『あの日』が近づくにつれて、不思議と身体が重くなっていった。



嗚呼、僕が彼から解放される日は一生来ないんだ、って分かった瞬間、悲しくて、嬉しかった。





空と、君を想う











悪逆皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。

世界にその名を馳せた、まだ18歳だった皇帝の墓は、ブリタニアの皇族達が葬られる皇墓にある。

ただ、暴かれることを恐れて遺体はその土の中には無かった。

それは彼の墓に限ってのことではない。

皇墓にならぶ墓標全ては復元されたもので、本物の墓標も土の中にあった筈の棺も、全ては殺戮兵器フレイヤの光で一瞬のうちに消え去った。

今ある墓は皆、見せかけのものだ。

ゼロは、彼の墓の前に呆然と立っていた。

『枢木スザク』という人間で死に、『ゼロ』として生まれてから一年。



そして、彼が死んでから一年。



世界はまだ彼が作り上げた姿を守っている。

彼の墓前で最悪の報告をしなくて済んだことに安堵した。

手袋越しにそっと触れて、墓標の冷たさに目を細める。


『・・・君は、幸せだった?』


変声器を通した声で、そっと呟く。

その問いかけはあの日以来幾度となく投げかけた。

ただ当然のように、それに返してくる声はない。

答えは見つからないままだったが、剣で貫いた時の顔がどこか満足気だったから、きっと思い残すことなどなかったのだろう。


『あれから、一年経ったよ。僕はちゃんと君との約束・・・守ってる。』


生きろ、と。

最初にそうギアスをかけられた時、それは『呪い』でしかなかった。

死に場所を求め、誰かを守って死ねたなら尚良いと思い軍に身を寄せて。

それなのに彼の異能は死ぬということを許してはくれなかった。

しかし短くもとても長く感じた年月が、それを『願い』に変えてくれた。

そしてそれが彼との『約束』になり、『絆』として残ってくれたのだ。


『君に言われた通り、僕は世界に残りの人生を捧げるつもりだ。・・・ただ、今日だけは・・・君の事だけ想っていてもいいだろ?』


ただの親友として、親友の死を悼む。


『枢木スザク』に、戻る。


ゼロの証である仮面を外そうと、手をかけた・・・その時。



「お、ゼロー!!」



聞き覚えのある声が響き、ゼロはビクリと身体を震わせた。

ぎこちない動作で振り返るとそこには、かつての学友の姿。


「あ、どうぞどうぞ、続けて?」


悪びれた様子もなく、そう微笑んだのはミレイだった。

仮面に手をかけ、今まさにそれを取ろうとしていたゼロに続きを促す。

しかし流石にそのまま仮面を取るわけにはいかず、ゼロはまたぎこちない動作で仮面から手を離した。

つまらなそうに唇を尖らせたミレイの後ろから大荷物を持って顔を覗かせたのはリヴァルだ。


「あ、ゼロじゃん!何、今日仕事ないの?」

あ、スザクじゃん!何、今日軍務ないの?


以前学校でもそうやって挨拶を交わしたリヴァル。

名前は違えど全く同じ調子で話しかけてくる彼に、ゼロは盛大にうろたえた。


『え、いや・・・その・・・』

「ゼロには今日の予定をすべてキャンセルしていただきました。大事な日ですもの、ね?」


更にその後ろから、ナナリーと、その車椅子を押すニーナが。

ニコニコとほほ笑むナナリーにゼロは盛大に首を傾げた。


『あの・・・代表・・・』

「はい?」

『皇墓には限られた者しか立ち入れない筈では・・・』

「不法侵入ではありませんよ?だって私が許可したんですから。」

「ナナちゃんの権力にバンザーイ!!!さぁリヴァル、さっさと準備始めるわよ!」

「りょーかいっ!」


ミレイの号令でリヴァルが抱えていた大きな荷物を地に下ろす。

テントに寝袋、地にはピクニック用のシートを敷いて。

ニーナはそのシートの上にお菓子や弁当が入っているらしいバスケットを置いた。

それを茫然と見つめているゼロの背中を、ミレイが責めるように叩く。


「こらゼロ、アンタもぼさっと見てないでテント張るの手伝いなさい。」

『は、はい!』


あまりにも『枢木スザク』で会った時と同じ接し方をするものだから、ゼロも思わず反射的に答えてしまう。

一人でテントを組み立てるのに悪戦苦闘していたリヴァルに近寄って手伝うと申し出れば、「サンキュー!」と彼はいつもの笑顔で言った。

ゼロが加勢してから作業は一気に進み、あっという間にテントは完成した。

ニーナが準備を進めていたシートの方も、飲食物は全て並べ終え、取り皿まで置かれていた。

それらを見てニッコリと笑ったミレイは、すぅっと息を吸った。


「それでは我らがミレイ会長より開会宣言です!」


リヴァルのその言葉を合図に、ミレイは吸った息に言葉を乗せて一気に吐き出した。


「第一回!『ルルちゃんと一緒』にドキドキキャンプ祭り!!!」


広い皇墓に声が響く。


「祭りとは何か違う気もするけど・・・」

「何言ってるのよニーナ!これはれっきとしたお祭り!しかも場所がお墓なんていかにも何か出そうでワクワクするわね!」

「罰当たりだよミレイちゃん・・・」

「まぁまぁ細かいことは気にしないの!さぁ皆座って!ゼロはナナちゃんをシートに下ろして差し上げなさい!」

『はい』


小さく返事をして、いつしか『ルルーシュ』がしていたようにナナリーを抱えようと手を差し伸べたのだが、それを制したのはナナリーだった。

首を傾げたゼロにナナリーは苦笑する。


「ゼロ、先に私をお兄様の元へ連れて行っていただけますか?」

『・・・はい。』


石畳の上をナナリーの車椅子を押しながら歩く。

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。

兄の名前が刻まれた墓標に、ナナリーは膝の上に乗せていた箱を置いた。

ナナリーが蓋を開けると、そこにはサンドウィッチが。


「お兄様、私が作ったんです。お兄様の味には到底敵いませんけど、食べてくださいますか?」


勿論それに対する回答はあるはずもない。

暫く感慨深そうに墓標を見上げた後、ナナリーは満足したかのように微笑んだ。

それを合図として受け取り、ゼロは踵を返してまた車椅子を押す。

シートに腰かけていたミレイ達の元に戻り、今度こそナナリーを抱えて車椅子から降ろす。

ゼロはシートには座らず傍で立っていたのだが、ミレイの咎めるような視線が飛んできて、仕方なくナナリーの隣に腰かけた。

それから各々他愛のない会話をしながら弁当を咀嚼する。

それを黙って見ていたゼロに、リヴァルが不思議そうに声をかけた。


「なぁゼロ、その仮面ってさ・・・口のとことか開くのか?」

『え・・・いや・・・』

「開かないの?じゃあ何も食べれないじゃんか。」


どうしていいか分からず固まってしまったゼロに、ミレイはからあげを頬張りながら至極つまらなそうに言った。


「いいじゃない、仮面とっちゃえば。ここには私達しかいないんだし。」

『それは・・・できません。』


場が静まりかえった。

先ほど、まだこの場に一人だった時。

確かに一度『枢木スザク』に戻ろうとした。

仮面を外そうと手をかけた。

だが今、この場には自分一人ではないのだ。

誰かがいるところで、『枢木スザク』になる事は許されない。

やはり自分はここには似つかわしくないと、立ち上がろうとするゼロのてを握って引きとめたのはニーナだ。

強い意志の籠った瞳に射抜かれてゼロは動けなくなる。

小さくため息をついたミレイも、まっすぐゼロを見た。


「アンタが『枢木スザクは死んだ』って言うんなら、私達はそれを否定しない。アンタとルルちゃんがどういう約束をしたのかは知らないけれど、それも約束に含まれているなら折角の約束を無理やり破らせるなんてマネはしないわ。」


その言葉にゼロは少しだけ安堵の息を吐いた。

しかしその後「だけどね・・・」と言葉を続けた彼女に、ゼロは身を固くした。


「アンタがゼロでも、私の可愛い後輩で、リヴァルとニーナとナナちゃんの友達で・・・ルルちゃんの親友なんだもの。だから心置きなく『ゼロ』として此処にいればいいの。『枢木スザクじゃなきゃ此処にいられない』って決まり、私は作った覚えがないわ。」


仮面を取っても、アンタはゼロ。

それでいいじゃない。

そう念を押して言ったミレイが微笑んで、リヴァルもニーナも微笑んで、ナナリーはそっとゼロの手を取る。


「きっとお兄様も、しょうがないなって笑ってくださいます。」


嗚呼、とゼロは空を仰いだ。

雲一つない晴れやかな空。

本当にルルーシュが見ているかもしれない。

怒られるだろうか。

もしかしたら怒りのあまり化けて出るかもしれない。

そう考えて、本当にルルーシュは死んでしまったのだと思い知らされる。

ははっと笑って、ぐっと息をのんで、涙を堪える。

仮面がなくなった後の顔が涙でぐちゃぐちゃになっていたら、きっとこの『祭り』が興醒めになってしまうかもしれないから。

仮面に手をかけてギミックを動作させると、後頭部のあたりで仮面がカシャンと音を立てる。


頬を、柔らかい風が撫でた。


ああああああなんて支離滅裂ぅぅぅぅ@@!!!!!!
とりあえず何が書きたかったのかというと、今生きて目の前にいる友達の願いよりも「いない」ルルーシュとの「約束」が大事で、それを申し訳なく思ってるスザクと、そんなことを気にしないおおらかな生徒会メンバーが書きたかったんです。