「兄さん・・・」
ロロは黙って『兄』を見下ろす。
偽りの兄とはいえ、兄弟として過ごした日々はかけがえのないもの。
監視する役目を担ったはずがいつの間にか絆されてしまった。
兄は、自分の足元に座り込んでいる。
彼の虚ろなアメジストが、ロロを射抜いた。
「何も・・・言うな・・・」
自嘲気味に呟いた彼の口元は、赤い血で染められていた。
「・・・ゴホッ・・・っ・・・!」
「やだ、ルルちゃん風邪?」
「そんなとこ・・・です・・・けほっ・・・」
生徒会室。
いつものすまし顔を歪ませたルルーシュはたて続けに咳き込み、身体を強張らせる。
ミレイが心配そうに背中を擦ってやり、シャーリーやリヴァルもルルーシュの咳が収まるのを半ば祈るように見守った。
ただロロだけが泣きそうな表情を浮かべる。
その薄い唇を硬くかみ締めていた。
やがて落ち着いたルルーシュは申し訳無さそうに微笑みながら顔を上げた。
「会長、すいません。」
「いいのよ。ルルちゃん今日はもう帰りなさい。」
「駄目です。会長一人じゃこの予算申請処理しきれないでしょう。」
「ルルーシュ、お前顔色最悪なの気づいてるか?」
リヴァルの言葉にルルーシュは目を見張った。
ルルーシュにしてみれば自分の顔を鏡で逐一チェックするほどナルシストでもない為、自分の顔色など気にしたことがない。
顔色が最悪・・・というのは寝耳に水の情報だ。
突如、ルルーシュの腕が掴まれて、強制的に立ち上がらされた。
「ほぁあ!?」
ルルーシュの素っ頓狂な声が木霊する。
ルルーシュが腕を掴んだ張本人を見上げてバツが悪そうな顔をする。
「スザク、今日は学校に来れたんだな。」
「会議が終わったから生徒会だけにでも顔出そうと思って。でも皆の言うとおり顔色が悪い。今日は帰った方がいいよ。」
クラブハウスまで送っていってあげるから。
そう言って歩き出そうとした瞬間。
いつの間にかスザクの代わりにロロがルルーシュの腕を支えていた。
生徒会メンバーが「え?」と目を見張って、スザクは少し目を細める。
「兄さんは僕がつれて帰ります。」
「おいっ・・・ロロ!?」
為す術無く引きずられて生徒会室から出て行ったルルーシュを、スザクは無表情のまま見つめた。
「ロロ!あんな公の場でギアスをっ・・・!」
そこまで言って、ルルーシュは次に発せられるはずの言葉を呑み込んだ。
ロロが瞳一杯に涙を溜め込んでいたからだ。
小さくため息をついて、指の腹で涙が浮かんだ目元に触れる。
「泣くなよ。」
涙を流すまいと必死に堪えるロロの努力もむなしく、大粒の涙がボロリと零れた。
小さい、嫌だ・・・という声が耳を掠める。
ルルーシュは困ったように首を傾げた。
「何がそんなに嫌なんだ?」
「全部ッ・・・全部だよ!枢木スザクが兄さんに触るのも、兄さんがッ・・・」
本当に小さく紡がれた言葉。
それはロロ自身が認めたくはないからだ。
嘘であってほしい。
何かの間違いであってほしい。
そう願わずにはいられない、あまりにも残酷な現実。
「ロロ・・・いいんだ。それが運命ならば、俺は受け入れる。」
「どうして・・・どうして兄さんばっかり・・・」
泣き崩れたロロを支えて立ち上がると、ルルはありがとうと言いながらロロの癖の強い髪を撫でた。
ボツ理由:自然消滅(要するに筆が進まなくてそのまま放置)
この後病気で息も絶え絶えになったルルーシュを助けたいがためにC.C.が無理やりコードを継承させる。
こんな設定を考えてたんですが、色々本編で設定が明らかになっていくにつれて断念しました。