なんてことだ。

ルルーシュは絶望していた。

突如転入してきたアーニャ・アールストレイムの駆るモルドレッドが図書室の窓を破壊したとき。

咄嗟にシャーリーを庇おうと地下司令室から飛び出してしまった。

作戦を変更せざるを得なくなったうえに・・・。


「副会長の帽子は我がラグビー部が頂いた!!!」


シャーリーとの会話に気を取られて帽子を奪われてしまったのだ。

意味がない。

これでは全く意味がないではないか。

咲世子の天然っぷりのおかげで唯でさえ人間性が疑われる恐れがあるというのに。

体力がないはずのルルーシュがありえない動きをしたことまではどうにかなるだろう。

しかし問題は女子生徒による誘惑作戦。


「女体に意味はありまっせん!!」発言で影響を受けたらしい男子生徒が怪しい目つきで息舞ている。


鈍感なルルーシュはそれについては分からないといった風に首を傾げているが。

何はともあれ、といわんばかりに校庭まで引きずられる。

そこで待ち受けていたのは笑顔のミレイ・アッシュフォードだった。

部費10倍の褒美目当てにルルーシュの帽子を持って来い、と指示したのも彼女。

ラグビー部によってルルーシュの帽子はミレイの手に渡った。

生徒会長命令で、これでミレイとルルーシュは恋人同士。

ミレイは愛しそうに青いハート型の帽子を抱き締めた。


「会長、もういいでしょう?悪ふざけは・・・」

「悪ふざけじゃないんだなー、これが。」


自分の頭に乗っていたピンクの帽子をルルーシュに被せ、代わりに青い帽子を被る。

そしてミレイはのたまった。


「いい加減腹括ってちょうだい。私待ち疲れちゃった。」

「・・・なん、の・・・話だ。」

「そりゃ分かってたわよ?ルルちゃんは女の子相手にも受け身体質でうぶで奥手で。でも別にルルちゃんに甲斐性なんて求めてない。勿論地位がほしいわけでもないし、政略だって周りは言うけど私はそうは思ってないわ。」


そこで周囲のギャラリーはん?と首を傾げた。

黙って聞いていれば、まるでそれは。


「待て、ミレイ。これ以上は・・・!」

「じゃあ覚悟決めて。」

「俺はッ・・・」

「うん、それは分かってる。私の我儘で貴方様にご迷惑をおかけすることも承知の上です。」


急にミレイは敬語になった。

ルルーシュは何故か先ほどから『会長』という呼称を『ミレイ』に改めている。


「ルルーシュ様はミレイの事がお嫌いですか?」

「・・・それを、ここで言えと?」

「いえ、お顔に出していただいているので十分ですわ。」


顔を真っ赤に染め上げたルルーシュを満足げに見つめて、ミレイはほほ笑んだ。

その笑みに若干黒いものが混じっているのだが周囲はいいとしてもルルーシュは気付かない。

ミレイはルルーシュの手を握って。

そして。


「私、ルルーシュと結婚しまーっす!」


高らかに叫んだ。

驚きに満ちるかと思えばむしろ訪れたのは静寂で、居心地の悪さにルルーシュは思わず苦笑いだ。

それもそのはず。

ミレイはアッシュフォードの一人娘。

いくら爵位を剥奪されているとはいえ元は貴族だ。

アッシュフォード家再興のためにも恐らくミレイの政略結婚は避けられないものだろう。

そして先ほどのミレイの言葉。

『地位がほしいわけでもないし、政略だって周りは言うけど私はそうは思ってないわ。』

ということは、『ランぺルージ』はアッシュフォードを再興できるほどの地位と財力を有していることになる。

しかし誰も、『ランぺルージ』などという貴族は聞いたことがない。

周囲の学生の訝しがる目線とリヴァルの涙で潤んだ眼を気にしながら、ルルーシュはため息をついた。


「どうするんだ、この事態。俺はまだこの学園を去るわけには・・・」

「別にいいじゃない、このままで。」

「・・・あのな。」

「っていうかね、私もこれで卒業じゃない?アンタの傍にはいられなくなるし、ウチにあんまりお金ないから嫁入り道具揃えるためにも働かなくちゃだから余計会えなくなるし。だから私も早めにツバつけとかないとさ。いくら元々婚約者とはいえ不安じゃない?」

「こ、こんやくしゃ!?」


今にも泣きそうな声を上げたのは勿論リヴァルだ。


「そうよ〜?私とルルーシュは小さい頃から許婚。私が6歳の時には既に決まっていたわね。」


ミレイが6歳の時。

ということは、その隣で頭を抱えているルルーシュは5歳の時。

そんな幼少の頃から許婚が決まっているということはやはり、出自が相当いいのだろうか。

そういう訝しげな視線を一身に浴びて。

ギリッと奥歯を噛みしめて、ルルーシュは踵を返した。


「ルールちゃーん!どこいくの〜?」

「教室に戻る!」

「結婚はー?」

「するさ!するべき時が来たならな!」

「りょーかい!」


ルルーシュの背中を苦笑しながら見つめて元気よく叫んだミレイは、懐から何かのリモコンを取り出した。

にやりと、その表情が楽しげに歪む。


「・・・だそうですわ、『お義理父さま』?」


ぴしり、とルルーシュの動きが停止した。

それからぎこちない動きで振り返る時、まるで油を差していない歯車のようなギギギ・・・という音を聞いた者すらいる程。

ミレイは持っていたリモコンの、一際赤く大きなボタンを押した。

すると学園の屋上あたりでガコンという大きな音がする。

そのあとウィィィ・・・という機械音と共に垂れ幕のようなスクリーンが下りてきて、ルルーシュは絶句した。

この予算不足の中いつの間にそんな設備を。

そんな驚きではない。

ルルーシュの目は、そのスクリーンに釘付けになった。


『神聖ブリタァァァニア帝国第98代皇帝ぃぃぃ、シャァァルル・ジ・ブリタァニアァの名において宣言するぅ〜。』


あ、皇帝だ。

そう呟いた生徒がいた。


『あ、皇帝だ』・・・じゃない。


ルルーシュは顔を真っ青にして後ずさった。



『第11皇子ルルゥゥゥゥシュ・ヴィ・ブリタニアの次期皇帝就任ならびにぃ、大侯爵アッシュフォードのミレイ・アッシュフォード嬢との婚約をぉぉぉ!!!』


お、おお〜。

生徒達は多少呆然としてチラチラとルルーシュを見ながら、それでも皇帝陛下のお言葉だからという理由で歓声と拍手を送る。

満足そうにほほ笑むミレイと、怒りやら何やらのよく分からない感情に震えあがるルルーシュ。


「ごめんねぇルルーシュ。」

「・・・ミレイ。」

「皇帝陛下とね、賭けをしてたの。もし『あのルルーシュ』が私と結婚するって言ったら、帝位はルルーシュにって。ルルちゃん皇帝になって国を変えてやりたいって言ってたでしょ?」


恋に奥手、というよりはあまり色恋沙汰に興味のないルルーシュ。

しかし皇帝になれば、皇妃を召し上げ、子をなさなければならない。

一国を統べる者の素質に唯一その点が欠けていた


『それぐらいの度胸がなければぁあ、皇帝になどなれぬわぁぁぁ。』

「ってなわけで皇帝就任おめでとう。さぁ式を挙げるわよ!」


お願いだから待ってくれ。

そんな悲痛な叫びは誰の耳にも届かない。





キューピットの逆襲









リクエスト内容:学園全体に皇族婚約バレ
見るからにやっつけ仕事っぽいですが私一応精一杯頑張りました…@@
やっぱりヘタレルルーシュにはぐいぐい引っ張ってくれるお姉さんタイプがいいとおもi(ry
お待たせして申し訳ありませんでしたー@@