手に残っているのはいつも、無機質なグリップの感触だ。

KMFは国を守る『騎士』で、人を殺す『兵器』。

何度も何度も握ったそれで大勢の人間を殺した。

敵も、そうでない者も。

それでも人を裂く感触が伝わらないのは幸いだ。

もしそうではなかったら今、こうして正気を保っている事はなかっただろう。




深夜独特のひやりとした空気を頬で感じながらスザクは走っていた。

身体の熱は見る見るうちに奪われていく。

肺も悲鳴を上げていて、それでも速度を緩めることなくただ走る。

時間が時間なだけに人気はなく、暗闇にただ己の息遣いだけが響いた。

辿り着いたのはアッシュフォード学園。

閉まっている正門をよじ登り、敷地内に着地して再び走る。

走って、走って、辿り着いた場所の大きな扉を乱暴に叩こうと拳を振りかざそうとしたところで、その扉が独りでに開いた。

スザクが泣きそうなまでに顔を歪めた先で、その正反対のような微笑みを浮かべた彼は立っていた。


「スザク」

「るる、しゅ・・・!」

「そろそろ来る頃なんじゃないかと思っていたんだ。」


ルルーシュはその微笑みを崩さないままスザクをクラブハウスの中に招き入れる。

エントランスの階段を上り、そのまま奥のルルーシュの部屋へと向かった。

ベッドに腰かけたスザクの汗をタオルで拭ってやりながら癖のある髪に指を絡めるルルーシュを見て、スザクは困ったように笑う。


「ごめん、ね・・・こんな時間に。」

「何を今更。」

「本当にごめん・・・その・・・眠れなくて・・・」


『眠れない』という理由で深夜に訪ねてくるようになったスザクを、毎回ルルーシュは苦言一つ零さずに迎え入れていた。

迷子の子供のような目をして縋る彼を諌めながら共にベッドに入り、眠りにつく。

ルルーシュが『ゼロ』として活動を始め、スザクが『ランスロットのパイロット』になった時から続くその密会は最早日常的なもので、スザクは申し訳なさそうに訪ねてくるのだがそれをルルーシュが気にする様子はない。

小さく震えるスザクの汗を大方拭ってやったルルーシュはタオルを置き、スザクの隣に腰かけた。


「今日も・・・たくさん殺した。」

「そうだな、俺もだ。」

「僕、が・・・引き金を引いたんだ」


呻くように言ったスザクが、力任せにルルーシュの身体を組み敷いた。

それを特に驚くそぶりも見せずベッドに背を預けたルルーシュは、迫ってくる涙に濡れた深緑を見た。

スザクの唇がルルーシュの唇を塞ぐ。

合わさったそれの隙間から洩れるのは互いの息遣いと唾液の絡む水音。

貪るようなキスの後離れたスザクはまた苦しげに呻いた。


「君を、殺してしまうかと思った・・・!」

「俺を撃墜したのはお前じゃないだろう。」

「停止したKMFに向けてトドメをさそうとしたんだ・・・!」

「でもお前はそれをしなかった。」

「君の仲間が助けに入ったからっ・・・そうじゃなきゃ今頃・・・!」

「俺はここにいるよ、スザク」


ルルーシュの手がスザクの手を捕まえて、そのままルルーシュの胸元へと導く。

そこには薄い胸板の奥で心臓が生を証明するかのように力強く脈動していた。

小さく声を漏らして目を見開いたスザクが、慈しむようにその場所に口付ける。


「・・・っ・・・スザク、くすぐった、い」


せめてもの抵抗にとその癖のある茶色の髪を引っ張ってみても、スザクは申し訳ないという表情すら浮かべずただ一心不乱に唇を這わせていく。


「全く、お前は・・・っあ、・・・」


呆れたようなその声も、やがては快楽を滲ませたような息に掻き消えた。










カーテンから差す眩しい光が、夢すら見る事のない深い眠りの淵から二人を呼び戻す。

気だるい身体は覚醒を尽く邪魔するようで、困ったように眉を寄せたルルーシュにスザクが温もりを求めてすり寄った。

学園は休み。

お互い何もなければもう少しはこの体勢を続けていられたはずだったのだが、その願いはすぐ叶わぬものとなった。

鳴り響く電子音。

その発生源はルルーシュの持つ携帯端末で、煩わしそうに髪を掻き上げながらそのディスプレイを見たルルーシュが小さくため息を吐いた。

短く表示される記号はコードネーム。


「悪いスザク、呼び出しだ。」

「・・・うん。」

「お前もすぐ出番になるだろうから早く帰って準備した方がいい。」


名残惜しそうにベッドから出たスザクが素早く着替えて、重い腰を上げるルルーシュに手を貸す。

スザクのように手早くとはいかなかったが何とか着替えを済ませたルルーシュは部屋を出て、キッチンからコーヒーの入ったマグカップを持って戻ってくる。

それぐらいの余裕は許されるだろうと笑ったルルーシュから受け取ったスザクがそれに口を付けた。

体内に熱が伝わるのをただ感じていると、その内寝起きで霞みがかっていた意識もはっきりとしてくる。

スザクが一気に飲み干したのを横目で見ていたらしいルルーシュが集めたらしい資料片手にマグカップを取り上げた。

それが、別れの合図となった。

笑顔のルルーシュに、泣きそうになりながらも精一杯笑顔でスザクも返して。

一呼吸の後、ゆっくりと踵を返す。


「じゃあなスザク、また・・・」


「うん、また・・・」





「「また、戦場で」」










お互いを敵同士だと分かっていても、それがどうしたと思える位依存しあってたら萌える。
なんかルルーシュが男らしくなりましたね・・・うん、強気受けということにしておこうw


2010/01/27 UP
2011/04/04 加筆修正