「新しいご主人さま・・・ですか?」
いつも高圧的で、傲慢で。
いつも上から見下ろし、時にはまるで母のように包み込んでくれた。
そんな彼女の記憶は失われた。
恐らくはギアスを得る前。
『愛される』ギアスを持つ前の、人間としての権利すら与えられていないも同じ奴隷。
そんな時に、彼女は戻ってしまった。
必死に生きたくて。
何故生に縋るのかも分かっていないのに、ただ生きたい。
そんな気持ちがあるのだろう。
自分ができることを必死に並べあげて、何とか生きようとしている。
「あのっ・・・ご主人さ・・・」
「・・・ルルーシュだ」
「・・・え?」
「俺はお前の主人ではない。ルルーシュと・・・」
いつものように、ルルーシュと呼んでくれ。
そう言うとC.C.は首を傾げた。
初めて会った、ご主人様らしき人間。
いつものようにとはどういうことか。
そんな困惑した表情を浮かべている。
「ルルーシュ・・・さま・・・?」
「様もいらない。」
「しかしそれは・・・」
「構わない。」
いつも傍にある。
隣にいるのが当たり前だと思っていた。
「俺は・・・馬鹿だッ・・・!」
今も傍にいるのに。
それでも『いない』彼女を取り戻すことができたら。
それができたらどんなにいいだろうか。
蜃気楼にC.C.を乗せてルルーシュは朱禁城へと戻った。
移動中にマントを羽織り仮面を被ったルルーシュをC.C.は不思議そうな顔で見ていた。
ロロにも連絡を入れて一先ずはギアス嚮団の捜索を切り上げるように指示をした。
今はそれどころではないと思ったからだ。
降り立った蜃気楼に幹部たちが集まってくる。
コックピットの中から姿を現したゼロの後ろから、愛人と噂される女性も共に顔を出した。
「あぁん?なんで愛人がゼロと一緒に降りてくんだよ。」
玉城がさもめんどくさそうに頭をかく。
C.C.の肩が震えるのを視界の隅で捉えて、「気にするな」と小さく囁きかけた。
コックピットから降りたゼロは上を仰ぐ。
C.C.は飛び降りるのを怖がっているらしい。
ゼロが両腕を広げた。
「来い。」
受け止めてやる、とばかりにC.C.を見たゼロに、C.C.よりも幹部たちの方が驚いた。
飛び降りれないC.C.にも驚いたが、何よりゼロが受け止められるのかという不安の方が大きい。
ふるっと瞳を揺らしたC.C.は首を目一杯横に振る。
「あのっ・・・ご主人さまのお手を煩わせるわけには…」
「いいから来い。」
「大丈夫で・・・きゃッ!」
C.C.が足を滑らせてコックピットから落下する。
ゼロは無言でその予測落下地点まで走り、しっかりと受け止めた。
幹部からいかにも意外そうな、驚きを含んだ声が上がる。
横抱きにされたC.C.は顔色を真っ青に染めた。
「も・・・申し訳ございません!ご主人さ・・・」
「それはやめろと言った筈だ。」
「・・・申し訳ございません。」
「C.C.はどうしてしまったんだ?」
訝しがる藤堂に、ゼロは何でもないとだけ返した。
誰が見ても「何でもない」状況ではない。
それでも、誰もゼロにそれ以上追及することができなかった。
「あの・・・ごしゅじ・・・ルルーシュさま・・・?」
「ここではゼロと呼べ。」
「・・・ゼロ・・・さま?」
「今はいい。俺たちの他に誰かいる時は『ルルーシュ』という名を明かしてはならない。」
「畏まりました。」
自室に戻り、横抱きにしたままだったC.C.をソファーに下ろす。
『初めて座る』ソファーの感触に、C.C.は驚いて、そして目を輝かせていた。
奴隷としての記憶しか持たない彼女にとっては珍しかったのだろう。
ゼロは仮面を外してルルーシュに戻る。
仮面を置いてマントを外した後クローゼットを漁った。
C.C.に着替えを渡したかった。
しかしいつもならワイシャツ一枚で生活しているような女だ。
服などあるはずがない。
とりあえずは・・・といつものワイシャツを渡した。
服についてはどうにかしなければならない。
「とりあえず着換えろ。その服じゃ寛げないだろう?」
「あ、はい・・・」
俺は隣の部屋に。
そう言ってルルーシュがワイシャツを手に振りかえると、既にC.C.は黒の上着を脱ぎ棄て、インナーを捲くし上げている最中だった。
「おっ・・・い!まだ脱ぐな・・・!!!」
「・・・っひ・・・いやッ・・・!!!!」
駆け寄ろうとしたルルーシュの伸ばされた手。
C.C.は瞳を限界まで見開き、腕で自分を庇うように身構えた。
反動で尻餅をついてもなお、脅えて細い身体が震える。
ルルーシュは固まってしまった。
奴隷として過ごしてきた彼女は、恐らく失態を犯すたびに『主人』からの暴力を受けてきたのだろう。
人の手を怖がっている。
「ごめっ・・・なさ・・・!」
行き場のない手を戻し、その手をじっと見つめる。
今まで彼女は守ってきてくれた。
どうせ不死なのだからと己の命を盾にしてくれたこともある。
力をすべて失って、記憶までも失ってしまった彼女。
『死にたい』と願っていたことさえ忘れてしまっている。
奴隷として扱われ、生きるためにと契約し、死ぬために生きてきた。
悲しすぎる。
死ぬために生きてきたなど、そんな酷な生き方があるだろうか。
「C.C.・・・」
脱ぎ捨てたままになっていたゼロのマント。
それを攫むとC.C.を刺激しないように静かに近づく。
マントで震える身体を包みこんでやり、それごと抱きしめた。
彼女はこんなに小さな存在だっただろうか。
「あ・・・っ・・・」
「お前は生きたいか?」
「ルル・・・さ・・・」
「愛されたいか?」
金の瞳を見開いた彼女は涙をこぼしながら必死で頷いた。
死にたいという願いが失われ、生きたいという願いが生まれた。
愛されたいという願いも。
それは彼女にとってよかったのだろうか。
以前の彼女を取り戻したいと思ってしまうのはエゴか。
「ゼロ・・・彼女は一体・・・」
幹部の前に姿を現したゼロは、C.C.に対する疑問を一斉にぶつけられていた。
しばらく沈黙を保った後、静かにゼロは口を開く。
「アイツは・・・戦力から外す。」
まるで空を仰ぎ見るかのようなゼロ。
仮面の下で泣いているのではないかと思われるほど、哀愁に満ちていた。
「また、奪われてしまったよ。」
叶えられた願いと失ったモノ
『契約したろ、お前の傍にいると・・・私だけは・・・』
そう言ってくれた彼女はもう『いない』。
だ め だ !
あんなにC.C.がしおらしいとルルーシュが左側になってしまう!
っていうか既にこの小説左側?
いやー!許されない!!←え