倦怠感にも似た様な重さが身体を包んでいる。

特に何かしたというわけではない。

大きな仕事を成し遂げたわけでもないし、勿論誰かと身体を重ねたわけでもない。

そういえば今日はまだピザを食べていないな、と思い立った。

ピザを食べていないから力がわかないのかとも考えたが、だからといって何故か今日に限ってはその大好物ですら口にしたいとは思わない。

身体が重く感じるというだけで体調不良というわけでもない。

ただ動きたくなくて、C.C.は横たわっているベッドの枕をぎゅっと抱きしめて、ブランケットの中へと身を沈めていく。

まるでそれを咎めるかのような声が響いたのはその次の瞬間のことだった。


「おい、いい加減にしろ」


寝心地がいいベッドはキングサイズだ。

広さは十二分にある。

その中央で身体を丸めていたC.C.に、ルルーシュは不機嫌そうな声を投げかけた。


「いつまでそうしているつもりだ」


C.C.は応えなかった。


「今日一日ずっとそうやっていたそうだな。具合が悪いのか?」


声に心配の色が含まれていたから、一応それには首を横に振って応えた。

ルルーシュの口から、小さくため息が漏れた。


「俺の枕を返せ。」


C.C.が陣取っているのはルルーシュのベッドで、C.C.が抱きしめているのはルルーシュの枕。

加えてルルーシュは簡素な寝巻きを纏っていて、ベッドにC.C.がいるのにも構わずベッドに進入を果たした。


「・・・別の枕を使えばいいだろう」

「お前が奪ったのが一番俺の頭の形に合っているんだ。だから返せ。」

「・・・いやだ」


短くそう言って、C.C.はまた枕を強く抱きしめた。

ベッドと枕から、洗濯したて特有の香りと、それに混じる微かなルルーシュの香りがした。


「何をそんなに拗ねているんだ」

「・・・拗ねてなどいない」

「嘘をつけ」

「・・・嘘つきは、お前だろう」


押し黙ったルルーシュを見て、C.C.は鼻で嗤った。

力を与える代わりに願いを叶えてもらうと、まず約束した。

『契約』という形であったが、それは紛れも無く約束だった。

ただ途中で、彼には絶対この願いは叶えてもらえはしないのだと確信した。

与えた力は彼を魔王へと変えたが、彼の本質まで変えることは出来なかったからだ。

あいつは優しすぎる、とC.C.は絶望し、別の道を選ぼうとした。

やっと死を迎えられると、そう思った。

長い生はまるで拷問で、知っていた者は次々と衰え、死に、そして衰えない自らの身体は化け物だ魔女だと罵られ。

そんな生からやっと逃れられるのだと思ったのに、彼は駄目だといった。

そんな死に方は赦さないと。

どうしても死にたいなら笑いながら死ねと。

そういう死に方をさせてやるからと。

約束したのに。

そうやって彼もまた、先に逝こうとしているのだ。

「C.C.」

「・・・煩い。私は眠い。」

「・・・分かった。ここで寝ればいい。ただまだ寝るな。」


そう言ってルルーシュはベッドを出て行った。

しばらく静寂が訪れた。

それから間もなく戻ってきたルルーシュは、うつ伏せで枕に顔を埋めたままだったC.C.に手を伸ばした。

髪に、何かが触れる感触。

C.C.が顔を上げようとすると、「動くな」と一蹴された。


「・・・ルルーシュ?」

「髪がグチャグチャに絡まっている。本当に一日中ここにいたんだな。」


ルルーシュの手にはブラシが握られていて、それがC.C.の髪を優しく梳いていた。

上から下へと梳いていって、途中何度か絡まりに当たったのか軽く引っ張られて。

そんな単調な動作を繰り返しながら、ルルーシュがため息をつく。


「眠いのか具合が悪いのか何なのかは知らないが、一応女性なんだから身だしなみくらい自分で整えたらどうだ」

「整えなくても綺麗だからいい。何せ私はC.C.だからな。」

「そうだな」


珍しく嘲りでは無く同意の言葉が耳を掠めて、C.C.は思わず息を呑んで振り返りそうになった。

ただそこでまたルルーシュに「動くなと言っているだろう」と咎められ動きを止める。

綺麗だと思ってくれたのか。

いやこの童貞にそんな考えは無いだろうと思い直して、それでも残った可能性である『C.C.だから』という事への同意を思うと、なんだか胸の辺りが温かくなるのをC.C.は感じた。

この意味が分からない存在を微笑みながら受け入れる優しさを持つ彼を、どうして失わなければいけないのか。

そういえば今日一日、ベッドの中でそれを考えていたのだ。


うつ伏せている枕についた染みを問いただされたら涎を垂らしたとでも言って嘘を吐こうと、C.C.は決意した。






そこに、確かに身を沈めて








とりあえず『ゼロレク前』ブームです。