朝日が眩しい。

ルルーシュはベッドの上で身を捩った。

隣には何故か温もりがある。

ふわふわとした髪の毛。

ああ、ナナリーだ。

嬉しくなって髪を暫く撫でる。

しかし暫くそうしていて、ルルーシュは今の現状を思い出した。

ナナリーは総督になったのだ。

一緒のベッドで寝れるはずが無い。

ああ、ロロか。

いつの間に忍び込んだのか・・・仕方のない奴め。

ふふっと笑って尚も髪を撫で続ける。

触り心地は良好だ。

ずっとそうしていたいとも思うが、自分には朝食の支度をするという使命がある。

そろそろ起きようと、閉じたままだった瞼を開いた。

思考停止。

・・・再起動。


「ほぅあぁあ!?」


妹でもなく、弟でもなく。

そこにいたのはピンク色の髪の少女だった。








「兄さん!」


ルルーシュの『素っ頓狂な』声を聞きつけて部屋に走ってきたロロは部屋の状況を見て呆気にとられた。

しかしすぐにルルーシュのベッドの横を睨み付ける。


「ロロ、やめろ!」

「に・・・兄さん、でも!」

「いい、大丈夫だから。」


ギアスで時を止めようとしたロロを宥める。

何故かルルーシュの隣で眠りについていたアーニャは少し身じろいだ後目を開けた。

ぼんやりとルルーシュを見つめた後小さく「おはよ・・・」と呟く。


「アーニャ、いつのまに・・・というかどうやってここに?」


アーニャはルルーシュをじっと見つめたまま何も言わない。

長い沈黙。

ルルーシュもロロも動けない。

耐えられなくなったルルーシュが口を開こうとすると、「・・・玄関から、はいった」と遅い反応が返ってきた。

いや、そういうことではなくて。

その言葉は飲み込んだ。

まさか部屋に侵入を許すとは思ってもいなかったルルーシュは流石ラウンズと納得する。

悪意が無いから落ち着いていられるが、実際に『ゼロ』と『ナイトオブラウンズ』という関係だったなら確実に危険だった。

どうにかしなければ、と思いつつもアーニャに微笑みかける。

彼女は上半身だけ起き上がったルルーシュの腰の辺りにしがみ付き、二度寝体制に入ってしまった。


「ロロ、すまないが先にキッチンに行ってサラダ用の野菜を出しておいてくれるか?」

「でも兄さん!そいつはっ・・・」

「大丈夫だ、心配するな。」


不服そうなロロを手招きし、近づいてきた彼の癖のある髪を撫でた。

ふいっと目を逸らしたロロは照れているらしく、渋々ではあったがそのまま部屋を出て行った。

一度深呼吸する。

それからアーニャの肩を優しく叩いた。


「アーニャ。」


彼女は答えないが眠ってはいないらしい。

すっと目を開けて、それからまた閉じる。


「アーニャ、もう学校に行く準備をしないと間に合わないぞ。」

「・・・行きたくない。」

「行きたくない?」


元々自ら希望してアッシュフォード学園に転入してきたはずの彼女が『行きたくない』と漏らす理由がルルーシュには分からない。

ナイトオブラウンズである彼女がクラスでいじめの対象となるということは考え難い。

勉強が嫌いだと言われてしまえばそれまでだが。

さて、どうするか・・・とルルーシュは首を傾げた。


「アーニャ。」

「ルル様と、離れるのは嫌。」

「・・・は?」

「ルル様、先輩だから。授業が始まったら一緒にいられない。」


きゅっと、ルルーシュに縋る手の力が強まった。

アーニャは中等部でルルーシュは高等部。

離れるのは仕方の無いことだ。

しかし離れたくないと言うアーニャをどうするか。

きっとキッチンではロロがイライラしながら待ってるに違いない。


「俺は朝食を作らなきゃいけないんだ。」

「・・・・・・・」

「・・・わかった。交換条件をだそう。」


アーニャがのろのろと顔を上げる。

ルルーシュは微笑んでいた。


「アーニャが学校に行く代わりに、俺はアーニャに弁当を作る。ロロにも作ったことの無い特別仕様だ。」

「特別・・・?」

「そう、特別だ。」


『特別』という言葉に眠たげだった目を見開いたアーニャはゆっくりと起き上がる。

どうやら交渉は成立したようだ。


「おはよう・・・ルル様。」

「おはよう、アーニャ。」







***








「兄さん・・・」

「心配するな、ロロ。」


キッチンでは膨れ顔のロロが待っていた。

相手はラウンズ。

気を許してはいけないと、そう言いたいのだろう。

アーニャはぼんやりとしているようでとても聡い。

ルルーシュには及ばないものの、ちゃんとした戦略で周囲の目を欺きながら捕らえられていたカレンを助け出した。

黒の騎士団に入団を希望したが、表向きはラウンズのままだ。

「あげる」と言ってルルーシュに捧げたモルドレッドもちゃんとあるべき場所にある。

だから何事も無く学園にも通えているのだ。

『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』が生存していることを知る数少ない人間でもある彼女をルルーシュは受け入れた。

自分でもどうかしていると思う。

懲りない奴だと自分を罵ってみたりもした。

大切な存在は必ず失われる。

自らの瞳に宿る王の力が自らを孤独へと導くのだ。

いつかはアーニャも。

そんな不安は心の奥にしまってある。


「ロロ、お前今日日直だろ?早く行かなきゃだめなんじゃないのか?」

「・・・でも兄さんをラウンズと二人きりになんてできない。」

「表向きはラウンズだが、アーニャはもう黒の騎士団だ。俺の騎士だよ。」


焼けたトーストにマーガリンを塗って渡すと、ロロは黙ってそれに噛り付いた。







ロロを送り出してからルルーシュは手早く弁当の準備を済ませてしまった。

手早くといってもそれなりに時間はかかってしまった。

しかし何故かアーニャはリビングに姿を見せない。

手を洗ってタオルで拭いてから自室へと向かう。

着替えてからリビングにおいでと言っておいたはずだから、部屋の中にいる可能性が一番高い。

コンコンとドアを叩いた。


「アーニャ?」


呼びかけに返事は無い。

しかし相手が着替えている可能性も踏まえて迂闊にドアを開けるわけにはいかない。

もう一度ノックしようと手を伸ばすと、静かに開いたドアの向こう側からアーニャが姿を現す。


「アーニャ?いつまでもリビングに来ないから心配して・・・いや、いい。わかった。そこに座ってくれ。」


部屋にある姿見の前に椅子を置いて何も言わないアーニャを座らせる。

ピンクの髪がグチャグチャに乱れていた。

大方髪を結おうとして上手くいかず、悪戦苦闘していたのだろう。

櫛を通しながら髪の絡まりを少しずつ解いていく。

痛くないか?と問いかけるとアーニャは少しだけ首を横に振った。


「ルル様、慣れてる。」

「ん?ああ・・・前はよく、妹にやってあげてたから。」

「ナナリー様?」


ルルーシュは何も言わなかった。

そのまま手だけを動かしてアーニャの普段どおりの髪型を完成させる。

そっと整えられた髪に触れて、アーニャは鏡の中の自分を見つめた。

少しだけアーニャの目元が綻ぶ。


「これでいいか?」

「うん。」

「髪、普段はどうしてたんだ?」

「ジノ、とか。あれ、ああ見えて無駄に器用。」


なるほど、とルルーシュは頷いた。

彼の項の三つ編みは自分でやっているのかもしれない。

そう思いながら手元にあった紅のネクタイを彼女の襟元で結ってやる。


「これでいい。朝食食べるぞ。」


差し出されたルルーシュの手をじっと見つめた後、その手を取ってアーニャは立ち上がった。








ボツ理由:続かなかったから。
これで大体ゴミ行きは出し尽くした感じがします。