「こんにちは、枢木スザク。」
彼の声が聞こえた瞬間、時間が止まった。
「どうやってここに。」
「勿論力を使って、ですよ。アナタの大嫌いな力をね。」
アッシュフォード学園の制服を纏ったロロは、床に座り込んでいるスザクを見下ろして笑った。
体感時間を止めるギアス。
それを駆使して、ロロは政庁に進入したのだ。
スザクの時間も止めて、彼の両腕に手錠をかけて柱に固定した。
人間とは思えない人並み外れた力で抵抗されると思っていたのだが、スザクは大人しく座ってロロを見上げている。
「アナタならこんな子供騙し、すぐに無かったことにすると思ってたんですけど。」
同じタイプの手錠をもう一つ持って、それがぶつかってカシャッと音を立てる。
「聞きたいことは山ほどある。君もそうだろう?」
「そうですね。」
「だからそれが終わるまではこのままでいてあげる。一応君は『大事な親友』の『弟』だから。」
「ワザとらしい。もう確信しているんでしょう?」
ルルーシュの記憶が戻っていると。
ルルーシュがゼロであることをスザクはもう気づいている。
その上でルルーシュを親友と呼び、ロロのことを弟と呼ぶ。
「君は何故ルルーシュに?君の任務は元々ゼロを抹殺するというものだったはずだ。」
任務成功率は至って優秀。
持ちうる能力と残忍な性格故に数々の『ターゲット』を抹殺してきた。
秘密情報局としてルルーシュに近づいたロロはいつの間にか寝返っていた。
「僕はね、兄さんが大好きなんです。」
ロロは微笑んだ。
まるで子供のように、無邪気な笑顔。
「僕はもう弟だと兄さんは言ってくれた。すごく嬉しかった。それが嘘でも。」
「嘘?」
「僕、知ってるんです。兄さんが僕のことを『ボロ雑巾のように捨ててやる』って思ってること。」
スザクは絶句した。
あまりにも酷い内容。
利用するだけ利用して、いらなくなったら捨てる。
「それでも僕は兄さんの傍にいたい。兄さんが僕のヴィンセントに爆弾を仕掛けたなら、兄さんのために敵に取り付いて爆発してやる。」
「お前はどうしてッ・・・!」
「兄さんは優しいから。捨ててやるって言ってても、きっとその罪も背負ってくれるから。」
愛しい。
愛しくて、周りが見えなくなってしまう。
それでもいい。
兄だけ見ていればそれでいい。
「兄さんが僕を捨てる時、僕の存在は罪の形となって兄さんの中に永遠に刻まれる。」
永遠、何てイイ響き。
ロロは手に握っていたロケットを見る。
ハート型で、男が持つようなものではない。
違うものを買ってやると伸びてきた手は払った。
これは『僕』のモノ。
ナナリーではなく自分の。
「いい事を教えてあげます。枢木スザク。」
ロロの幼さを残した笑顔は一瞬にして狂気に染まる。
「シャーリー・フェネットを殺したのは兄さんではなく僕ですよ。」
「・・・嘘だ。」
「どうして嘘だと思うんですか?どうせアナタは兄さんが殺したほうが都合がいいだけでしょう?憎しみを増幅させて自分を突き動かす動力源にしたいだけ。」
「どうして・・・シャーリーを・・・」
「否定はしないんですね。まぁいい。あの女は邪魔だったんですよ。利用価値も無い。ただ兄さんの足枷になるだけの役立たず。」
バキッと、大きな音がする。
次の瞬間には背中に痛みが走っていた。
手錠を壊したスザクがロロを組み敷いて、銃口の照準を心臓に合わせる。
「僕は兄さんのモノ。」
カチャッと音がして。
一瞬。
その内にスザクの背後を取ったロロの銃がスザクの後頭部に押し当てられる。
ギアスの使いすぎで悲鳴を上げる心臓。
そんなことは関係ない。
「兄さんも、僕のモノです。」
この心臓が沈黙するまで。
ボツ理由:シャーリーを殺したのがロロだと分かってしまったら、スザクがシャーリーの言葉を理由に自分を見つめなおせないような気がしたから。
ほかのボツ小説とは違って珍しく最後まで書き上げてます。