「皇帝だ〜れだ!!」
「ワシだぁぁああ!」
誰だ、こんなくだらない遊びを考えたのは。
心の中で毒吐きながらルルーシュは目の前でふんぞり返っているミレイを見た。
恐らく98代皇帝であり忌々しいことに実の父親である男の真似をしているのであろう彼女を、ルルーシュはまるで残念なものを見るかのように目を細める。
「ちょっとルルちゃん、なんなのその憐れむような視線は。」
「・・・別に何も。」
本来であるならば『王様ゲーム』という名のついた、クジで王様を決めて王様が命令する・・・というゲームであるそれは何故か今この場でのみ、『皇帝ゲーム』と名を改められている。
ミレイの『思えばこの国って王制じゃなくて帝制だし、王様の命令聞くってのもピンと来ないわねぇ』なんて発言からこのゲームは始まった。
そして何故そういうゲームをすることになったのかといえば、ただ単に暇だったからだ。
ルルーシュ以外の生徒会役員が。
ルルーシュだけは予算の遣り繰りと書類の作成で忙しいのだが、有無を言わさず引かされたクジを申し訳程度に手に持っている。
「じゃあ命令行くわよ!3番が5番にキス!」
「いきなりソレかよー!!!」
声を上げたのはリヴァルだった。
手には3番のクジ。
リヴァルにしてみれば勿論想い人であるミレイとキスしたかったが、当の彼女は『皇帝』で、彼女とキスすることはあり得ない。
不安げに視線を巡らせていると、実に申し訳なさげに手を上げるスザク。
「ごめんリヴァル、僕が5番なんだ・・・」
「あ、勿論男同士だからって容赦はしないわよ?」
「マジかよー!」
男相手にキスなんかしたくないと喚いたリヴァルだったが結局ミレイに一蹴され、泣く泣くスザクと唇を重ねた。
鳥肌を浮かべながらニーナにウェットティッシュを貰って口を拭く双方を完全に無視し、ミレイはクジを集めて再び束ねる。
「はい、第2ラウンド。」
笑顔に逆らえず、面々は次々とクジを引いていく。
クジが行きわたり、こっそりと番号を確認して。
「行くわよ〜!皇帝だ〜れだ!!」
「わ、わたし・・・です・・・」
おずおずと手を上げたのはニーナだった。
ニーナは困惑した様子で周囲を見渡し、小さく息を吐く。
「私別に・・・特に命令とかないんだけど・・・」
「じゃあニーナ、とりあえず番号指定しなさい。何番と何番?」
「えと・・・じゃあ1番と2番・・・」
「はい、じゃあ1番が2番にキス!」
「っていうか何でキス縛り!?」
「文句言わなーい。1番と2番は誰かしらー?」
リヴァルのブーイングをまったく気にすることなく、ミレイは周囲を見渡した。
おずおずと手を上げたのはシャーリーだった。
「わ、わたし・・・2番。」
「あらシャーリーよかったわねー受け身で。じゃあ1番は?」
その呼びかけに、応える者はいなかった。
クジは余っていない。
1番がいない・・・というわけではない。
もしかして、とミレイは首を傾げる。
「ルルちゃん。ルールちゃーん。」
「何ですか。今忙しいんです。」
「申し訳ないんだけど自分のクジの番号を確認してもらえる?」
片手はキーボードの上を動き回ったまま、ルルーシュは片手でクジを拾い上げる。
「1番ですね。」
「うそっ!!!?」
「おめでとうシャーリー。さぁルルちゃん、シャーリーにキスして。」
「は?」
「1番が2番にキスっていうのが皇帝の命令。」
それを聞いて、ルルーシュは盛大にため息をついた。
この忙しい時に・・・とブツブツ文句を言いながら立ちあがる。
顔を真っ赤に染めて、緊張からか身体を強張らせたシャーリーは微動だにしない。
周囲の注目の中、ルルーシュは何の事はないという様子でシャーリーの手を取り、その甲に口付けた。
シャーリーが「え?」と声を洩らすと、ルルーシュは首を傾げた。
「場所は指定されていないだろう。」
皇族であったルルーシュにとっては、手の甲に口付けるなどただの挨拶。
平気な顔をして席に戻るルルーシュと、手の甲とはいえキスされたという事実に卒倒するシャーリー。
リヴァルは何故口にしてしまったのかと嘆いた。
そして次なるクジ引き。
雄たけびを上げたのはリヴァルだった。
「ついに俺だー!!!!!1番が5番にキス!」
「結局・・・キス縛り・・・。」
「リヴァルったら自棄になってるわね・・・まぁいいわ。1番と5番は名乗り出て〜。」
「あ、僕1番です。」
「またスザク?運無いわね。」
ははっと苦笑したスザクだったが、また誰も5番だと名乗り出る者がいない。
ということは・・・と。
ちらりと見遣った彼は、また真剣にパソコンの画面に向かっていた。
「ルルちゃーん?」
「・・・何ですか。あと少しで書類が出来上がるんですから放っておいてください。」
「番号だけ確認してもらえるー?」
「5番ですね。」
「あらールルちゃん。大人しくスザクにキスされなさい。」
そう言われて初めて顔を上げたルルーシュは、目を限界まで見開いた。
その視線の先ではひらひらと手を振っているスザクの姿。
スザクは黙って立ちあがり、ルルーシュの元へと歩いていく。
「スザクー、別に口じゃなくてもいいわよー。」
気を使ったのか、後方からミレイが声をかけた。
リヴァルはそれにブーイングしていたがスザクは然して気にすることもなく一気にルルーシュとの距離を詰める。
先ほどの態度とは打って変わって、何故かルルーシュは顔を真っ赤に染めていた。
え、なんで?とミレイは思わず呟いていたが、恐らくそれはルルーシュの耳には届いていない。
彼の視線はただスザクだけを映していた。
「ルルーシュ」
「スザッ・・・んっ・・・!」
ルルーシュに覆いかぶさったスザクはあっという間にその唇を奪った。
しかも長い。
角度を変え、何度も何度も繰り返される濃厚なキスに、周囲は唖然とするしかない。
30秒ほど経ったところでルルーシュの顔が違う意味で赤くなっていることに気づきスザクが一度離れる。
肩で息をし、目に涙を浮かべたルルーシュがキッとスザクを睨んだ。
「な、に考えてッ・・・!」
「ちゃんと鼻で息しろってこの前教えたよね。」
この前?
その言葉に頭の上で『?』マークを出したミレイの存在も何処吹く風。
ルルーシュの後頭部に差し入れた手をぐっと下に引いて上を向かせ、スザクはまた深く口付けた。
お互いの舌が絡めた唾液の水音が何とも艶めかしく、リヴァル達は声すら出せない。
長く深いキスの後くたりとスザクの腕の中に崩れ落ちたルルーシュは、肩で息をしながら瞳を潤ませていた。
不思議そうに首を傾げたスザクがルルーシュを横抱きにして数歩進み、少し振り返ってミレイ達に声をかける。
「ルルーシュ具合悪いみたいなんで、部屋に連れていきますね。」
ニーナは見逃さなかった。
視線を前方に戻す際に、スザクがにやりと笑ったのを。
皇帝Game
何だかキスネタが多い気がします。
2009/12/01 UP
2011/04/06 加筆修正