「・・・−ジ!ランペルージ!!!」



意識の片隅で怒鳴りつけるような声を聞いて、呼ばれた張本人であるルルーシュはゆっくりと目を開けた。

眩しい。

窓側の席は暖かい日差しを存分に浴びていて、なんとも心地がいいものだ。

重い瞼がまたゆっくりと降りてくる。


「ランペルージ!」


その声は無粋。

不機嫌そうに眉を寄せて顔を上げたルルーシュは、黒板の前で憤慨しているらしい教師を見遣る。


「なんですか?」

「なんですか・・・じゃない!!今居眠りしていただろう!!」

「人聞きの悪い。そんなはずないじゃないですか。」


寝起きとは思えないほどの笑顔で、いけしゃあしゃあと言う。

クラスメイトはくすくすと笑っている。

勿論ルルーシュにではなくて、ルルーシュに翻弄されて顔を真っ赤にしている教師に向けて。


「お前が寝ていなかったというならこの問題を解いてみろ!」


バンッと教師が黒板を叩く。

煩い。

熱血教師は苦手なタイプだ。

ルルーシュはふぅっと溜息を吐く。


「解けません。」

「・・・そうだろう!」

「その問題、間違っていますから。等式が成り立ちません。故に先生が望む答えを出すことはできません。」


なんなら解が求められないことを証明して見せてもいいですよ。

その言葉で教師は教室を出て行ってしまった。

拍手が沸き起こる。


「流石ルルーシュ!これで今日は自習だ!!」


クラスメイトの一人が叫んだ。

ガタガタッと席を立つ音が無数に聞こえてきて、更には自分の横にすっと立った影に気づいてルルーシュは苦笑した。


「いいの?」

「いいのも何もないだろう。間違ってたのは本当で、俺は指摘しただけで、自分の間違いに羞恥を覚えた先生が勝手に出て行ったんだから。」

「それはそうだけど・・・」

「なんだ、不服か。それじゃあ今日の昼食の弁当は・・・」

「うそうそうそです、ごめんなさい!」


頭を下げたスザクは、縋るような潤んだ瞳で見つめてきた。

全くしょうがないな、と折れるのはいつもルルーシュの方だ。

鞄から大きめの包みを取り出して、ほんの少しだけ揺らした。


「もう食べるか。」


ほほ笑むと、スザクも顔を綻ばせた。


















本来は授業中な時間ということもあって校庭は静かだ。

そよぐ風に身体を預けながらルルーシュは目を細める。

こんな日々がいつまでも続ければいいのに。

そう願わずにはいられない。


「へいっ・・・ルルーシュ」

「・・・お前は何だってそう二人きりになった途端ボロが出そうになるんだ。気を抜き過ぎだぞ。」

「ご、ごめん。」

「それで、何だ?」

「本国から、連絡があって。」


スザクはルルーシュの数歩後ろをついて歩いていたのだが、ルルーシュに続きを促されるとその足を速めてルルーシュとの距離を詰める。

耳元に唇を寄せた。

ルルーシュも眉を寄せる。


「成程、そろそろ潮時というわけか。」

「残念ながら、そうかもしれないね。」

「まぁそれも仕方がないさ。」


一本の大きな木の下に、スザクがランチ用のシートを敷く。

その上に腰かけたルルーシュは、持っていた包みを広げて、箸をスザクに渡した。


「考えるのは食べてからでもいいだろう?」

「・・・だね。」


今日はスザクの為に日本風な弁当にした。

漆塗りの重箱はスザクの実家にあったもので、使わないというから有り難く貰い受けた。

そこに詰まっているのは色とりどりのおかずと稲荷寿司。

計算されているのはその色合いだけではなく栄養バランスもだろう。

スザクは手のひらを合わせて「いただきます」と呟いたあと、黄色の卵焼きを小皿にとって頬張った。


「美味いか?」

「勿論」


そうか、と満足そうに呟いたルルーシュがきんぴらごぼうに箸を伸ばした、その時。

耳を劈くような銃声と、ガラスの割れる音。

そして学生達の悲鳴が木霊した。























「ルルーシュッ、危険だ!ここは僕が・・・!」

「どうせ俺から行ってもお前が守ってくれるのだから同じ事だろう?」

「そうだけど、でも!」

「つべこべ言うな。」


ルルーシュは機嫌が悪かった。

折角の、スザクとの優雅なランチタイムを邪魔されて。

眉間に皺を深く刻んだままのルルーシュは、教室に戻る。

ドアを開けた瞬間。


「動くなァ!!!」


割れた窓ガラス。

散乱した教科書やノート、筆記用具。

隅の方に集められて銃を向けられたクラスメイト達。


「なんだ、お前らは。」


相手は10人。

皆ブリタニア人だ。


「お前らはなんだ、と聞いている。耳が無いのか?」

「生意気なッ・・・口のきき方に気をつけろよガキ!!!」

「いいから質問に答えろ。ここで、何をするつもりだ?」


ルルーシュの挑発的な態度に侵入者は苛立ち、クラスメイトは怯えたような視線を送ってきた。

動きそうになるスザクを手で制しながら、ルルーシュはほほ笑む。


「まさか目的も無しにこんな強硬手段はとらないだろう?」

「・・・お前らみたいなガキに何を言ったところで無駄さ!俺達が用があるのはブリタニア皇帝だ!」


なるほど。

ルルーシュは呟いた。

先ほどのスザクの報告は間違いではなかったらしい。

だとするとこの事態は早急に対策を打たなかった自分の責任。


「用があるなら言ってみろ。特別に聞いてやる。」

「だからお前に言ったってどうしようもねぇんだよ!」

「そうだな、確かに聞いても意味がない。俺はお前達の目的を知っているから。」


侵入者たちは目を剥いた。


「貴族制の廃止。お前らは粗方反感を抱いた貴族に金で雇われたんだろう。反抗勢力の存在はもう聞き及んでいるからな。そしてその貴族制廃止を提唱したブリタニア皇帝に報復するために手近なこの学園を制圧して人質に・・・というところか。」

「お前・・・何者だ!?」


にやりと、ルルーシュは笑った。

すっとスザクを制していた手を下ろす。

それによってスザクは静かに眼光を鋭くした。


「教えてやる。」


ルルーシュが小さく手を振った。

風が舞う。

一人。

また一人。

侵入者はなぎ倒されていく。

それを見ながらルルーシュは声を張った。


「私は神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアと第五皇妃マリアンヌが長子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」


その名乗りを聞いた犯人らはそれだけでも驚きに目を見開いて。

そしてそれも虚しくスザクによって地に沈んでいく。

スザクが最後の一人を倒し終えた頃、這いつくばった犯人の一人が最後の力を振り絞って銃を構える。

パンッ!

そんな音が木霊して、学生達が悲鳴を上げた。

銃弾はルルーシュに向けて発砲されたのだが、その弾道は大きく逸れた。

犯人の腕をスザクが踏みつけていたからだ。

それまでを見届けて、ルルーシュは肩を竦めた。


「全員伸してしまっては俺が名乗る意味がないだろう。」

「申し訳ありません。」


スザクが小さく礼をした。


「おま、え・・・なにもの、だ!」


その視線は今度はスザクに向けられた。

10人を一瞬で倒してしまったのだからそれも仕方のないことなのかもしれない。

スザクが困ったようにルルーシュを見遣ると、ルルーシュは小さく「許す」と呟いた。

それを受けて、スザクも目を細める。


「自分は神聖ブリタニア帝国名誉騎士候、枢木スザク。」


すっと、スザクの手がルルーシュを指示した。


「あちらにいらっしゃる神聖ブリタニア帝国第『99』第皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア陛下の騎士です。」

「皇帝っ・・・99代だと!?」


それには犯人らだけではなく学生たちも度肝を抜かれたようで。

苦笑しながらルルーシュは目を細めた。


「皇帝が代替わりしたことはまだ非公式だからな。就任挨拶は俺がこの学園を卒業したらと思っていたのだが・・・時期を早めるしかないようだ。」

「貴様ッ・・・」

「ちなみに貴族制の廃止を提唱したのも俺だ。」


前皇帝への報復はお門違いだったな。

嘲笑ったルルーシュの視線の先で、犯人らは全員スザクに問答無用とばかりに縛り上げられていた。

その時。

ドタドタドタ!

廊下を走るようなそんな足音が響く。

ルルーシュはぴくりと眉を震わせた。

スザクは一瞬顔を上げたが、然して気にする様子もなく再び犯人らに視線を戻す。

音が丁度教室のドアの前で止み、それが開いた瞬間。


「ルルーシュさまああああああ!!!!」

「煩いぞジェレミア。それに遅い。」

「も、申し訳ありません!」

「さっさとそれらを連行しろ。私もこのまま本国に戻る。」


ジェレミアと呼ばれた男は礼をして、スザクから縄を受け取る。


「悪かったな、巻き込んで。」


苦笑したルルーシュに、それを向けられたクラスメイト達は揃いも揃って首を横に振った。

それを見て安心したルルーシュは背を向けてスザクと共に教室を出ようとしたのだが、その背中に向けて叫ぶ声が響いた。


「ルルーシュッ!!スザク!!」


叫んだのはリヴァル。

クラスメイトはぎょっとした様子でリヴァルを見た。

皇帝陛下とその騎士を呼び捨て、とでも危惧したのだろう。

しかし当然咎めることをしないルルーシュは振り返って首を傾げた。


「どうした?」

「もう帰ってこないのか!?」

「何とも・・・言えないな。これから就任会見をして俺の存在が世界に知られれば、普通にこの学園に通っているだけで皆に迷惑がかかるかもしれないし。」


暗殺がないとは限らない。

今回みたいに学園が人質に取られることだって否定はできない。

それなのに。


「いいから帰ってこいよ!!そんで、またアレ行こうぜ!!」


『アレ』にスザクは眉をしかめた。

まさか、とルルーシュを睨みつけて、それにルルーシュは苦笑い。

それでも、リヴァルに微笑みかけた。


「またその内な。」


そう言って、ルルーシュは教室を出た。










人生謳歌











「そうだスザク、俺の皇帝就任とお前の騎士就任の会見はアッシュフォードの制服で出よう。」

「・・・本気?」

「ああ、本気さ。」





リクエスト内容:スザルルで、ルルーシュが皇帝。正式な皇帝お披露目までアッシュフォードにお忍びで通って、バレ有で。
皇帝バレっていうのも新鮮でいいですねー^^
思えば私それ系の同盟の管理人もやってるはずなのにバレネタが極端に少ない気がす・・・いえ、なんでもありませんw
明菜さま、こんなものですいません。
リクエストありがとうございました!