「虐殺です!」
花のように笑んで、慈愛を冠したはずの皇女はその声を凶器と化した。
行政特区日本。
その政策に僅かな希望を見出して集まったイレブン・・・日本人が、期待を絶望に変えて叫ぶ。
後に虐殺皇女と呼ばれることになる第3皇女ユーフェミアの騎士のスザクでさえ、主の変貌に動揺を隠し切れないでいた。
「ゆふぃ・・・」
「何をしているのですか、我が騎士スザク。貴方も早く虐殺なさい。」
「待って、一体どうし・・・」
「そういえば」
思いついたように、ユーフェミアは乱射していた機関銃のトリガーにかけていた指を離した。
スザクの背後で、また一人日本人が呻きと共に地に沈み、血溜りを広げていく。
誰のものかも分からない返り血に彩られたユーフェミアは、綺麗な笑顔で、まるで謡うように告げる。
「貴方も日本人だったわね」
虐殺。
対象は、日本人。
「待って、ユ、」
「死んでください。あの人の為に。」
構え直された機関銃の照準が定められる。
その先で、スザクは動けなくなっていた。
スザクの身体能力をもってすればユーフェミアが引き金を引く前に銃を叩き落すくらいのことは簡単に出来たはずだった。
それでもスザクは動けなかった。
認められなかったのだ。
理解できなかったのだ。
彼女が、主が、誰の為に何をしようとしているのかを。
ダダダダ・・・、と銃弾が連続して放たれた。
それは全てスザクの身体に命中するはずだったのだが、痛みが身体を襲うことはない。
スザクが思わず閉じていた目を開けると、目の前に広がっていたのは黒色だった。
「どうして?」
そう言ったのはスザクではなく、ユーフェミアだった。
スザクの盾になるように、両腕を広げて。
立っているゼロの身体から血が溢れた。
「ぜ、ろ・・・?」
「どうして?貴方の為に日本人を殺しているのに、何故貴方がその『イレブン』を庇うの?」
『イレ・・・ブン、ではない・・・彼は、君の・・・たい、せつな・・・騎士、だろう』
「でも彼はイレブンだわ。それに、私の騎士はその人ではないのよ。私の騎士様も、私の王子様も、ただ、貴方だけなの。」
『違う、よ・・・俺は、君の・・・望む存在に、は・・・なれな・・・んだ』
「違うッ、違う違う!私は・・・!!!」
ゼロはそのふらつく身体を叱咤するかのごとく足を踏み出して、ユーフェミアを抱き込んだ。
目を丸くして、ユーフェミアは機関銃を取り落とした。
ただ表情はどこか歓喜に満ちていて、機関銃に絡ませていた指を今度はゼロの身体に絡ませる。
その時、まだダダダダ・・・と激しい銃声が響き渡った。
撃っているのはブリタニア軍で、撃たれているのはゼロだ。
背中で靡いていたマントには無数の穴が開き、黒いマントを何かが濡らしてく。
色こそ判別できなくても分かる。
それは血だ。
しかしそのゼロに抱き込まれているのは皇女だ。
「やめ、やめてください!殿下に当たったらッ・・・!」
スザクは必死に叫ぶ。
それでもそんなスザクの言葉には、軍人達は耳を貸さなかった。
まさか、と、スザクの脳裏にある可能性が浮かぶ。
まるで、臭い物に蓋をするかのように。
ゼロ共々、彼女を葬る気なのか。
そしてゼロは、そんな彼女を護る為に、身を盾にしているのか。
「や、め・・・ろ・・・――――!!!!」
スザクが彼らを救おうと足を踏み出したのと、銃撃が止んだのと、ゼロがユーフェミアと共に倒れたのは、同時の出来事だった。
ボツ理由:途中で挫折したから。
ユフィがヤンデレすぎたのもボツ理由かしら。