁ〜、じゃあアタシもいただこうかしらねぇ〜。」
「は・・・ちょ、お前ら何をっ・・・!!!」
押し寄せる『狼』の波に、ゼロはあっという間に呑まれてしまった。
その唇は誰のもの?
「己の欲望が為に偽りを教えた結果がコレだ。ざまぁみろ、枢木。」
お前のおかげでルルーシュの唇は皆のモノだ。
C.C.は笑った。
管理人自身忘れてきていますが。
このサイト、根底にスザルルがあります。