後継を作れ。

目を細めながらそう言った父親に、言われた本人であるスザクははぁと気の無い返事で返す。

誰の、と聞くのはきっと愚問だ。

まだ継がせてもいない17歳の息子に何を言い出すのかと思えば既に耄碌したのかこのクソ親父、とは流石に言わなかったが。

いっそ清々しいくらいに馬鹿らしく、許されることなら鼻で嗤い飛ばしてやりたいほどだ。

しかしそれが不毛であることを長年の経験から悟っているスザクは、あくまで笑顔で、あくまで丁寧に言葉を紡ぐ。

丁寧に。


「そろそろ頭の方が限界のようですし、ご隠居されてはいかがですか父上。」


よしよし精一杯の丁寧だと内心己を褒めながら、額に一筋血管を浮かせた父親を見る。

天皇家に連なり、代々国の中枢に深く係わってきた枢木家。

その現当主であるゲンブは怒りを抑えるかのようにゴホンと一つ咳払いをした。


「我が家系を絶やさぬ為にも優秀な後継が必要だ。」

「でも僕、女性に興味無いですし。」


こういう言い方は実に誤解を招きかねない。

正しくは『他人に興味がない』。

言い寄ってくる女性には困らないが、それに応える気が全くない。

だってどうせ皆、『枢木』の持つ権力に縋りたいだけなのだから。


「とりあえず面倒なんでお断りします。」

「それでも枢木の嫡男か。」

「ええ何をとち狂ったのか全く分かりませんが悲しいことにその通りです。」

「私が苦労して取り持ったブリタニアとの縁談をっ・・・」

「えー相手外国人なんですか。それなら余計に嫌です。一生独り身もしくはそこら辺の平凡な女性と結婚して、リストラに怯えながら窓際サラリーマンライフ送るのが僕の人生の目標なんですから。」

「とにかく・・・この縁談はッ・・・!」

「とにかく僕は拒否します。では離れに戻って勉学に勤しみますのでこれにて失礼。」


くるりと、スザクは踵を返す。

滑らかな動作で手を振って、それでも足早にその場を離れていったスザクの耳に、勿論ゲンブの言葉の続きは届かなかった。

もう既に決定して、相手もこちらに来ているのだから今さら取り消すことなど出来ない・・・なんて言葉は。








母屋から離れへ移動する途中冷蔵庫から出した水の入ったペットボトルを弄びながら、スザクは小さくため息をついた。

勉学に勤しむ、なんて言い訳でしかなかったのだが、よくよく考えてみれば宿題があって、次の授業で教師に当てられてしまう番だ。

真面目に勉強しなければならないかもしれない。

めんどくさ・・・と呟いて目を細めた。

しかしその次の瞬間には、その細めた筈の目を最大限にまで見開いていた。

離れの縁側に、誰かが座っている。

黒の細みのパンツに白のカッターシャツ。

肩のあたりにかかった短めの髪は黒で、さらさらと風に靡いている。

肌の白さで、日本人ではないことくらいは分かった。

どくん、と心臓が大袈裟な音を立てる。

無意識のうちに、足がそちらに向いていた。

距離を詰めていくと、あちらもスザクに気づいたようで、紫電の双眸をすっと細めた。


「お前が枢木スザクか。」


声は男性にしては高いし、女性にしては低い。

男性なのか女性なのかの判断が難しいところだ。


「君は?」

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」


異国の大帝国名を姓に持つということは、そこの皇族で。

このタイミングでこの場に皇族がいるということは。


「ってことは・・・君が、僕の・・・」

「婚約者だ。一応な。」


表情を崩すことなく淡々と言い放った『ルルーシュ』は、じーっと頭の天辺からつま先までスザクを見た後、またすっと目を細めた。


「まぁ座れ。」

「は、はぁ・・・」


ここ一応僕ん家なんだけど、とは言えなかった。

『ルルーシュ』の隣に腰かけてみる。

足はモデルのように長いし、身体は折れてしまいそうなほど細い。

皇族って皆こんな美人なのかなと、ふと考えて。

よくテレビの演説で見かけるブリタニアの皇帝を思い出し、嗚呼きっと母親の血を色濃く引いたんだよかったなぁと呑気な感想を思い浮かべる。


「先に言っておくことがある。これから言うことは他言無用だ。」


女性にしてはやはり少し低い気もする声。

ハスキーなだけだろうか。


「俺はお前とは結婚できない。」


ふーん、一人称は俺っていうんだ〜。


「・・・って、『俺』?」

「俺は、男だ。」


手から、ペットボトルが滑り落ちて地に落ちる。

ふたも元々半開き状態だったそれは、中身を土にどんどん吸い込ませていった。

それに視線を送る事もできず、スザクは呆然と『ルルーシュ』を見た。

男。

体型的に、華奢ではあるが男といわれればそう見えなくもない。

声も、一概に男のものとは言えないが、女のものとも言い難い。

顔の造りは整っていて、中世的ではあるが男といわれてもまぁ普通ならそれで信じてしまう。

ただ。

自分の、後継・・・要するに子供を作る為に迎えられた婚約者が、男。


「えー・・・」

「何だその反応は。」

「いやだって・・・えー・・・いくら僕が常日頃女に興味ないって言ってても男色の気があるなんて一度も言ったことないし、何より流石に男と男じゃ子供作れないことくらい分かってるだろうがあの狸じじい。」

「とにかく俺は男だからお前の子供なんて産めるわけがない。・・・ただ、だからといってこのまま婚約を破棄してブリタニアに戻ることが、俺にはできない。」

「え?」


なんで?と首を傾げたスザクに、ルルーシュはどこか気まずそうに目をそらす。


「・・・俺には命よりも大事な妹がいる。小さい頃、皇女として生まれた妹がいずれは政略婚で自由を奪われてしまう事を知って、俺は皇女のフリを始めた。我がヴィ家に縁談が回ってきた時に俺が嫁げば妹は・・・ナナリーはそれだけ長く自由でいられるから。」

「・・・あのさ、相手が今僕だからこうやって冷静に話を聞いてるけど、もし君が全然別の場所に嫁いで正体が男だってバレて、相手が逆上して国際問題にでも発展したらどうするつもりだった?」

「・・・っ」

「それで戦争なんて起きようものなら、君の身勝手で多くの人間が死んだかもしれないのに。」


ぎゅっと唇を噛みしめたルルーシュの目に、うっすらと涙が浮かんで。

ああ言い過ぎたか、とため息をついたスザクは少し考える素振りをし、それからもう一度ため息をつく。

縁側に落ちつけていた腰を上げて、数歩歩いてルルーシュの前に歩み出たスザクはじっとルルーシュを見た。

うん、いけなくはない。

男でも、かなりの美人だし。

そう小さく呟くとそれに眉を潜めたルルーシュが顔を上げて。

スザクはほほ笑んだ。


「よしルルーシュ。このまま婚約者でいよう。」

「・・・は?」

「君は『皇女として政略婚に臨む』という役目を果たしたいんだろ?婚約しておけば僕たちに別の結婚話が回ってくる事はない。」

「・・・それでお前に何のメリットが?」

「だから、僕たちに結婚話が回ってくることがないってことは、結婚したくない僕にももってこいな状況なんだよ。」

「いい・・・のか?本当に・・・」

「表向きには婚約者で、本当は友達ってことでいいんじゃないかな。並んで歩くと優越感に浸れるかもね・・・うん、君美人だし。」


これは契約だよ、と。

スザクが手を差し出す。

それをしばし茫然と見つめた後、ルルーシュは今まで無表情だったのが嘘のように表情を綻ばせた。

差し出された手を取り、握手を交わす。


「結ぶぞ、その契約。」






ちょっくら婚約してみましょう









元々途中まで考えてたのはもっとぐっちょぐちょな話(グロ系の)だったんですが、あんまりにも生への冒涜が過ぎるので途中からギャグ路線に変更したらこうなりましたw(どこをどうしたらこんなにかわるんだw)
この後なんだかんだでスザクがルルの事を好きになって、どうせ男同士じゃ何もできんからいいだろうとルルーシュを襲って、服を剥いてみたら実はやっぱり女でみたいなとこまで考えたんですが、一応これで終わりですw
何故実は女なのにあえて男のフリをした後更に女のフリをしているのかといえば、ルルーシュも政略結婚が嫌だから…的な理由です。
ここらへんの説明は詳しく書かないとなんのことか全く分からないですねぇ@@;