きらりと光った剣の切先を見て、ルルーシュは薄く微笑んだ。

これで長かった反逆も終わりを告げるのだ。

ただ安らかに、ただ遺された人々が優しい明日を作り上げることを信じて。

ゆっくりと目を閉じる。

痛みはきっと一瞬だ。

その一瞬のそれに少し身構えてしまったが、変に緊張していると余計に痛いかもしれないと思いなおして体の力を抜く。




・・・が。




いつまで経っても痛みはこない。

目の前に人の気配はある。

『ゼロ』は、剣を構えて目の前にいる筈だ。

それなのに、その剣は身を貫かない。

恐る恐る目を開いたルルーシュが見たものは、切っ先がルルーシュに触れるまであと1センチというところで静止したまま、後方を向いて固まっているゼロの姿。

まさかここまで来て計画を変更しようとしているのではあるまいなと不安になり、ルルーシュは小さくゼロに向かって呼びかけた。


(・・・おい、スザク!!これ以上の間は民衆に不信感を与えてしまう・・・さっさとやれ!)


新生ゼロことスザクはやはりぴくりとも動かない。

業を煮やしてもう一度声をかけようとしたルルーシュの耳に、予想外の声が届いた。



「待てぇぇぇええええええぃ!」


そのドスのきいた声に聞き覚えがあって、でもまさかそんなあれ程のドス声を出せるやつはこの手で葬った筈だでは何故まさか世界にはあんなドスを出せるやつが二人もいたのかと、あれこれ考えていたルルーシュが次に聞いたのは、民衆の誰かが上げた声だった。


「皇帝陛下だ!」


さぁっと血の気が引く。

恐る恐る、スザクの身体越しにパレード車の下を覗き込んでみると。


「なっ・・・!!!」


思わずルルーシュは息をのんだ。

そこにいたのは、白いロールケーキと、勝気そうな黒髪の女性。

Cの世界に置いてきたはずの、両親の姿だった。

第98代、即ち先代の皇帝であるシャルル・ジ・ブリタニアはすっと目を細めて声を張り上げる。


「ルルゥシュゥゥ!お前のやり方はこのワシが認めぬわぁぁ!!!」

「何をッ・・・というか何故貴様らがここにいる!!!」

「お前達の馬鹿げた計画ゥ、ゼェロレクイエムを阻止しにきたのよぅ・・・!」


何故ゼロレクイエムの事を。

声を上げて問いただしたかったが、そこはぐっと堪えてどうにかこの場を切り抜けようと頭をフル回転させる。

何通りもの打開策を考えている間に、今度はシャルルの隣にいた女性がふわりと躍り出た。


「お集まりの皆様方、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの母マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアでございます。この度は息子がとんだご迷惑をおかけしました。」


ご迷惑って何だ。

心外だと声を荒げそうになるルルーシュだが、下の方でナナリーが小さく「お母様・・・」と呟いたのに気がつく。

信じられないようなものを見た様子で震えたナナリーに、マリアンヌは軽く片手を上げた。


「あらナナリー、お久しぶりね。シャルルのギアスもとけたみたいだし。」


あっけらかんと言い放ったマリアンヌ。

やはりナナリーは納得していない様子で震える声を出した。


「お母様・・・生きて、らっしゃったのです、か・・・?」

「まぁ生きているとは言い難い状況だけれど、一応この場に『いる』わ。ゼロレクイエムなんて馬鹿げた計画を壊してあげる為にね。」


もう、ルルーシュは既に沸点を突破していた。


「さっきから黙って聞いていれば二人して馬鹿げた馬鹿げたと・・・俺とスザクが二人で考えたこの計画を何だと思っているんだ!」

「これを馬鹿げたと言わずして何と言うの?こんな、『悪逆皇帝ルルーシュと枢木スザクを死んだと見せかけて表舞台から消して、優しくなった世界で二人こっそりラブラブしながら生きる』だなんて。」


しんっと、場が静まりかえる。

誰もが皆、口をあんぐりと開けたまま固まっていた。

その中、ぶるぶるとルルーシュが震えあがる。


「なん・・・だ、と・・・?」

「だから、『悪逆皇帝ルルーシュと枢木スザクを死んだと見せかけて表舞台から』」

「みなまで言うな!何だその計画は!二人でこっそりラブラブ生きるだと!?誰だそんなでたらめ言った奴は!」

「C.C.よ?」

「C.C.だと!?」

「馬鹿馬鹿しい計画だからとりあえず阻止してやれって、Cの世界から私とシャルルを出してくれたの。」


民衆や処刑されるために磔にされている面々は完全に蚊帳の外である。

そもそも今なんでこうしてパレードに集まってるんだっけ、と首を傾げる者すらいる。

磔にされているカレンは「もう帰ってもいいかしら」とどうにか拘束が解けないかもぞもぞと動いていた。


「と、とにかくそれはデマだ!俺達のゼロレクイエムはな、世界中の憎しみを集めた俺をゼロになったスザクが殺すことで憎しみを消して優しい明日を創るというっ・・・」

「だから、その時点でルルーシュはそこの仮面男に貰われていくんでしょう。そんなの認めないわ。というよりそこのゼロ、さっきから何自分無関係ですみたいな澄まし顔を仮面で隠してるのよ!諸悪の根源はあなたでしょう!」


マリアンヌがビシッとゼロを指差した。

指を差されたゼロは動じることはなかったのだが、それからちらりとルルーシュを見て、ゆっくりとした動作で仮面を外した。

現れたのは栗色の癖のある髪の日本人。

かつてナイトオブゼロとして殉死した男だった。

彼はため息一つ吐いて肩を落とした。


「・・・バレたか。」

「スザァック!!!?」

「いい機会だからルルーシュを独り占めしようとこっそり僕が計画してたのに・・・勘付くとは流石C.C.。」


しれっと言い放ったスザクに、ルルーシュは涙目だった。

敵対していたことも忘れふらふらとナナリーに歩み寄り、袖口で涙を拭った。

もうみんなおかしいよ。

これならまだ『悪魔』と罵られた方がいいよと。

ぐすぐすと鼻を啜ったルルーシュに、ナナリーはそっと触れた。


「お兄様」

「ナナリー・・・」

「死ぬつもりだったというのは、本当ですか。」


ナナリーの声が怖い。

いつもとは比べ物にならないほど低い。


「世界の憎しみを背負って死ぬつもりというのは本当なんですか。」

「それが俺達の本当の計画だった・・・」

「酷いっ・・・!こんな馬鹿げた計画ぶち壊して正解です!」


嗚呼、ついにナナリーまで『馬鹿げた』って・・・。

最後の拠り所であったナナリーの傍にもいられなくなり、立ち尽くしたルルーシュの肩に、スザクがそっと手を置いた。

ふわりとほほ笑んだ彼の真意に、ルルーシュは気付く事が出来なかった。



「もうゼロレクイエムとか今更だから早いとこ結婚しよう。」





計画クラッシャー







「だから貴方とルルーシュの結婚は認めないと言っているでしょう!」

「ワシのかわぁいいルルゥシュを何処ぞの馬の骨に・・・」

「シャルルは黙っておいでなさい!枢木スザク、そもそも結婚は当人達の自由だとしてもここまで両親を蚊帳の外とはどういう了見?」

「じゃあ結婚式に使うルルーシュのドレスはマリアンヌ皇妃に一任します。」

「あらそう?じゃあ応援するわ。早く結婚なさい。」

「マリアンヌゥゥゥゥ!!!?」




ここ最近病んでるようなモノばっかりUPしてたので、久しぶりにギャグです。
以前拍手としてUPしていた台無しシリーズと似たような話だったのでボツ予定だったんですが、勿体ないので手直ししてUPしてみました。
ルルーシュをスザクに独り占めされるのが癪だと思ったC.C.が暗躍して計画頓挫。
何故マリアンヌがいるのかとかいうのは突っ込まないでください^ρ^