「こんにちは、枢木スザク。」

「あのさ、とりあえずフルネームで呼び捨てはやめないかい?」


まず、生徒会室に入るとこのやり取りが行われる。

スザクにとって色々な意味で強敵であるロロ・ランペルージ。

小動物のフリをして実は内心真っ黒な彼は毎回スザクが生徒会室に足を踏み入れる前に出迎えてくれるのだ。

勿論、歓迎してくれているわけではない。

その証拠に、彼の手にはギラリと怪しく光るものが握られている。


「そしてそのナイフをしまおう。明らかに物騒だから。」

「ええ、しまいますよ。あなたの腹とかに。」


こう、ズップリとね。

ナイフを動かす動作をしてみせながら微笑んだロロに、スザクは口の端をひくりと震わせた。

彼に勝てないことはない。

むしろこのまま彼がナイフを構えて突進してきたとしても避けることは簡単だし、そのまま粛清することだって可能だ。

体型も体力も、運動神経や反射神経も。

彼もそういう面が一般的に見て劣っているわけではないが、それでも比較対象が己ならば話は別。

しかしそんなロロを恐れなければならない理由が、彼が『小動物のフリをしている』というところにある。

『枢木スザクが僕に嫌がらせをッ・・・』なんて泣きつかれた言われた日には、極度のブラコンである己の想い人に一生口を聞いてもらえない・・・で済めばまだ可愛いものだ。

さて、今日は彼をどうやって出し抜こうか。

そう思案を始めたスザクを邪魔するかのように、今度は少女の声が響く。


「こんにちは、スザクさん」

「や、やあ・・・、ナナリー」


まず、ロロとのやり取りに区切りがついた後このやり取りが行われる。

スザクにとって色々な意味で強敵であるナナリー・ランペルージ。

小動物のフリをして実は内心真っ黒な彼女は毎朝こうして後から出てくるのだ。

勿論、歓迎してくれているわけではない。

その証拠に、彼女の手には・・・否、別に凶器が握られているわけではない。

だからと言って安心はできない。

例え彼女が持っている物が、植物に水をやるための如雨露だったとしても。


「朝から水やりご苦労様。」

「ありがとうございます。苦労の甲斐あって、やっと花が咲いたんですよ。」


ほら、と彼女の白い指が指示した方向を見て。

スザクは勿論固まった。


「あの、さ・・・」

「はい?」

「それって、トリ「綺麗なお花でしょう?」

「そうじゃなくてそれ明らかにトリカブ「綺麗な『お花』・・・でしょう?」


そう微笑む彼女に逆らえない理由が、彼女が『小動物のフリをしている』というところにある。

『スザクさんが私に酷いことをッ・・・』なんて泣きつかれた言われた日には、極度のシスコンである想い人に一生目を合わせてもらえない・・・で済めばまだ可愛いものだ。

惚れた弱み、とはまさにこの事。

彼に惚れたおかげでスザクは目の前の少年少女に勝てないのだ。

それこそ、どう足掻いても。





最凶な妹と弟と







「ナナリー、ロロ?」

「お兄様!」

「兄さん!」


ナナリーとロロの表情が一瞬にして輝いた。

いつもこんな感じだったらよかったのに。

そう思わずにはいられない。

現れたルルーシュはピンク色のエプロンをつけていて、それに口元が緩むのを感じながらスザクは目を細めた。


「ルルーシュ、何か作っていたの?」

「ああ、ジノとアーニャがケーキが食べたいと騒ぎ出してな。それに会長が悪乗りして結局俺が作るハメに・・・悪いがスザク、皿を運ぶのを手伝ってくれないか?」

「勿論。」

「兄さん!そんなの僕達に言ってよ!兄さんの手伝いだったら何だってしたいのに!」

「そうですわお兄様!」

「そ、そうか・・・?」


食いつくような勢いに若干圧され気味のルルーシュは、結局ナナリーとロロに任せようと苦笑し、スザクには「もうすぐできるからゆっくり待っていてくれ」とほほ笑んだ。

ふうっと一息吐いて生徒会室のソファーに腰掛ける。

『嵐』はルルーシュが連れて行ってくれた。

漸く気を抜いて、そして目を細める。

はてさてどうしてくれようか。

考えている時に丁度問題の二人組が現れ、スザクは一先ず笑顔を取り繕った。


「やぁ、ジノにアーニャ。僕のルルーシュに随分迷惑かけてくれてるみたいだね。」

「迷惑?」


何の事だ?と首を傾げながらスザクの正面にある椅子に腰かけたジノの足を、スザクは渾身の力で踏みつけた。


「覚えが無いなんて言わせないよ。僕のルルーシュに事もあろうにケーキ作らせてるんだって?」


理不尽ともいえるようなその行いに異論を唱えたのはジノではなく、アーニャだった。


「ルルーシュ、スザクのじゃない。」

「僕のだよ。」

「どうして?」

「僕は数あるルルーシュの性感帯の中でも最高クラスのスポットの位置を熟知する唯一の人間だよ?僕に勝てるとでも思ってるの?」

「・・・どういう、こと?」

「アーニャは知らなくていい。おーいスザクー自重しろー」


困惑顔のアーニャを後ろに下がらせ、ジノが歩み出た。

スザクと目線だけで火花を散らしていた時。


「お前達、喧嘩するなら食わせんぞ。」


いつの間にか背後に立っていたルルーシュは、不機嫌そうに目を細めながら低く唸った。

手には大きなケーキがある。

真っ白なクリームに、真っ赤なイチゴがふんだんに乗せられていて、放課後の小腹が空き始めた身には見ているだけで拷問だ。

しかしそのケーキはすでに欠けていて、どうやらある程度の人数分は切り分けられて皿に盛られているらしい。

キッチンの方からロロが大きな盆で皿にのったケーキを持ってきて、一つずつメンバーに配っていく。

しかしあとはスザクの分だけ、となった時、ロロはすっと踵を返してしまった。

畜生そうきたかとスザクが舌打ちしたいのを必死で堪えていると、入れ替わるようにキッチンから出てきたナナリーが一皿分のケーキを持ってスザクに近寄る。


「はい、スザクさん。どうぞ。」

「ありがとうナナリー」


よかった、これで食べれる。

嬉しそうにフォークを握ったスザク。

しかしそこで気づく。

ナナリーとロロが、いっそ綺麗なまでに微笑んでいることに。

ナナリーが、一輪の花を手に持っていることに。


「どうしたスザク、食べたくないのか?」

「そ、そんなことないよ・・・」


訝しがるルルーシュにぎこちなく微笑みながら。

『何か』が入っているかもしれないことを考えて泣く泣くケーキを捨て置くか、いっそ男らしくがっつり食いついて果敢無く散るか。


想い人を守る最凶の二人を前に、スザクは究極の選択を迫られている。







リクエスト内容:アッシュフォードを舞台にした学園パロで、スザクの最大の敵が双子ロロナナ
思いのほかスザクが最低でしたw
スザクのケーキに怪しいものが本当に入っていたかどうかはご想像にお任せで。
お待たせして申し訳ありませんでした。