「ルルーシュ?」
それが彼ではないことくらい、分かっている。
分かっていてもついその名を口に出してしまう。
彼が、もう二度と戻ってくることのないクラブハウス。
一応元大貴族アッシュフォードの持ちものであるそこに大胆にも忍び込んで何かをしている人影に、ミレイは眉を顰めた。
「あなた、誰?ここで何をしているの?」
室内灯をつける。
彼らが過ごした空間そのままの姿を残したそこに、一人の女性が立っていた。
鮮やかなライトグリーンの髪。
白のブラウスと、赤のスカート。
金の双眸が驚きからか見開かれ、やがて穏やかに緩められた。
彼女は微笑んで肩を竦める。
「悪いな、『ルルーシュ』ではなくて。」
「あなた・・・」
ルルーシュを知っているのか、と問えば彼女は笑った。
そもそもその質問はおかしいかもしれない。
彼を知らない人は、世界にいないのではないだろうか。
もう一度問う。
「あなた、誰なの?」
「私か?私は・・・そうだな。『世界の敵』だ。」
「世界の敵?」
「だって、ルルーシュはそうだっただろう?だから私もアイツと同じだ。」
「と、とにかく出て行きなさい。立派な不法侵入だわ。人を呼ぶわよ?」
彼女はミレイを気にする事無く踵を返し、ルルーシュの私室であった部屋に入る。
勝手に入るな、と。
そう叫ぶように言いながらミレイはその後を追って部屋に足を踏み入れた。
彼女はルルーシュのデスクの前で立ち止まり、引き出しに手をかけている。
そこには鍵がかかっていた。
開かないそれに少し安堵しながら、ミレイは彼女を睨む。
「いい加減に・・・ここはっ」
「アイツの部屋だ。だからこそ私はここにいる。」
にやり、と彼女が笑った。
なにやらポケットを探り、手を引き抜く。
金色に輝くモノ。
「・・・鍵?」
「ああ。この引き出しの・・・な。」
鍵穴に差し込む。
ゆっくりとした動作でそれを回せば、音と共に伝わる手応え。
「ミレイ・アッシュフォード。」
彼女は開いた机の中に手を入れながら、静かに呟く。
「『ルルーシュ・ランペルージ』からのプレゼントだ。」
机の中を覗き込んでそれを見たミレイの瞳から涙が溢れる。
嗚咽が出て、ミレイは口を手で覆った。
「ど、して・・・」
「約束したのだろう?」
ここで花火を上げよう。
そう約束した。
「アイツは本当に花火を上げたがっていたよ。こっそり用意してまで・・・。」
ソレが入っていたのは何段かあるデスクの引き出しの中でも一番下にある、他よりも大きな引き出しだ。
そこにたくさんの花火を忍ばせていた。
打ち上げるもの、手に持つもの。
様々な種類の花火を全部出して、彼女はミレイに渡した。
ミレイの腕の中が『プレゼント』で一杯になる。
続いて一番上の引き出しを開ける。
一冊のノート。
それを手に持って、やはりミレイに差し出した。
もう持つことは出来ないから、花火の上に乗せた。
「これは『ルルーシュ・ランペルージ』の悪友、リヴァル・カルデモンドに。」
彼女がノートを開くと、そこにはルルーシュが書いたと思われる整った文字。
ところどころに赤で印が付けられている。
「リヴァル・カルデモンドは単位を落しそうな科目があったそうだな。ルルーシュなりにその弱点を克服できるよう資料を作っていたよ。一緒に、卒業したかったんだろうな。」
ミレイの瞳からまた涙が溢れた。
彼女はまた踵を返し、ルルーシュの部屋を出る。
リビングに戻り、彼女のものと思われるトランクをあけた。
そこに入っていたのは一冊の本。
「これは『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』からニーナ・アインシュタインに。彼女が好きそうな本がブリタニア宮殿にあったからとっておいたのだが、渡すタイミングを逃したらしくてな。私は暫く会う予定がないから代わりに渡しておいてくれ。」
彼女の視線がまたとランクの中に戻る。
取り出したのは黒いリボンだ。
「これは『ルルーシュ・ランペルージ』から今は亡きシャーリー・フェネットに。黒は地味だろうと忠告してやったのだがな・・・自分のアッシュフォードの制服を切って作っていたよ。彼女の墓にでも供えてやってくれ。」
その後彼女の手は、鍵の入っていたポケットとは逆のポケットに。
「これは・・・もし、出来たらでいい。ナナリーに渡してやってくれ。アイツが折ったものだ。」
ピンクの折鶴。
それもミレイが受け取った。
それが最後だったらしい。
彼女から受け取ったもので腕の中が一杯になった頃には、彼女が不法侵入者であることなどどうでもよくなっていた。
彼女はトランクをパタンと閉じて、それを持ってぐるりと室内を見回す。
生活感を遺してはいるものの、もう帰ってくる者がいない『家』。
思い出が詰まった場所。
「この場所が、他の者の手に渡ることはあるのかな。」
「ないわ。」
しゃくりあげたあと、ミレイは憤然と宣言する。
彼は死んでしまった。
彼の弟も。
彼の妹は生きて世界を支えているから、もうここには戻ってこないだろう。
メイドは姿を消した。
それでも、未練がましくもそのまま残してあるのは。
かけがえの無い思い出だから。
「ここはずっと、永遠にあの子達の家。」
「そうか、それはよかった。」
穏やかに微笑む。
印象的な金色の目が細められた。
「あなたは誰?」
「名前は・・・もう無い。私の名前はアイツが持っていってしまったから。」
自分の本当の名前を呼ぶのはアイツだけでいい。
そう言いながら彼女はリビングを出て、エントランスの階段を下りる。
クラブハウスのドアを開ければ、夜の澄んだ空気が肺に流れ込んできた。
静かな夜。
穏やかな世界。
涙を服の袖で拭って、ミレイは彼女の後姿を見つめた。
「どうして・・・ここに来たの?」
彼女は笑う。
「アイツのやり残したことを私が代わりにやってやっただけさ。」
Dear My Friends
それが共犯者の務めだろう?
C.C.をメインで書いていないような気がしたので書こうと思ったんですが、ミレイさんっぽいですね・・・メインが。
そろそろリハビリも兼ねてカレンを出そうと思ったんですが、彼女にプレゼント・・・と考えたときに『ダンベル』しか思い浮かばず(笑)
結局今回も除外しちゃいました、すいません。