憎き枢木スザクに7連コンボを浴びせてやった。

我ながら鮮やかで、実に周囲を爽快にさせてしまうような技の数々だったと思う。

鳩尾に一発。

これは以前やられたもののお返しだ。

その他はすべて顔を目掛けた。

頬を殴って、平手打ちをし、顎に痛烈なアッパー。

正直殴り足りない。

しかし腐っても、本当にスザクには認識されていないだろうが自分は女だ。

男の顔を殴り続けて拳は限界。

スザクのせいで自分の手が痛むと思うとそれすらも腹が立って、馬鹿馬鹿しくなってやめてしまった。

紅月カレンを安くみるな。

ずっと言いたかったことは言えた。

これぐらいでスザクが凹むとも思えないが、それでも一矢報いた気分だ。



ああ、なんて爽快。











名門貴族のボンボンと元名家出身の猫被り
















「本当にごめん。」

「いい加減ウザイのよ。必要最低限、もうここにはこないで。」


毎日毎日、飽きもせず。

リフレインを使おうとしたことを謝罪するためにスザクはカレンの元を訪れていた。

しかし謝っているつもりが余計にカレンを怒らせていることには気づかないスザク。

カレンは足と腕を組み、お世辞にも可愛いとは言えない膨れ面でスザクを罵倒した。

もう一度彼に手を上げてしまった身だ。

今更ラウンズに対する口の利き方で咎められたところでどうでもいい。


「本当にごめん。」

「アンタそれしか言えないわけ?もうウンザリ、帰って。アンタの顔なんて見たくない。」

「カレン・・・」

「アンタに名前を呼ばれたくも無い。早く失せないとそのクルクルパーな髪の毛毟るわよ!?」


履いていた靴を蹴り投げる。

罪人を拘束するには豪華な造りのその独房の防弾ガラスにぶつかった靴が、音を立てて地に落ちた。

スザクは諦めたように踵を返した。

どうせまた二時間後くらいに彼は謝りに来るのだ。


一日に何度来れば気が済むんだ、この暇人セブンイレブンめ。


「よし、次はこれでいこう。」


罵る言葉を心の中で決定し、いざという時抜けてしまわないように何回も復唱する。

・・・スザクのことを言えないほど、自分も暇なのだ。

やる事といえば時々訪ねてくるナナリーと『お兄ちゃん自慢』で盛り上がること。

いくら一年前『病弱お嬢様キャラ』を通していたとはいえ。

実際認めたくないものの、身体の半分を占める血は『お嬢様』のものであるとはいえ。

やっぱり性に合わないものは会わないのだ。


「ゼロ・・・」


ルルーシュ、とは言わない。

呼びたい気分なのは彼のほうなのだが、彼の存在は露見すればどうなってしまうか分からない。

足を引っ張るわけにはいかないから。


「・・・早く来てくれないと、自分から行っちゃうんだから。」


守られて、助けを待っているだけのお姫様ではない。

正直なところ彼のほうがお姫様という言葉は似合うはずだ。

本来の家柄的にも、男女逆転祭りの結果的にも。

ああ悔しい、口惜しい。

あんな男が存在してたまるものか。


「実はアイツ・・・女ってオチはないわよね・・・?」

「へぇ〜、誰が?」


独り言に思わぬ返答が返ってきて、驚き

のあまりカレンは立ち上がった。

いつのまにか、飄々とした男が立っている。

思案に明け暮れすぎて気づくことができなかった。


「・・・何の用?」

「つれないね。折角いいもの持ってきてやったのに。」


ジノ・ヴァインベルグは手に持った箱を揺らした。

中からカタカタと音がする。

独房のロックを開けて足を踏み入れたジノは、落ちていたカレンの靴を拾うとカレンの足元に跪いた。

拾った靴をカレンの足に履かせてからジノははにかむ。


「元気だなぁ、お前。」

「ほっといてよ。それより何の用?」

「おいおい、一度は助けてくれた男に愛想振りまいたりはしないわけ?」

「しないわ。私、安くないの。」

「それはそれは。」


どいつもこいつも、とカレンは心の内で毒吐いた。

ジノが持ってきた箱を開ける。

どうやらそれは救急箱のようで、中には包帯やら何やらがたくさん入っていた。

黙ってカレンの手を取ると、カレンは震え上がって手を払う。


「何よ!」

「手、痛いだろう。手当てしてやるよ。」

「いらないわ!余計なお世話!」

「やせ我慢するなって。腫れてるぞ。」


スザクを殴ったせいで、カレンの手の甲は腫れ上がっていた。

人を傷つけるということは、自分も傷つくということなのだ。


「なん・・・で・・・」

「スザクの顔がボコボコになっててさ。どうした?って聞いたら『女性に酷い事をしたから制裁を受け入れた』って。まぁリフレインは酷いな。」


はははっと愉快そうに笑うジノ。

逃げたカレンの手を再び捕まえて、今度は逃がさないようにしっかりと拘束する。

湿布を貼ってその上から包帯を巻いていく様を見てカレンは少し驚いた。


「何で結構うまいのよ。貴方ヴァインベルグの・・・名門貴族のボンボンでしょう?」

「名門貴族のボンボン舐めるな。私は何でもできるぞ?」


あっという間に両手の処置を終えてしまったジノは、余った包帯を巻きながら小さく「嘘」と呟いた。


「本当は何もできなかったんだ。たくさん、たくさん練習した。」


ジノの表情が変わる。

まるで褒めてもらった子供のように輝いた表情は、同時に悲しみも含んでいるようだった。


「昔、転んだ私の怪我に包帯を綺麗に巻いてくれた方がいたんだ。」




『ひざが痛いのか?』




「その方は私の一つ上で・・・私と一つしか変わらないのに落ち着いていて、何でもできた。当時の私はそれこそ貴族のボンボンで、転んで擦りむいた傷の処置の仕方なんて分からなかった。」




『僕の部屋においで。手当てしてあげる。』




「皇族なのに、私の怪我の手当てしてくれて。あとから私はこっ酷く親に叱られたよ。皇族であるあの方が穢れたらどうする、と。」


初めて親にぶたれたのもその時。

しかしその時は毎日その皇族のところに通う用事があって、次の日腫らした頬を彼はまた心配してくれた。


「だから、もしこの先あの方が怪我をした時に私が手当てしてさし上げられるように練習したんだ。あの方には優秀な医師もいるのにな。」


絶対自分が手当てするのだと、あの頃は息巻いていた。

そして騎士を取ることができる彼のために己を鍛え、いずれは騎士にしてもらおうと。

彼を一番近くで守れるものになろうと心に決めた。


「君も帰りたいだろう?主の、ゼロの元に。」

「当たり前よ。」

「そうだな・・・そうだよな。私も還りたいよ、還れるものなら。」


救急箱をもって立ち上がり踵を返したジノに、カレンはかける言葉が見つからなくて。

一先ず手当てしてくれたことと、ナイトオブテンに絡まれた時に助けてもらったことを踏まえて「ありがとう」と声をかけた。

ジノは振り向くことなく手をひらりと振った。

そして入れ替わるように入ってきた人影にむけて、カレンは思い切り叫んだ。




「一日に何度来れば気が済むんだ、この暇人セブンイレブンめ!!!」

































ホントはスザルルとかCルルが書きたかった16話。
でもジノがかっこよかった!
結構シリアス(だと思う)なのになんでこんな台無しなタイトルなんだろう・・・
A.思いつかなかったから