「ルルーシュ君。」
少女の、抑揚のない声。
ブリタニア皇帝直属の騎士の第六の椅子に座る彼女は、幼いながらも大きな障害だった。
学園に転入してきた彼女は復学した枢木スザクには及ばないものの、それと似たようなレベルの厄介さ。
声をかけられたルルーシュはぎくりと肩を震わせた後、恐る恐る後ろを振り返る。
相変わらず彼女は携帯を片手に、そのデータの中の一枚の写真をルルーシュに突き出していた。
「・・・アールストレイム卿。」
「アーニャ。」
「ではアーニャ。何度も言うようですが、俺はその写真の人物のことは存じません。確かに似ているとは思いますが。」
「言葉、おかしい。あなた、先輩。」
一向に本題の話が進まないではないか。
ルルーシュはイラついていた。
毎日毎日彼女は諦めることなく、よくもまあ暇なものだと呆れるほど追いかけてくる。
実際アーニャの持っている写真に写っているのは自分だ。
それは認める。
しかしそれを公に認めるわけにはいかない。
死亡したことになっている元皇族。
その事実がよりにもよって皇帝直属の騎士などに知られるなど冗談じゃない。
「わたしは、アーニャ。」
「・・・そうだな。」
「あなたは、『ルルーシュ』?」
「俺はルルーシュ・ランペルージだ。」
ブリタニアの姓は持たない。
ただのルルーシュ。
「ちがう。」
アーニャはゆっくりと首を横に振った。
「違わない。いい加減にしてくれないか。」
「じゃあ質問を変える。あなたは、ゼロ?」
頭の中が真っ白になるのを感じた。
それでも身体中に信号を伝達して、なんとか身体が震えそうになるのを堪える。
何故、どうして。
そう思いながら、ルルーシュはこみ上げてくるものを抑えきれずに少し笑った。
「なにが、おかしいの。」
「仮に俺がゼロだったとしたら、ラウンズのアーニャには本当のことが言えないな。」
「言って。だいじょうぶ、捕まえたりしない。」
「捕まえる気がないなら聞く必要もないだろう?」
アーニャは表情を変えず、「ある・・・」とだけ呟いた。
狙いが全く分からない。
ただ知りたいだけ、という風でもなさそうだ。
「じゃあ、もし、仮に俺がゼロだと言ったら君はどうするんだ?捕まえはしないんだろう?」
「騎士団に、入る。」
「・・・ブリタニアの?」
「黒の。」
「・・・ほあぁあ!?」
突拍子もない返答に思わず変な声が漏れた。
何故だ、何故そうなる!
軽い絶望にも似たその感情をルルーシュはもてあましていた。
許されることならこの場で頭を抱えて唸りながら考えたい。
かつてないほど問題が難解すぎて知恵熱すら出てしまいそうだ。
「わ、わけを聞いてみてもいいかな?」
「ルルーシュ君が、皇族かもしれない、から。」
「だからそれは違うと何度も・・・」
「わたし、あなたに会ったことがある。覚えてないけど。」
幼い頃のことは忘れてしまった。
騎士としてのし上がっていくうちに。
人々を、殺していくうちに。
それでも。
「あなたの写真を持ってる。だから、守りたい。」
「何故?」
「わたしの記録、全部。わたしが守りたいもの。」
道行く人が笑っていたら、その笑顔を守りたいから記録に残す。
畦道に花が一輪咲いていれば、その花を愛おしく感じるから記録に残す。
「この写真、一番奥にある。」
データフォルダの一番最初。
行く先々で写真を取り続けたおかげで枚数は数え切れなくなっているけれど、そのデータ達の一番上で。
写真の少年は微笑んでいるのだ。
携帯の画面に映った写真を、指の腹で優しく撫でる。
「きっと、わたしが一番最初に守りたいと思った人。だから、守るの。」
「それを守ると、他の守りたいものを全て捨てなくてはいけなくなるとしても?」
こくりとアーニャは頷いた。
「この記録が、いちばん大事。」
それからすぐ踵を返したアーニャを、ルルーシュが慌てて呼び止める。
顔だけ振り返ったアーニャはじっとルルーシュを見つめた。
「紅月カレン。カレン・シュタットフェルト。」
「・・・!」
「連れてくる。ナイトメアと一緒に。」
「え・・・?」
「あとモルドレッドも。あなたにあげる。」
それだけ言い残して、アーニャは去った。
たった一つ、守るため、私は
後日、紅蓮とともに中華連邦に舞い降りたモルドレッドから降りてきたアーニャはゼロを見るなり抱きついて。
その日から、彼女は黒の皇子の騎士の一人に加わった。
初アニャルル。
アーニャは絶対こっちにくると新OPで確信しますた。
色々捏造しちゃったぜ★
きっと時間軸的にはシャーリーが死ぬ前。
じゃないときっとルルーシュ欝だから。
2008/07/08 UP
2011/04/04 加筆修正