長い長い、何の変哲も無い廊下。
距離は100メートルほど。
見据える先には一つの扉がある。
深呼吸の後、タイル貼りのその地に一歩を踏み出した。
ピーッ
鳴り響くのは電子音。
一歩一歩、踏み出すたびに同じような音が鳴る。
たまにジャンプして、違うタイルに飛ぶ。
踏んでいいタイルとそうでないタイルがあるのだ。
正解すればさっきのような音がなるし、間違えればそれ相応の音が鳴る。
30メートルほど進んだところで一度とまる。
また一つ深呼吸。
頭の中を整理してからまた足を踏み出した。
ピーッ
今度は赤外線センサーだ。
目には見えないセンサーが張り巡らされている。
その数は100本。
その内ダミーは30本。
ダミーの場所は確認済みだから、あとはちゃんとそれを記憶しているかどうかだ。
正直自信は無いが、別に間違えたからといって何が起こるわけではない。
一般人が命を落す程度だろう。
しかし自分には関係ない。
自分の身体能力は人並み外れていると自他共に認めているし、何よりも身にかけられた『願い』の力がある。
ビーッ
考えてる傍から間違ってしまったらしい。
何も無かった白い壁がガコッと音を立てる。
穴が開いてそこから覗いたのはマシンガン。
耳を劈くような連続した発砲音に顔を顰めながら銃弾を避けて走り抜ける。
ピーッ
ドアの前にたどり着くと、銃声は止んだ。
セキュリティを少々頑丈にしすぎたかもしれない。
侵入者はまず100メートルの廊下で命を落す。
もし突破できたとしても、目の前の扉を開けることが出来るのは限られた人間のみだ。
ドアの前にある装置のパネルにあるボタンを押す。
まずそれは人差し指の指紋認証。
それをパスしなければその先の認証に進むことが出来ない。
足元に30センチ四方程の穴が開いて、そこから柱上の装置が出てくる。
腰の辺りまで出てきたそれの上底に手のひらを乗せた。
ピーッ
手のひらの血管による静脈認証。
その後ドアの横に小さなパネルが出現して、赤い光を放った。
線状のセンサーが顔の上を滑っていく。
網膜、虹彩認証。
ピーッ
ガチャンと鍵の開く音がした。
鋼鉄の、重い扉を押し開ける。
薄暗い、広い空間。
ゴポ・・・と水の沸き立つような音がする。
その音の発生源に向けてまっすぐ歩いた。
黒い、棺のようにも見えるそれにそっと触れる。
『今日も失敗したのか』
淡白な声が聞こえた。
肩をすくめて苦笑する。
「あれ、分かっちゃった?」
『あのマシンガンの音が響けば誰でも分かるさ。勿論無傷なんだろうな。』
「心配してくれた?」
『・・・うるさい。』
外見からは分からないが、黒の棺の中にはある女性の身体が納められている。
彼女は、愛した魔王の為に身を捧げてしまった魔女だ。
世界の為に命を棄てた魔王に彼女は身を捧げ、魔王の媒体となった。
死した魔王と意思を交わすことが出来た魔女はその身を通して魔王の意思を伝える。
他でもない、魔王が愛し、魔王を愛し、魔王を殺した『英雄』の為に。
『今日は何だ?』
「サクラダイトを電気エネルギーとして供給する方法、ロイドさんが提唱してくれたよ。」
『それはよかった。上手くいきそうか?』
「なんとか。」
『あとは?』
「・・・何か用が無きゃ来ちゃいけないのか?」
『いけないって事は無いが・・・ただ会うためだけだったらあのセキュリティを突破してまでくる価値が無いんじゃないか?』
「怒るよ。」
黙り込んでしまった彼に、思わずため息を吐く。
価値とか、そういう問題ではないのだ。
彼の意思で、それに従って彼を殺した。
自分で選んだ道であったとしても悲しくて。
ただ彼が傍にいないことが辛かった。
それでもあの何重にも仕掛けられたセキュリティを突破すれば、話をすることは出来る。
触れることが出来ないのはもどかしいが、言葉は交わすことが出来るのだ。
「君がいない。」
『そうだな。』
「でもここにくれば君がいるんだ。だったら僕は銃で撃たれてでもここに来る。」
『・・・やめろよ。』
「分かってるよ。怪我をしなきゃいいんだろ?」
彼は優しい。
人が傷つくのを恐れる。
覇道を阻むものには容赦が無かったが、近しい人間には驚くほど甘かった。
その甘さが彼にとってプラスだったのかマイナスだったのかは分からない。
「大丈夫、僕には君の『願い』があるから。」
『まだ解いてなかったのか。ジェレミアに頼めば解くことができると言っただろう。』
「解かないよ、一生ね。あの『願い』があれば僕は怪我をせずにここまで来れるから。」
彼に会うための力なら、一生手放さない。
もし死んでしまった時、彼の元にいけるという絶対的な保障がない限りは死ねない。
いけるならば死んだって構わないとさえ思えるが、死んだ後どうなるかなんて誰にも分からないのだ。
もう呪いだとは、思わない。
「僕の生きる理由は君だよ、ルルーシュ。」
『お前・・・』
「僕が生きる理由に会うためにはこの力が必要だ。ありがとう、この力を僕に授けてくれて。」
『それをかけた時はっ・・・』
「わかってる。」
そんな気なんてなかった。
ただ無我夢中で、お互いが死なない方法を模索した結果がそれだったまで。
それでもいい。
それでも、愛しいのだ。
「なんでこんなに君が好きなんだろう。」
『知るか。』
「ねぇ、君は僕が好き?」
『・・・誰が言うか、そんなこと。』
「そっか、ありがとう。」
彼が照れるということはそういうことだ。
だから彼の態度を肯定として受け取る。
嬉しくて、涙が出そうだ。
「ルルーシュ、愛してる。」
ボツ理由:あまりにも無茶な設定だっt(ry
普通にルルーシュと交信するだけならC.C.そんなんしなくてもえーやんって思うかもしれませんが、そこらへんも色々設定がありました。
スザルルのキューピットになる気はなかったとか、心置きなくCの世界に篭るためとかそれ系のw
まぁそこらへんが無茶な設定ってコトです(笑)