片割れがいた。

かけがえのない存在。

生まれた時から一緒で、生まれる前も一緒だった。

傍にいるのが当たり前だと思っていた存在は簡単に失われた。

大人たちが囁く。

彼の、彼らの死を告げる。

信じることなど出来る筈がなかった。


『助けてくれ』と泣き叫びたいのを我慢したような片割れの絶望が、いつも頭に、心に響いていたから。























「・・・−ロ様、ゼロ様!」

「・・・うるさいぞ、ジェレミア。」


目を伏せたまま小さく息を吐いたゼロは、額に浮かんだ汗を拭って椅子の背もたれに背を預ける。

汗をかいたせいかは分からないが肌寒さを感じて身震いした。


「お顔の色が優れません、少しお休みに・・・」

「問題無い。」


ただ、夢見が悪いだけ。

そして胸騒ぎがするだけだ。

夢の内容は鮮明に思い出せる。

顔をぐちゃぐちゃにしているのに、泣き声すら上げることができない片割れ。

抱きしめてやりたいのに届かない手。

何故こんなにも心が揺さぶられるのだろうか。

死んだとされた愛しい片割れは、死んだあとも悲しみに暮れているのだろうか。


「それで、何だ。」

「はっ、はい。3日前暴走したトレーラーがKMFの研究施設に突っ込んで死傷者がでた事故についてなのですが・・・」

「事故原因の追及は警察の役目であって私の管轄外だろう。」

「いえ、そうではなくて・・・その死傷者・・・17歳程の青年が軽傷を負い、その妹らしい少女が死亡したらしいのですが。」


その時点で、ゼロは眉を潜めた。

まさか。


「身元確認からその少女の方が、ナナリー・ランペルージという名である、と・・・。」


さぁっと血の気が引いた。

まだ確証は無い。

ただの偶然の産物かもしれない。

それでも、もし

『ランぺルージ』という偽りのファミリーネームを掲げて密かに生きていたのなら。

死んだのが本当に妹ならば。

妹を昔から溺愛していて、恐らくエリア11に送られた後妹だけを支えに生きてきたであろう『片割れ』。

母の死で心を壊した妹と同じように、壊れてしまったら。


「・・・ジェレミア」

「その兄妹は身寄りがなく、通っているアッシュフォード学園に住んでいると。」

「・・・午後の予定はすべて消しておけ。」


ゼロが立ちあがった拍子に倒れた紅茶のカップを、黙ってジェレミアが片付ける。

何も言わない側近に心の中で感謝しながら、ゼロはマントを羽織った。



















学園内は静かだった。

授業中かとも思ったのだが、どうやらそうでもないらしい。

アッシュフォードの土地である一角に、その一族の眠る墓地があった。

そこに学生が集まっている。

人々がすすり泣く音が聞こえて、ゼロはそのまま歩みを進めた。

突如学生達の中心から悲鳴が上がる。

一気に静寂に包まれていたそこは騒がしくなり、ゼロはその学生達の波を掻き分けて中心に躍り出た。

そして息をのむ。


「だれか担架を!」


そう叫ぶ女性。

地に倒れ、その女性に抱え起こされているのは、見紛うことがない。


「ルルーシュ」


ゼロが小さく名を呼んだ。

片割れが、そこにいたのだ。

やがて周囲もゼロの存在に気づいたのか目を剥く。

どういうことだと訝しがる声を無視し、ゼロはその場に跪いた。


「ミレイ」

「・・・うそっ・・・ゼロ、さ・・・生きて・・・!?」

「ルルーシュは、無事だな?」


ぼろりと涙を零したミレイは言葉にならないようで、その代りに何度も何度も頷いた。

ミレイの腕からルルーシュを受け取る。

気を失っているらしいルルーシュの顔色は蒼白で、頭に巻かれた包帯と目元の隈が痛々しかった。

その髪を撫でてやりながらゼロは自嘲する。


「・・・皮肉なものだよ。生き別れた私達が再会するきっかけになったのが、愛する妹の死とは。」


ルルーシュを大事そうに抱きしめていると、ミレイの傍にいたリヴァルが焦ったように口を開いた。


「か、会長・・・そいつ・・・」

「・・・ルルーシュの、双子のお兄さん。」


ざわついた周囲をもろともせず、ゼロはぎゅっとルルーシュを抱きしめる。

身体は冷え切っているが、ちゃんと生きる人間としての温かさを残したその重みを噛みしめるかのようにゼロは嗚咽を堪える。


「すまない、ルルーシュ・・・お前はこんなにも近くにいたのに、私は気付いてやることも助けてやる力もなかった。」


ふっと視線を移す。

目の前には墓石。

妹の名前が彫られている。


「あの墓はアッシュフォードが?」

「それくらいしか、できませんでした・・・」

「十分だよ。我がヴィ家一族にとってアッシュフォードは何よりの力で、支えだった。」


感極まったようにミレイは泣き崩れてしまった。

ゼロがミレイに触れようと手を伸ばしたとき、その手は急にピタリと動きを止めた。

ゼロの腕の中でルルーシュが小さく身じろいだからだ。

それと見とめたゼロは一度伸ばしかけた手を一度握り、それからゆっくりとミレイに触れた。


「ミレイ、ナナリーのことをよろしく頼む。」

「ルルーシュ様は・・・」

「落ち着くまでは私の傍に置く。それからどうするかはルルーシュ次第だ。」


私の傍はルルーシュにとって居心地のいい場所ではないが。

そう言うと、目を真っ赤に腫らしたミレイは目を剥く。

大切な妹を失って傷ついた今、双子の兄の元が居心地悪いわけがない。

そう言いたげな目をしていミレイに、ゼロは表情を硬くした。


「ルルーシュが私を拒絶しても連れていく。所詮私のエゴに過ぎないが。」

「ゼロさま・・・な、に・・・」

「私が今いる場所は、このエリア11の総督府だ。」


ビクリと、ミレイが身体を震わせた。

小さく「なんで・・・」と呟いた彼女に苦笑して、ゼロは目を伏せる。


「エリア11で行方不明になったこの子たちを探せばいいと、兄上に持ちかけられた。」

「それはッ・・・!」

「利用されるのを分かって承諾したのは私の意志だ。それでも私は弟や妹に会いたかった。」


ミレイはそれきり黙りこんでしまった。

ゼロも同じように黙り込み、周囲が静寂で満ちる。

それを破るようにザッと土を踏みしめる音がして、現れた男にゼロは目を細めた。

ゼロの側近、ジェレミア。


「ゼロ様、遅くなって申し訳ありません。」

「いや、こちらこそすまなかったな。」


ジェレミアから受け取った書類に目を通し、次にその書類をミレイに渡す。


「ルルーシュをエリア11副総督補佐に任命する。」

「・・・副総督・・・!?」

「要するに、私の補佐だ。」


周囲がざわつき始める。

それもそうだろう。

突如現れた『双子の兄』は、エリア11の副総督。

副総督など、易々となれるような地位ではない。

貴族か、皇族か。

そしてその答えはゼロ本人によって明かされた。


「神聖ブリタニア帝国第11皇子ゼロ・ヴィ・ブリタニアの名において、第12皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの皇族復帰とエリア11副総督補佐に就任することを宣言する。」


その時、腕の中の存在が小さく呻いた。

ふるっと震えた瞼に、ゼロが何度もルルーシュと呼びかける。

浮上しかけた意識を逃さないように。

しばらくそうしていると、ルルーシュはゆっくり目をあけた。

あけたまま、言葉にならないようで口を数回ぱくぱくさせる。


「ぜ、ろ・・・ぜろ、ほんとうに・・・?」

「ルルーシュ」

「ぜろはしんだって・・・かあさんといっしょに・・・」

「私は生きているよ。確かに鬼籍には入ったが・・・今は、体のいい傀儡だ。」


ショックからか呼吸が荒くなっていくルルーシュに落ち着けと声をかけながら、抱きしめるようにして回した手でルルーシュの背をぽんぽんと一定のリズムで叩いてやる。


「ななり、が・・・おれ、まもってあげれなくてッ・・・」

「お前のせいじゃない。お前がナナリーを守れなかったんじゃなくて、ナナリーがお前を守ってくれたんだ。だからお前は今ここにこうしていられる。」


『守ってあげられなくてごめん』ではなく、『守ってくれてありがとう』。


ナナリーにはそう言ってあげよう、とゼロはルルーシュを宥める。

ルルーシュはしばらくの間声をあげて泣いた。






愛しの










リクエスト内容:エリア11副総督のゼロが、ナナリー死亡の報せを聞いて初めてルルーシュとナナリーの生存を知り、アッシュフォード学園に駆けつけて皇族バレ。
設定は所々無視していいというありがたーいお言葉をいただきまして、調子こいて無視しましたスイマセン。
なんかもうホント残念なブツに仕上がってしまいました…ララさま、すいません@@;