眠そうだとか、何を考えているか分からないだとか。

いつもそんな風に言われていた瞳を、アーニャは限界まで見開いていた。

驚くのも無理は無いだろう。

驚くなと言うほうが無理な状況で、むしろ周囲もアレは驚くだろうなぁと同情の目を向けていた。

青天の霹靂ということわざが存在するが、ブリタニア人であるアーニャが知るわけも無く。

ただ目を見開いて、汗の滲む手でグリップを握り締めている。

目の前には、ゼロと思わしき男。

独特の衣装とマントを纏い、小脇に仮面を抱えているからまず間違いは無い。

その男には見覚えがあった。

まさか彼がゼロだったなんて、みたいなショックはあるようで無い。

もうそれどころではないのだ。

アッシュフォード学園。

先日転入したばかりのその学園の副会長。

綺麗な人だと。

そして何より自分の携帯のデータフォルダに彼に似た写真があって、とても彼には興味があった。

その彼が、その細い身体を吹き荒ぶ風に飛ばされそうになりながら、それでも彼の愛機であるはずの漆黒に金の装飾のKMFの手の上で。

頬を赤らめている。

当の彼は返答がないことに疑問を持ったのか、首を傾げて先ほどと同じ問いを口にした。


「だから、その・・・俺の家族になってくれないか?」


本来ならば銃弾とかミサイルとか、剣のぶつかり合うような音に満ちているはずの空域は、静寂に包まれている。


『アーニャ、罠だ!』


トリスタンから叫ぶのはジノだ。

罠だ、と言われるまでも無く罠だろう。

敵が、戦場のど真ん中で、敵に『家族になってくれないか』なんて。

一先ず返事をしないことにはこの戦闘の続きが始まらないのではないかと考えたアーニャは、スイッチを押して回線を開いた。


『・・・なる。』

『えええええええ!!!!?』

『ジノ、うるさい。』

『いや、ちょっと待てよアーニャ!アレ、先輩だけどゼロっぽいぜ!!?』

『ゼロっぽい、じゃない。あれはゼロ。』


そんなことは百も承知だと、アーニャは目元を緩めた。

アーニャの言葉にゼロであり先輩であるルルーシュはといえばぱぁっと表情を輝かせている。

それが何とも可愛いと、アーニャは携帯を持ち出して「記録・・・」と呟いてシャッターを押した。

慌てふためくジノもといトリスタンの後ろから、別の白い機体が飛び出してきた。

ランスロットは剣を振り上げ蜃気楼に切りかかる。

思いっきり斬られた蜃気楼はぐら付きながら後退してルルーシュはほぁああ!?と声を上げながら蜃気楼の指に必死にしがみ付いた。


『ちょっと!いつものあのチートな防壁は一体どうしたんだ!』


声を荒げたのはスザクだった。

え、と目を見開いたのは空域に展開していたKMF部隊とルルーシュだ。


『ルルーシュに当たっちゃったらどうするんだよ!』


その叫びに答えたのはルルーシュではなかった。

不遜な声音の女性の声が蜃気楼から響く。


『お前のような存在自体チートな奴などに言われたくは無い。そもそもあの絶対守護領域はドルイドシステムとルルーシュの馬鹿みたいな頭のよさが合わさらないとできない代物だ。私が出来るわけが無かろう。』

「C.C.!馬鹿みたいとはなんだ!」

『それは暗に『自分が馬鹿だ』と公言しているようなものだと思うよ?』

『ああ、馬鹿さ。ルルーシュよりはな。そしてお前よりは頭がいい。』


ルルーシュの抗議などまるで無視して火花を散らすスザクとC.C.。

そもそも敵である『ゼロ』に攻撃が当たったらどうするんだと怒るスザクは実に奇妙だ。

結局後衛のほうにいたヴィンセントが蜃気楼からルルーシュを受け取って、蜃気楼とランスロットは本格的ににらみ合っている。

その間にアーニャはモルドレッドを駆って黒の騎士団側の陣営に行ってしまった。

ヴィンセントがモルドレッドに近づいてきて、アーニャはコックピットを開いた。

ルルーシュが微笑んでいる。


「よくきたな。」

「ルルーシュの家族になるの?」

「アールストレイム卿がいいなら、だが。」

「私、アーニャ。」


アーニャと呼んでくれ。

それが彼女にとっての家族になってもいいという答えだった。

目元を緩めたルルーシュがアーニャと呼んで、アーニャも少しだけ微笑む。


「アーニャは俺の娘でいいか?」



・・・え?



耳聡くもそのルルーシュの言葉を聞いていた敵陣は目を見張った。

娘とはどういうことだろうか。

見たところまだ年若い彼が養子でも取るというのだろうか。

そんな疑問と共にギャラリーはルルーシュを凝視する。


「私、妹がいい。」

「ごめん、妹はナナリーの為に取っておかなくてはいけないんだ。」

「総督?」

「ああ、俺の実の妹だ。」


へーゼロの実の妹は総督ですか。

仲睦まじさに目を細めていた敵陣は、その内容に爆弾発言のような事実があっても気付かない。


「他には?」

「えーっと、カレンは俺の長女で星刻は俺の兄。えーっとそれから・・・」


まるで原稿でも読んでいるかのようにつらつらと家族構成をあげていく彼に周囲はもう驚くしかない。


「なんか面白そうだ!なぁ、俺も混ぜてくれー!」


トリスタンが動く。

そしてあっという間に黒の騎士団の陣営に突入し、コックピットからジノが現れた。


「じゃあジノは俺の息子で。」

「えー、弟は?」

「悪い、弟はロロ専用なんだ。」

『そうだよ!兄さんは僕だけの兄さんなんだ!』

『勿論恋人は僕だよね?』

「何を言ってるんだスザク、家族と恋人はイコールではない。」

『君がそんな風に言うならもういいよ!色々手順すっ飛ばして婿になってやる!』

『甘いな枢木スザク。ルルーシュは既に私の嫁だからお前はいらん。』

『・・・ッ!!!ルルーシュの節操無し!!!』

「ひ、人聞きの悪いことを言うな!それはC.C.がそのポジションじゃないと嫌だと我儘を言ったからっ・・・!」


そのやり取りを傍観する形になってしまった敵軍。


呆然とする中、誰かがそっと呟いた。






もう帰ってもいいですか?






実は本国で皇帝シャルルが「ルルゥシュの父親は儂に決まっておろうがぁああ!!」と現地に駆け付けようとしたのをナイトオブワンに止められていたという事実を、まだルルーシュ達は知らない。



ルルーシュが頭の弱い子っていうか痛い子になってしまいましたー@@;
でもギアスの世界がいっそ馬鹿みたいに平和だったらよかったのに…って時々思ったりします。